興正寺五重塔:名古屋の都心に佇む東海地方唯一の木造五重塔

名古屋市昭和区八事の緑豊かな丘陵に、高さ約26メートルの五重塔が静かにそびえ立っています。文化5年(1808年)に建立された興正寺五重塔は、愛知県内に現存する唯一の木造五重塔であり、東海地方全域を見渡しても他に例のない貴重な建造物です。昭和57年(1982年)に国の重要文化財に指定されたこの塔は、江戸時代後期の建築技法を今に伝えながらも、随所に古式を残す稀有な遺構として、建築史的にも高い評価を受けています。

興正寺と五重塔の歴史

興正寺は、高野山で弘法大師(空海)の五鈷杵を授かった僧・天瑞圓照(てんずいえんしょう)が、貞享3年(1686年)に八事の地に草庵を結んだことに始まります。貞享5年(1688年)には、尾張藩二代目藩主・徳川光友の帰依を受け、「八事山遍照院興正律寺」の寺号を賜りました。以来、尾張徳川家の祈願寺として栄え、「尾張高野」の名で広く親しまれてきました。

五重塔は、文化2年(1805年)に興正寺七世・真隆が「一文講」を発願し、庶民から広く浄財を集めて建立されました。一文講とは、一人ひとりが少額の寄進を重ねることで大事業を成し遂げる仕組みであり、この塔がまさに人々の信仰心の結晶であることを物語っています。文化5年(1808年)に入仏供養が行われ、完成を迎えました。

重要文化財に指定された理由

興正寺五重塔は昭和57年(1982年)2月16日に国の重要文化財に指定されました。その評価の理由は、江戸時代後期の特色と古式の技法が巧みに共存している点にあります。

塔身が細長く相輪が短い比例は近世の五重塔の典型ですが、内部構造には注目すべき古風な特徴が残されています。心柱(しんばしら)が心礎の上に直接立てられ、初重の床が土間仕上げとなっている構造は、この時代の塔としては極めて珍しいものです。また、部材の組み上げ方にも古い技法が用いられており、建築史上、江戸末期の塔として特筆すべき重要な遺構と位置づけられています。

外観は装飾を最小限に抑え、落ち着いた和様でまとめられています。二重と四重には跳高欄(はねこうらん)、三重と五重には擬宝珠高欄(ぎぼしこうらん)を配するという交互の意匠が、塔全体に繊細なリズムを生み出しています。

建築の見どころ

五重塔の初重は総間(そうま)約3.94メートルの三間五重塔婆で、屋根は本瓦葺(ほんかわらぶき)です。初重には縁(回廊)が設けられていないため、安定感のある重厚な印象を受けます。近くから見上げると、各層の屋根の流線が織りなす美しい曲線を堪能することができます。

中央間の入口には尾張徳川家の家紋「三つ葵」を配した桟唐戸(さんからど)が設けられ、脇間には連子窓(れんじまど)が配されています。これらの意匠は、徳川家の庇護のもとに建てられた由緒を静かに伝えています。

内部では、心柱に穴を穿って大日如来像を安置し、心柱の四面に仏壇を設けて金剛界四仏——阿閦如来(東)、宝生如来(南)、阿弥陀如来(西)、不空成就如来(北)——を祀っています。この配置は真言密教の金剛界曼荼羅を立体的に表現したものであり、塔そのものが一つの聖なる空間となっています。

四季折々の魅力と境内の見どころ

興正寺の境内は西山(にしやま)と東山(ひがしやま)の二つの丘にまたがり、名古屋市東部の貴重な緑地帯を形成しています。西山では南から総門、中門、五重塔、本堂が南北の軸線上に一列に並ぶ伽藍配置が見られ、古代的な寺院配置を今に伝えています。

春には桜が五重塔を柔らかなピンク色で包み、秋には境内のモミジが鮮やかな赤や金色に染まり、塔の古びた木肌との美しいコントラストを楽しめます。夜間にはライトアップが行われる時期もあり、参道から山門、大仏、五重塔へと続く幻想的な光景が広がります。

西山本堂の奥には大正時代の建築を遺す普門園(ふもんえん)があり、移築された近代和風建築の茶室「竹翠亭(ちくすいてい)」で抹茶と季節の和菓子をいただくことができます(予約優先・拝観料500円より)。茶の湯や写経の体験も事前予約で可能です。

年中行事と体験

興正寺では毎月5日・13日に縁日が開かれ、参道に露店が並んで多くの参拝者で賑わいます。特に毎月21日には「興正寺マルシェ」が開催され、地元の農産物や加工食品、工芸品など、こだわりの品々が集まります。月に一度のマルシェを楽しみにしているファンも多く、地域に根差した人気イベントとなっています。

秋の風物詩である「千燈供養会(せんとうくようえ)」は興正寺最大の行事で、幻想的な火祭りとして名古屋を代表する秋の催しとなっています。

また、普照殿1階にはライブラリーサロン「華宮(けぐう)」が設けられており、デジタルデトックスの空間として、僧侶との対話や読書、思索の時間を過ごすことができます。都会の喧騒を離れて心を整える、現代人にとって貴重なひとときです。

周辺情報

八事エリアは中京大学、南山大学、名城大学などのキャンパスが集まる文教地区であり、カフェやレストラン、ショッピング施設が充実しています。興正寺公園が寺院に隣接しており、散策の延長として訪れることもできます。

地下鉄を利用すれば、名古屋城や熱田神宮、大須商店街といった名古屋の主要観光スポットへも簡単にアクセスできます。また、同じ地下鉄沿線には東山動植物園もあり、文化財巡りと組み合わせた一日観光プランも楽しめます。近隣の桃巌寺には印象的な赤い大仏像があり、八事エリアの寺院巡りとして訪れる方も多くいらっしゃいます。

Q&A

Q五重塔の拝観料はかかりますか?
A境内の散策および五重塔の外観見学は無料です。普門園・竹翠亭の拝観は500円より(予約優先)となっています。なお、五重塔の内部は通常非公開です。
Q最寄り駅からのアクセスは?
A名古屋市営地下鉄名城線・鶴舞線「八事」駅の1番出口から徒歩すぐです。名古屋駅からは地下鉄で約20分の距離にあります。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A四季を通じて美しい境内ですが、特に紅葉の季節(11月中旬~12月上旬)は五重塔とモミジのコントラストが見事です。春の桜の時期(3月下旬~4月上旬)もおすすめです。毎月5日・13日・21日の縁日やマルシェに合わせて訪れると、一層楽しめます。
Q駐車場はありますか?
A興正寺には参拝者用駐車場があります。また、周辺にはコインパーキングも複数あります。ただし、縁日やイベント時は混雑が予想されますので、公共交通機関のご利用をおすすめします。
Q興正寺には五重塔以外にどのような文化財がありますか?
A五重塔が国の重要文化財、総門と中門が名古屋市指定文化財に指定されています。また、2010年には大日如来坐像が名古屋市指定文化財に認定されました。境内全体が江戸時代の建造物を多く残す歴史的空間となっています。

基本情報

名称 興正寺五重塔(こうしょうじごじゅうのとう)
文化財指定 国指定重要文化財(昭和57年〔1982年〕2月16日指定)
建立 文化5年(1808年)
構造 三間五重塔婆、本瓦葺
高さ 約26メートル(基壇含め約30メートル)
所有 興正寺(高野山真言宗別格本山)
所在地 〒466-0825 愛知県名古屋市昭和区八事本町78
拝観時間 8:00~17:00(境内)/普門園 10:00~16:00(予約優先)
拝観料 境内無料/普門園 500円より
アクセス 名古屋市営地下鉄名城線・鶴舞線「八事」駅より徒歩すぐ
電話 052-832-2801
公式サイト https://www.koushoji.or.jp/

参考文献

興正寺五重塔 - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/193850
興正寺 (名古屋市) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/興正寺_(名古屋市)
興正寺総門・中門・五重塔 - 名古屋市公式ウェブサイト
https://www.city.nagoya.jp/kankobunkakoryu/page/0000038210.html
八事山興正寺 - 名古屋コンシェルジュ
https://www.nagoya-info.jp/spot/detail/68/
八事山興正寺 公式サイト
https://www.koushoji.or.jp/
八事山興正寺 - GOOD LUCK TRIP
https://www.gltjp.com/ja/directory/item/15920/
愛知県の塔 興正寺五重塔
https://kawai25.sakura.ne.jp/aiti-kousyouji.htm

最終更新日: 2026.03.22