現存する日本最古の公共温室

名古屋市東山植物園温室前館(なごやしひがしやましょくぶつえんおんしつぜんかん)は、愛知県名古屋市千種区田代町にある昭和11年(1936年)竣工の温室建築で、平成18年(2006年)12月19日に国の重要文化財に指定された。

設計は名古屋市土木部建築課。柴田善信、公文勝年、一圓俊郎らが担当し、施工は株式会社北川組があたった。開館は昭和12年3月3日、東山植物園の開園と同じ日である。当時は「東洋一の水晶宮」と呼ばれ、現在も日本に残る公共温室としては最も古い。

平面は外から見ただけで分かるほど整理されている。中央に背の高いヤシ室を置き、その正面中央に玄関を張り出す。東翼にシダ室、西翼に多肉植物室を配し、それぞれを低い花卉室が中央と繋ぐ。棟高もこれに合わせて段を下りる。中央ヤシ室が12.4メートル、シダ室と多肉植物室が6.7メートル、東西の花卉室が4.8メートル。建築面積は595.98平方メートルで、東西の全長はおよそ66メートルに及ぶ。

指定基準は「歴史的価値の高いもの」

この建物に適用された指定基準は「歴史的価値の高いもの」。ただしここでいう歴史は、様式のそれではなく技術のそれである。我が国最初期の本格的な鉄骨造温室建築であり、鉄骨架構の主要部が全て電弧熔接、つまりアーク溶接で接合されている点から、最初期の全熔接建築物にも数えられる。

ここは少し立ち止まる価値がある。昭和10年代の日本で、鉄骨の接合といえばまだリベット留めが当たり前だった。リベットにはガセットプレートが要り、部材を重ねる必要があり、ハンマーを振るう空間も要る。溶接はそれらを不要にする。光を通すことが存在理由の建物にとって、この差は理屈の話では済まない。部材が細くなれば、植物に落ちる影が減る。

構造は下から順に読める。基礎と腰の部分は鉄筋コンクリート造。その上にアングル材を組んだトラスアーチを架け、中央ヤシ室・シダ室・多肉植物室では腰折れ状の入母屋形をつくる。花卉室は同じアングル材による合掌状の組立架構。外側をガラスで覆う。当初の設計図面によれば、トラスアーチの外側にアングル材の母屋を置き、アングル材の垂木を流し、垂木に銅板製の樋とマルソイドを敷いて5ミリ厚のガラスを載せ、銅板製のキャップを被せる仕様だった。

すべてが当初材というわけではない。スチールサッシュはアルミサッシュに取り替えられ、ガラス屋根も垂木より上は全面的にアルミ製に替わっている。東西の花卉室では、屋根ガラス面の外側に遮光幕装置が設置された。

8年間の閉鎖と、開園当時への復原

温室前館は平成25年(2013年)2月から閉鎖された。平成25年度から令和2年度にかけて行われたのは、応急的な補修ではなく、名古屋市が文化庁と協議しながら昭和12年の開園当初の姿へ戻す保存修理事業である。あわせて耐震補強も施された。再公開は令和3年(2021年)4月23日。前面のイタリア風洋風庭園も同時に公開されている。

植物を運び出す作業自体が難題だった。中央ヤシ室のインドゴムノキは樹高8メートル。対して扉は幅1.5から1.6メートル、高さは高くても2.6メートルしかない。枝葉を切り詰め、根の一部を剥いで、ようやく建物の外に出せる。保存すべき株にはそれぞれ同じ手間がかけられた。

内部の構成は当初のものを踏襲している。中央ヤシ室は中央部に築山を造り、北面から東西面にかけて腰壁沿いにコンクリート造の擬岩を築く。シダ室にも同様の擬岩が廻り、中央部にはかつて水槽があった。西面から南面には浅い水槽台が続く。多肉植物室は中央部と北面沿いを植込みとし、南面から東西面に植込台を廻す。東花卉室は中央に噴水、北面と南面沿いに花壇。西花卉室では東面の腰部中央に注目したい。モザイク画がはめ込まれている。

玄関を出て振り返ったところが、多くの人がカメラを向ける場所だ。建物は南面して洋風庭園に向き合い、その手前に鏡池がある。風のない日には、ガラスの建物とその映り込みが対になる。

訪問の前に

温室前館は東山動植物園の園内にあるため、入園料だけで観覧できる。開園時間は午前9時から午後4時50分(入園および入園券の発売は午後4時30分まで)。休園日は月曜日(月曜日が国民の祝日または振替休日の場合は直後の休日でない日)と12月29日から1月1日まで。入園料は大人(高校生以上)500円で、令和8年(2026年)10月1日から800円に改定される。中学生以下は無料。東山スカイタワーとの共通券もある。

最寄りは地下鉄東山線「星ヶ丘」駅6番出口から徒歩7分。植物園側の門に近いのはこちらである。「東山公園」駅3番出口からは徒歩3分だが、そこは動物園側の入口にあたるため、園内をかなり歩くことになる。撮影は個人利用であれば自由。隣接する温室後館は建替えのため令和7年(2025年)5月に閉鎖され、再開は令和12年度以降の予定。温室前館もメンテナンスのため短期間閉鎖されることがあるので、出かける前に公式の案内を確認しておきたい。

Q&A

Q名古屋市東山植物園温室前館は見学できますか。料金はいくらですか。
A東山動植物園の園内施設として公開されており、入園料だけで観覧できます。大人(高校生以上)500円で、令和8年10月1日からは800円に改定されます。中学生以下は無料です。
Q名古屋市東山植物園温室前館の開園時間と休園日を教えてください。
A午前9時から午後4時50分まで開園し、入園および入園券の発売は午後4時30分までです。休園日は月曜日(祝日・振替休日の場合は直後の休日でない日)と、12月29日から1月1日までです。
Q名古屋市東山植物園温室前館へは、どの駅から行くのが便利ですか。
A地下鉄東山線「星ヶ丘」駅6番出口から徒歩7分が便利です。「東山公園」駅3番出口からは徒歩3分ですが、そちらは動物園側の入口なので園内を長く歩くことになります。
Q名古屋市東山植物園温室前館は、なぜ重要文化財に指定されたのですか。
A我が国最初期の本格的な鉄骨造温室建築であり、鉄とガラスによる建築の造形的特質をよく示している点が評価されました。鉄骨架構の主要部がすべて電弧熔接で接合されており、最初期の全熔接建築物として建築技術史上の価値も高いとされています。
Q名古屋市東山植物園温室前館は復原されたと聞きましたが、当初のままの部分は残っていますか。
A平成25年2月から令和2年度にかけて昭和12年の開園当初の姿へ戻す保存修理が行われ、令和3年4月23日に再公開されました。鉄骨架構は残っていますが、スチールサッシュはアルミに、ガラス屋根も垂木より上はアルミ製に取り替えられています。

基本データ

名称名古屋市東山植物園温室前館
所在地愛知県名古屋市千種区田代町字瓶杁1番41
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号 02494/指定基準:歴史的価値の高いもの
指定年平成18年(2006年)12月19日
員数1棟
寸法鉄骨造、建築面積595.98平方メートル、ガラス葺。棟高は中央ヤシ室12.4メートル、シダ室・多肉植物室6.7メートル、東西花卉室4.8メートル。昭和11年(1936年)竣工
所有者名古屋市
公開状況東山動植物園の園内施設として公開。午前9時から午後4時50分(入園は午後4時30分まで)。月曜日および12月29日から1月1日は休園

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004145
文化遺産オンライン
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/196770
東山動植物園ガイド 国指定重要文化財名古屋市東山植物園温室前館
https://www2.higashiyama.city.nagoya.jp/point/detail/5/
東山動植物園 植物園の見どころ情報
https://www.higashiyama.city.nagoya.jp/05_plant/feature/
東山動植物園 開園時間・休園日・入園料
https://www.higashiyama.city.nagoya.jp/01_annai/01_01kaien/index.html

最終更新日: 2026.08.29