生徒が毎朝くぐる花崗岩の門柱

岡崎市の北部、愛知県立岩津高等学校の敷地南面に、二本の角柱が立っている。花崗岩を切り出した門柱で、生徒は登校のたびにこの柱の間を通り抜ける。一見すると古い学校によくある正門だが、近づくと細部が目に入る。柱身は四隅だけを切り整え、中央の面は粗削りのまま残してある。その上に笠石を置き、頂部には直径五四センチメートルの半球が載る。学校の門としてはやや変わった意匠である。

この門柱がつくられたのは昭和十二年(一九三七年)。学校が前身の岩津農商学校として開校したのは昭和十年で、額田郡岩津町が設けた町立の実業学校だった。仮校舎での開校から二年を経て本校舎が整い、その時期に正門も据えられたとみられる。学校はその後たびたび名称と所管を変え、昭和十六年に県へ移管され、昭和二十四年に現在の愛知県立岩津高等学校となった。校地が岡崎市域に入ったのは昭和三十年の町村合併による。校名も学科も移り変わるなかで、門柱だけが据えられた場所に残り続けた。

構造は石造、間口九・一メートル、南北に脇柱を備える。昭和六十年(一九八五年)に敷地内で移設されているが、地中には当初の柱礎部が残り、もとの意匠はほぼそのまま保たれている。

学校の門が文化財になった経緯

登録に至る経緯は、ありふれた場所が価値を見いだされる過程として興味深い。平成二十七年(二〇一五年)、県立高校の卒業生や地域の人々から、母校の古い正門に価値があるのではないかという声が愛知県教育委員会に寄せられた。委員会が県下五十四校の県立高校を調査したところ、昭和二十三年の学制改革以前に建てられ、なお現役の正門として使われている門柱が十三校に確認された。名古屋大学の西澤泰彦研究室が全面的に協力し、写真と図面を整えて文化庁に申請した。

平成二十九年六月、この十三校の門柱が一括して登録有形文化財となった。県立高校の正門門柱がこの形で評価されたのは初めてのことである。岩津高校の門柱は登録番号二三〇四八五号、平成二十九年六月二十八日付で登録された。

ここで「登録」という区分について触れておきたい。国宝や重要文化財の「指定」とは異なり、登録有形文化財は日常的に使われている建造物を対象とした、より緩やかな保護の枠組みである。実物を立入禁止にして守るのではなく、使い続けながら保存することに主眼がある。十三校はいずれも、古い門柱を引退させず、現役のまま使い続ける道を選んだ。岩津高校の門柱は、造形の規範となっているものという基準で登録されている。

門前に立って見たい点

最も注目したいのは石の仕上げである。柱身の表面は江戸切こぶ出し仕上げと呼ばれる手法によるもので、面の中央を粗く残してわずかに膨らませ、縁の部分だけを直線に整えている。粗い面と切り整えた縁の対比は、午後の斜めの光を受けると一段とはっきりする。粗面が細かな影を落とし、角の稜線が鋭く際立つ。その上に笠石、さらに花崗岩の半球が載り、この門柱の独特な輪郭をつくっている。

花崗岩が選ばれていることには理由がある。岡崎は茨城の真壁、香川の庵治と並ぶ日本三大石材産地の一つで、良質な花崗岩を産し、室町後期以来の石工の技が受け継がれてきた。岡崎石工品は昭和五十四年に国の伝統的工芸品に指定されている。この門柱は、岡崎が誇る石灯籠と同じ花崗岩を、同じ石工の系譜が手がけた日常の仕事の一例といえる。

見学にあたって一点だけ留意したい。ここは現役の高等学校であり、門柱は展示物ではなく実際に使われている正門である。岡崎市は本件を見学可としており、公道から門柱を眺め、外から撮影することはできる。敷地内に立ち入らず、学校の活動を妨げないかたちで眺めれば、この門柱を本来あるべき姿、すなわち使われている状態のまま見ることができる。

周辺の見どころとアクセス

岩津高校は岡崎市の北部に位置し、市の中心部から近い。名鉄名古屋本線の東岡崎駅から名鉄バスに乗り、「東蔵前」停留所で下車して東へ徒歩約五分である。

岡崎の町そのものも訪ねる価値がある。徳川家康の生地として知られ、岡崎城とその周辺の公園が城跡を示す。市内には八丁味噌の老舗が二軒残り、長期熟成の豆味噌づくりを見学できる。門柱の石工に関心があれば、岡崎の石製品の産地を訪ねると、この門柱に仕上げを与えた花崗岩の伝統をより間近に見ることができる。

Q&A

Q門柱を見るために学校の中に入れますか。
A入れません。岩津高校は現役の高等学校で、門柱は実際に使われている正門です。岡崎市は本件を見学可としていますので、公道から門柱を眺めて外から撮影することはできますが、敷地内には立ち入らず、学校の活動を妨げないようご配慮ください。
Q普通の正門と比べて、この門柱の何が貴重なのですか。
A主に三点です。四隅だけを切り整えて面を粗く残す江戸切こぶ出し仕上げ、柱頂に載る直径五四センチメートルの花崗岩の半球、そして来歴です。昭和十二年の当初の門柱が使われ続け、平成二十九年に県立高校の正門門柱として初めて一括登録された十三校の一つです。
Q「登録」有形文化財は、重要文化財とどう違うのですか。
A登録は、現役で使われている建造物を対象とした、より緩やかな保護の制度です。国宝や重要文化財の指定に比べて制限が少なく、使い続けながら保存することを促します。十三校の門柱は、現役の正門であるからこそ登録されました。
Qこれは当初の門柱ですか、それとも建て替えられたものですか。
A昭和十二年に建てられた当初のものです。昭和六十年に敷地内で位置を移していますが、地中に当初の柱礎部が残り、移設にあたっても意匠が保たれています。
Q近くに見るべき場所はありますか。
A徳川家康の生地に建つ岡崎城と岡崎公園が中心的な見どころです。岡崎は八丁味噌でも知られ、また門柱の仕上げを生んだ花崗岩の石工の産地でもあります。

基本情報

名称愛知県立岩津高等学校正門旧門柱(旧岩津町立愛知県岩津農商学校正門)
所在地愛知県岡崎市東蔵前町字馬場5
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0485
登録年月日平成29年(2017年)6月28日
建設年代昭和12年(1937年)建設/昭和60年(1985年)移設
員数1基
構造石造、花崗岩製、間口9.1m、南北脇柱付
所有者愛知県
アクセス名鉄名古屋本線・東岡崎駅から名鉄バス「東蔵前」下車、東へ徒歩約5分
公開状況外部から見学可(敷地内は非公開)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011715
文化遺産オンライン(国立情報学研究所)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/247011
岡崎市:国登録 建造物 愛知県立岩津高等学校正門旧門柱
https://www.city.okazaki.lg.jp/1300/1304/1332/p022067.html
愛知県:登録有形文化財(建造物)の登録についてのお知らせ
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunkazai/tourokubunnkazaikenzoubutsu.html
愛知県立岩津高等学校:沿革
https://iwazu-h.aichi-c.ed.jp/cms/page-7/page-46/page-150.html
愛知県:あいちの伝統工芸品 岡崎石工品
https://www.pref.aichi.jp/sangyoshinko/densan/402.html

最終更新日: 2026.06.15