南山学園ライネルス館:名古屋に息づくヨーロッパ建築の遺産

名古屋市昭和区の八事丘陵に佇む南山学園ライネルス館は、昭和初期に建てられた本格的なヨーロッパ風の学校建築です。1932年(昭和7年)に旧制南山中学校の本館として竣工し、スイス人建築家マックス・ヒンデルが設計を手がけました。建物の名称は、南山学園の創立者であるヨゼフ・ライネルス神父に由来しています。1998年(平成10年)に国の登録有形文化財に登録されたこの建物は、現在では南山アーカイブズ(史料館)として活用されており、日本有数のカトリック系学園の歴史を今に伝える生きた文化遺産となっています。

創立者ヨゼフ・ライネルス神父の志

1922年(大正11年)、ローマ・カトリック教会の名古屋教区が設立され、神言会のドイツ人宣教師ヨゼフ・ライネルス神父が初代教区長に就任しました。ライネルス師は、名古屋の地にカトリックの精神に基づくミッションスクールを創設するという壮大な構想を抱いていました。昭和区五軒家町の八事丘陵にあった大須・万松寺所有の土地を取得し、ここに理想の学園を築くことを決意します。

1931年(昭和6年)4月に大倉組を施工者として建設に着工し、翌1932年(昭和7年)2月28日に落成しました。同年、財団法人南山中学校が設立され、旧制南山中学校が開校。ライネルス師自らが校長に就任しました。この本館を出発点として、南山学園は小学校から大学までを擁する総合学園へと成長していきます。

スイス人建築家マックス・ヒンデルの足跡

ライネルス館を設計したマックス・ヒンデル(1887〜1963年)は、スイス・チューリッヒ出身の建築家です。1924年(大正13年)に義弟ハンス・コーラ(北海道帝国大学予科のドイツ語教師)の勧めで来日し、札幌に居住して教会や学校を中心に16余りの建物を設計しました。「北海道における近代建築の開拓者」と称されるヒンデルは、ヨーロッパの伝統的な建築意匠を日本の風土に巧みに融合させる手腕で知られていました。

1927年(昭和2年)に横浜へ移り住んだヒンデルは、東京の上智大学1号館(1931年)、函館の天使の聖母トラピスチヌ修道院、新潟や宇都宮、名古屋の教会など、日本各地で数多くの建築を手がけました。ライネルス師は教会建築を通じてヒンデルと深い親交を結び、自らの学園構想にふさわしい建築家としてヒンデルを指名したのです。

文化財指定の理由とその価値

ライネルス館は1998年(平成10年)9月2日に、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。昭和初期に外国人建築家が設計した鉄筋コンクリート造の学校建築として、歴史的・建築的に高い価値を持つことが認められたものです。

特に注目すべきは、ヒンデル独特の意匠です。左右対称の外観は黄土色のテラゾー仕上げで、岩山を思わせる落ち着いた色調が特徴的です。正面玄関のポーチには古典的な円柱が配され、外壁の柱型には横目地が施されて力強い視覚的リズムを生み出しています。そして最も特異なのが、屋上パラペット(手摺壁)に刻まれた山形の透かし切り込みで、類例を見ない独創的なデザインとして高く評価されています。また、1996年(平成8年)には、隣接する講堂およびピオ11世館とともに、名古屋市都市景観重要建築物等に指定されています。

建築の見どころ

ライネルス館は鉄筋コンクリート造の地下1階・地上3階建で、建築面積は529平方メートル、延床面積は1,750平方メートルです。八事丘陵の一角を削平・盛土した敷地の南端に位置し、北側のグラウンドがライネルス館より低い位置にあるため、グラウンド側からの見え掛かりは地階を含めて4階分の堂々とした姿を見せます。この地形を巧みに活かした設計もヒンデルの手腕の表れです。

建物中央の玄関部は前方に突き出しており、正面から見たときに記念碑的な存在感を放ちます。正面玄関の突き当たりには、低い位置にあるグラウンドへと通じる階段室が配置されており、教室階と運動施設を効率的に結ぶ実用的な動線計画が施されています。周囲に建つ講堂やピオ11世館はライネルス館と同様のデザインで統一されており、戦前のカトリック系学園キャンパスとして稀有な一体感ある景観を形成しています。

南山アーカイブズ:歴史を守り伝える場

2014年(平成26年)9月、ライネルス館には南山アーカイブズが開設されました。これは南山学園史料室と南山大学史料室を統合して設立された史資料保存利用施設で、学園に関する文書や資料の収集・整理・保管・公開を行っています。館内には常設展示室が設けられ、南山学園の創立から現在に至るまでの歩みを貴重な資料とともに概観することができます。

南山アーカイブズの特徴は、学園の業務文書と歴史的資料の両方を収蔵対象としていること、さらに教員が個人で管理していた業務文書も受け入れている点にあります。年に一度の企画展や講演会、施設公開イベントなども不定期で開催されており、学園関係者のみならず一般の方にも開かれた施設となっています。

周辺の見どころ

ライネルス館が位置する名古屋市昭和区は、名古屋を代表する文教地区として知られています。周辺には魅力的なスポットが点在しており、訪問の際にはぜひ足を延ばしてみてください。昭和美術館は、茶道関連の古美術品のコレクションで知られ、尾張藩家老の旧宅を移築した「南山寿荘」などの茶室も見学できます。南山大学キャンパス内にある人類学博物館では、縄文土器をはじめとする考古学資料に実際に触れることができる体験型の展示が魅力です。

また、八事山興正寺は五重塔を擁する名刹で、秋には美しい紅葉が楽しめます。少し足を延ばせば、名古屋市民に愛される鶴舞公園があり、明治時代に開園した歴史ある総合公園として、春には桜の名所としても親しまれています。公園全域が国の登録記念物に指定されており、噴水塔や奏楽堂などの歴史的構造物も見どころです。

Q&A

Qヨゼフ・ライネルスとはどのような人物ですか?なぜ建物に名前が付けられたのですか?
Aヨゼフ・ライネルスは神言会のドイツ人宣教師で、カトリック名古屋教区の初代教区長を務めた人物です。1932年に南山中学校を創立し、自ら初代校長に就任しました。この建物は当初は南山中学校の本館でしたが、後に学園の創立者であるライネルス師の名を冠して「ライネルス館」と改称されました。
Qライネルス館の内部は見学できますか?
Aライネルス館は南山中学校・高等学校のキャンパス内に位置しています。館内に設置された南山アーカイブズでは、定期的に企画展や公開イベントが開催されています。見学を希望される方は、事前に南山アーカイブズの公式サイトで最新の開館情報やイベント情報をご確認ください。
Qライネルス館の建築的な特徴は何ですか?
Aスイス人建築家マックス・ヒンデルによる設計で、黄土色のテラゾー仕上げの外壁、玄関ポーチの古典的な円柱、外壁柱型の横目地、そして最も特徴的なのが屋上パラペットの山形の透かし切り込みです。このパラペットの意匠は、同時代の日本建築において類例が見られない独創的なものとして知られています。
Q建築家マックス・ヒンデルは他にどのような建物を設計しましたか?
Aヒンデルは1924年から1940年まで日本に滞在し、東京の上智大学1号館、函館の天使の聖母トラピスチヌ修道院、新潟・宇都宮・名古屋の教会、札幌の藤高等女学校や北星女学校の校舎など、北海道から関東・中部にかけて数多くの建築を設計しました。特に北海道では「近代建築の開拓者」と称されています。
Qライネルス館へのアクセス方法を教えてください。
A最寄り駅は名古屋市営地下鉄鶴舞線「いりなか」駅(1番出口)で、南山キャンパスまで徒歩約10分です。名城線「八事日赤」駅からも徒歩約15分でアクセスできます。名古屋駅からは、東山線で伏見駅へ行き、鶴舞線に乗り換えていりなか駅で下車するのが便利です。

基本情報

名称 南山学園ライネルス館(なんざんがくえんらいねるすかん)
設計 マックス・ヒンデル(Max Hinder, 1887〜1963年, スイス・チューリッヒ出身)
施工 大倉組
竣工 1932年(昭和7年)2月28日
構造 鉄筋コンクリート造 地下1階・地上3階建
建築面積 529 m²
延床面積 1,750 m²
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)(1998年9月2日登録)
その他の指定 名古屋市都市景観重要建築物等(1996年2月28日指定)
所在地 愛知県名古屋市昭和区五軒家町6-1
所有者 学校法人南山学園
アクセス 地下鉄鶴舞線「いりなか」駅1番出口より徒歩約10分

参考文献

文化遺産オンライン — 南山学園ライネルス館
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/138061
南山学園ライネルス館 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/南山学園ライネルス館
愛知県文化財ナビ — 南山学園ライネルス館
https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1033.html
名古屋市 — 南山学園ライネルス館・講堂・ピオ11世館
https://www.city.nagoya.jp/kankobunkakoryu/page/0000038616.html
南山アーカイブズについて — 学校法人南山学園
https://www.nanzan.ac.jp/archives/about.html

最終更新日: 2026.04.04