上の島神明神社蕃塀 ― 彫物を飾る、類を見ない石造の目隠し塀
上の島神明神社の境内の中央、石造の太鼓橋のすぐ前方に、中部地方の外から訪れた人の多くが初めて目にするであろう構造物が立つ。蕃塀である。参道を横切るように据えられ、拝殿を正面から見通せないようにする目隠しの塀である。これは石でつくられ、延長3.8メートル、昭和12年(1937年)に建てられた。文化庁はこれを端的に「特異な蕃塀」と記す。その前にしばらく立てば、理由はおのずと知れる。
塀は基壇の上に載り、円柱の主柱が入母屋造の屋根を支える。柱間には連子窓をあける。連子窓は、二つある蕃塀の型の一方を定める格子の窓である。この例が近隣の蕃塀と分かれるのは彫物にある。上部には、砕ける波のあいだを龍がうねる。腰壁には、虎と唐獅子が浮き彫りで歩む。前後には、擬宝珠を載せた控えの柱を一対設けて、全体の構えを支える。
蕃塀とは何か、なぜここに立つのか
蕃塀は地域に特有のものである。とりわけ愛知県西部の旧尾張の地に多く見られ、拝殿の前の参道上に据えられる短い塀である。役割は二つ言い習わされているが、いずれも記録に明らかではない。参拝者が正殿を直視しないようにすること、そして不浄が神に達するのを防ぐことで、後者のために土地では長く「不浄除け」と呼んできた。伊勢神宮には窓のない衝立型の蕃塀があり、尾張の神社では江戸時代に連子窓の型が発達した。当時はこれを蕃塀ではなく「透垣」と呼んでいた。
岐阜の川の島にこれが立つのは偶然ではない。川島は天正14年(1586年)の洪水で土地が中州に分かれ、国境が美濃へ移るまで、尾張に属していた。地図が変わったのちも人々は尾張の習いを保ち、神明社の参道に蕃塀を据えることもその一つだった。昭和の初め、それが石となってここに据え置かれた。
登録の理由と見どころ
この蕃塀は2007年(平成19年)10月、登録有形文化財(建造物)に加えられた。境内で一括登録された5件のうちの一つで、登録番号は21-0143。歴史的景観に寄与する点が評価され、5件のなかではもっとも希少な遺構といえる。蕃塀は本来の地域の外にあらわれることがまれで、これほど豊かな具象の彫物を伴う例も多くはない。
塀が意図するとおり正面から向き合えば、まず拝殿が見通せないことに気づく。目隠しの仕事は即座になされる。それから、近づいてよく見たい。上部の波のなかを行く龍を目で追えば、石工が水に確かな動きを与えていることが分かる。視線を下げて腰壁の虎と獅子を見、連子窓の格子を確かめ、前後に回って擬宝珠の控え柱を見る。正面の大きな銅板の鳥居と、すぐ後ろの高い反り橋のあいだに据えられたこの彫物の石塀こそ、境内が旧尾張の声でもっともはっきりと語る場面である。
Q&A
- 蕃塀とは何ですか。
- 神社の参道を横切って、拝殿の前に据えられる短い目隠しの塀です。愛知県西部の旧尾張地方と、近隣の岐阜の一部に主に見られる地域的な構造物です。
- 何のためのものですか。
- 言い習わしでは二つの役割があります。正殿を直視させないことと、不浄が神域に入るのを防ぐことです。本来の意図は記録に明らかでなく、地元では長く「不浄除け」と呼ばれてきました。
- なぜ愛知ではなく岐阜にあるのですか。
- 川島は天正14年(1586年)の洪水で国境が美濃へ移るまで尾張に属していました。人々は尾張の習いを保ち、この蕃塀もその一つで、昭和12年(1937年)に石で築かれました。
- この蕃塀の珍しさはどこにありますか。
- 規模が大きく、石でつくられ、上部に波と龍、下部に虎と唐獅子を豊かに彫っています。多くの蕃塀はより簡素なため、文化庁はこれを「特異な蕃塀」として記録しています。
- 境内のどこにありますか。
- 境内の中央、石造の太鼓橋のすぐ前方、鳥居と拝殿を結ぶ主軸の上にあります。境内に入れば見落とすことはありません。
基本情報
| 名称 | 上の島神明神社蕃塀(かみのしましんめいじんじゃばんぺい) |
|---|---|
| 所在地 | 岐阜県各務原市川島松倉町2232-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2007年(平成19年)10月2日登録(同年10月22日告示)/第56回/登録番号21-0143 |
| 時代 | 昭和12年(1937年) |
| 構造・規模 | 1基。石造目隠塀(蕃塀)、延長3.8メートル。連子窓型、入母屋造屋根。波に龍、虎・唐獅子の彫刻を飾る。 |
| 所有者 | 宗教法人神明神社 |
| 公開状況 | 公開されている境内の中央、太鼓橋の前方に位置する。 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006484
- 文化遺産オンライン(参考・朝日神社蕃塀/名古屋市の登録例)
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/598799
- 各務原市観光協会
- https://kakamigahara-kankou.jp/
最終更新日: 2026.06.25