日本最初の複線用鉄橋、その1連
明治村六郷川鉄橋は、愛知県犬山市の博物館明治村に保存されている明治10年(1877年)製の錬鉄トラス橋で、平成16年(2004年)2月17日に登録有形文化財に登録された。
明治5年(1872年)に新橋と横浜の間で鉄道が開業したとき、路線上の22の橋はすべて木橋だった。なかでも川幅が最も広かったのが、東京の蒲田と神奈川の川崎を隔てる六郷川、多摩川の下流部である。複線化にあたって最初に鉄橋へ架け替えられたのがこの区間だった。新しい橋は全長およそ500メートル。流路を渡る本橋が錬鉄製のトラス桁6連からなり、その両側の低地には避溢橋が続いていた。
その本橋を構成した6連のうち1連が、明治村の4丁目41番地に立っている。桁長30メートル、桁高およそ3メートル、幅員7.5メートル。
「再現することが容易でないもの」という登録基準
登録有形文化財の登録基準は3つあり、明治村六郷川鉄橋が該当したのは3番目、再現することが容易でないものという項目である。理由は材料をたどれば見えてくる。この桁を組む部材は錬鉄で、反射炉のなかで練り上げた繊維状の鉄であり、20世紀のうちに世界的に商業生産が絶えた。鋼材で形をなぞることはできても、素材そのものは同じものにならない。
設計者は、明治政府に雇われた英国人土木技師R.V.ボイル。鉄材は明治8年(1875年)に英国リヴァプールのハミルトンズ・ウインザー・アイアンワークス社が製作した。製作者と設計者の双方を記した銘板が桁に残っており、これは珍しいことである。明治期に輸入された鉄構造物の多くは、出所を示す標識をとうに失っている。
橋には二度目の生涯があった。博物館明治村の記録は、東海道線の複々線化にともなう撤去を明治45年(1912年)としている。一方、文化庁の国指定文化財等データベースは大正4年(1915年)を移築年として記載している。撤去された桁は単線用に幅を詰められ、のちに御殿場線となる区間の酒匂川に架け直されて、昭和40年(1965年)まで使われた。その1連が犬山に運ばれ、昭和63年(1988年)に組み直された。
この工事は再組立てではなく復原だった。幅員は創建時の複線寸法に戻され、六郷川の現地では失われていた橋台と橋脚も、ボイル自身の論文の記述と古い図面をもとに石とレンガで築き直されている。
橋の上で見るべきもの
まず桁の上に立って、見上げてみるとよい。正確には、見上げる先に何もないことに気づく。明治村六郷川鉄橋はポニートラスと呼ばれる形式で、左右の上弦材が頭上で結ばれない。列車は空を頭上に置いたまま走り、三角形に組まれた骨組みは線路のすぐ脇に丸ごと露出する。斜材が交互に向きを変えて並ぶのがワーレントラスの特徴で、のちの形式が加えることになる垂直材を持たない。
足元も見てほしい。枕木がレールと直交せず、線路の方向に沿って縦に敷かれている。レールは双頭レールで、上下の断面が同じ形に圧延された英国式のもの。摩耗したら裏返して使えるという発想の産物である。どちらも現役の日本の鉄道では見られない。
鉄材に取り付けられた銘板も探してみたい。リヴァプールの製鉄所名とボイルの名が刻まれているが、小さいので気づかずに通り過ぎる人が多い。
橋のすぐ先、4丁目42番地には尾西鉄道蒸気機関車1号が据えられている。明治30年(1897年)に米国ブルックス社が製造した機関車で、同じ世代の輸入された鉄が数歩の距離に並ぶことになる。
見学のしかた
明治村六郷川鉄橋は博物館明治村の敷地内に屋外展示されており、入村料を払えば誰でも見学できる。橋そのものに別料金や予約はなく、内部という空間も持たない。
入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生は700円、未就学児は無料。開村時間は季節で変わる。4月から7月と9月・10月・3月が午前9時30分から午後5時、8月が午前10時から午後5時、11月が午前9時30分から午後4時(土曜・休日は午後5時まで)、12月から2月が午前10時から午後4時である。入村は閉村の30分前まで。休村日は年間を通じて平日に散在するので、出かける前にカレンダーを確認しておきたい。
私的な撮影に許可は要らない。三脚の使用は建物内で禁じられており、屋外構造物であるこの橋には直接かからないが、桁の上は通路でもあるので他の見学者の妨げにならないよう配慮したい。
名鉄犬山駅東口から岐阜バスの明治村線に乗って約20分。車では中央自動車道の小牧東インターチェンジから3キロメートル、駐車場は普通車1,000円である。橋は正門から見て奥まった4丁目にあるため、徒歩なら時間を見込むか、村営バスを使うとよい。
よくある質問
- 明治村六郷川鉄橋は見学できますか。料金はいくらですか。
- 見学できます。博物館明治村の敷地内に屋外展示されており、入村料に含まれます。入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生・小学生700円で、橋を見るための別料金や予約はありません。
- 明治村六郷川鉄橋はなぜ貴重なのですか。
- 日本で最初に複線用として架けられた鉄道橋の桁だからです。明治10年(1877年)に新橋・横浜間の木橋を置き換えた六郷川の橋は錬鉄製トラス6連で構成されており、明治村に残るのはそのうちの1連にあたります。
- 明治村六郷川鉄橋を設計・製作したのは誰ですか。
- 設計は明治政府のお雇い外国人だった英国人土木技師R.V.ボイル、鉄材の製作は明治8年(1875年)に英国リヴァプールのハミルトンズ・ウインザー・アイアンワークス社が担当しました。両者の名を記した銘板が桁に残っています。
- 明治村六郷川鉄橋へはどう行けばよいですか。
- 名鉄犬山駅の東口から岐阜バス明治村線で約20分です。村内では正門から離れた4丁目41番地にあたるため、徒歩なら時間に余裕をもつか、村営バスの利用をおすすめします。
- 明治村六郷川鉄橋は創建当時のままの姿ですか。
- 桁の錬鉄は明治10年(1877年)の当初材ですが、酒匂川へ移る際に単線用へ幅を詰められ、昭和63年(1988年)の犬山での復原工事で複線の幅員に戻されました。橋台と橋脚はボイルの論文と古図面に基づく再現です。
基本データ
| 名称 | 明治村六郷川鉄橋 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市内山1 博物館明治村内 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成16年(2004年)2月17日登録 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 桁長30メートル、桁高約3メートル、幅員7.5メートル |
| 所有者 | 公益財団法人明治村 |
| 公開状況 | 屋外公開、博物館明治村の入村料で見学可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「明治村六郷川鉄橋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003864
- 文化遺産オンライン「明治村六郷川鉄橋」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/116744
- 博物館明治村「六郷川鉄橋」
- https://www.meijimura.com/sight/%E5%85%AD%E9%83%B7%E5%B7%9D%E9%89%84%E6%A9%8B/
- 博物館明治村「開村スケジュール」
- https://www.meijimura.com/guide/open/
- 博物館明治村「各種料金」
- https://www.meijimura.com/guide/price/
- 博物館明治村「アクセス」
- https://www.meijimura.com/guide/access/
- 博物館明治村「明治村村内の撮影について」
- https://www.meijimura.com/photography/
最終更新日: 2026.09.03