東京から犬山へ運ばれた明治の病棟
明治村日本赤十字社中央病院病棟は、愛知県犬山市の博物館明治村にある明治23年(1890年)建設の木造平屋建の病棟で、平成16年(2004年)に登録有形文化財に登録された。
もとは東京・渋谷の広尾にあった。日本赤十字社中央病院の敷地には、ドイツのハイデルベルク大学病院にならったレンガ造2階建ての本館が正面に構え、その背後に木造の病棟9棟が廊下で環状に結ばれて並んでいた。この建物はその1棟である。
設計は宮内省技師の片山東熊。のちに赤坂離宮を手がけた建築家である。日本赤十字社の前身は、明治10年(1877年)の西南戦争で敵味方の別なく傷病兵を救護した博愛社にさかのぼる。明治19年(1886年)に日本政府がジュネーブ条約に加盟し、翌明治20年(1887年)に日本赤十字社と改称した。このとき皇室から渋谷の御料地の一部と建設資金10万円が下賜され、明治23年(1890年)に病院が完成している。
病院は昭和48年(1973年)に解体された。9棟のうちの1棟が便所棟とともに犬山へ運ばれ、明治村日本赤十字社中央病院病棟として昭和49年(1974年)に建て直されている。
登録有形文化財としての価値
明治村日本赤十字社中央病院病棟が国の登録有形文化財となったのは平成16年(2004年)2月17日で、登録番号は23-0092、適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」である。指定ではなく登録有形文化財への登録という扱いになる。
この基準がここで評価しているのは、実用一辺倒の建物に対する扱いだろう。病棟に求められるのは通風と清掃のしやすさである。煉瓦造の高い基礎が床を地面から離し、廊下は床下に風の通る高床とし、桟瓦葺の寄棟造の棟には換気塔が立つ。ここまでは機能で説明がつく。片山東熊はその上に装飾を重ねた。外壁の板はドイツ下見に張り、さらに平たい柱形を打ってハーフティンバー風に見せる。軒には透かしの飾りが回り、廊下の小壁には革紐をかたどった刻みが入る。
もう一つ、この建物は日本が輸入して後に手放した病院の平面を残している。病棟を分けて建て、廊下でつなぐ分棟式は、当時の衛生観のもとで感染に対して出された答えだった。広尾の9棟はその配置に従っていた。建て替えに際して、廃棄ではなく移築のために解体されたのがこの1棟である。
明治村日本赤十字社中央病院病棟の見どころ
まず外に立って足元を見たい。建物は煉瓦を高く積んだ基礎に載り、その先の廊下は床下を開けた高床になっている。長い側面を歩くと、病室の窓が一定の間隔で並ぶ。欄間を伴う上げ下げ窓で、両側に鎧戸が開く。この鎧戸の上部には手の込んだ透かしが入っているが、移築で建物の向きが変わったため、いまは人の目が届きにくい側に回ってしまった。
その向きの話が、この建物をいちばん面白くしている。犬山の敷地条件がもとの方位を許さず、建物は180度回して据えられた。広尾では北面にあり、乏しい光を少しでも取り込むために全面を引違のガラス窓とした廊下が、いまは南を向いている。晴れた午後にそこへ立つと、入院していた人が知らなかった明るさに包まれる。
その廊下には、桐と竹と鳳凰を浮き彫りにした額が掲げられている。移築されなかったレンガ造本館の破風を飾っていたものである。意匠は、病院の設立を後押しした昭憲皇太后のかんざしにもとづくと伝えられる。
帰りぎわに棟の上を見上げてほしい。換気塔は本来ただの設備だが、独自の軒を回し、透かしまで入れてある。
見学の方法
明治村日本赤十字社中央病院病棟は、入鹿池のほとりの起伏に富んだ敷地に広がる博物館明治村の、4丁目35番地に建つ。村内は1丁目の正門から5丁目の北口まで5つのエリアに分かれており、この建物は北寄りにあるため、北口から歩くほうが近い。
鉄道の最寄りは名鉄犬山駅。東口から岐阜バスの明治村線に乗ると、明治村停留所まで約20分で着く(五郎丸を経由する便は少し長くなる)。名古屋駅・栄からの高速バスもある。車なら中央自動車道の小牧東インターチェンジから3キロで、駐車料金は普通車1,000円。
開村時間は季節で変わる。春と秋はおおむね午前9時30分から午後5時、冬季は午前10時から午後4時に短くなる。入村は閉村の30分前までで、休村日は年間を通じて不定期に設定されるため、来村前に公式の開村日カレンダーを確認したい。入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生700円、未就学児は無料。一度退出すると同じ券では再入村できない。
個人の撮影に許可は要らない。ただし建物内での三脚・一脚の使用は禁止されており、安全のために立入りを制限している建物や部屋もあるので、現地の掲示に従いたい。
Q&A
- 明治村日本赤十字社中央病院病棟は中に入れますか?
- 入れます。ガラス張りの廊下と、そこに面した病室が見学路になっており、桐・竹・鳳凰の彫刻額も廊下に掲げられています。ただし博物館明治村では安全のために立入りを制限している建物や部屋があるため、入口の掲示を確認してください。
- 明治村日本赤十字社中央病院病棟の見学料と開村時間は?
- 単独の見学料はなく、博物館明治村の入村料に含まれます。大人2,500円、高校生1,500円、中学生・小学生700円、未就学児は無料です。開村時間は春と秋がおおむね午前9時30分から午後5時、冬季は午前10時から午後4時で、入村は閉村の30分前までです。
- 明治村日本赤十字社中央病院病棟を設計したのは誰ですか?
- 宮内省技師の片山東熊です。のちに赤坂離宮を設計した建築家で、明治23年(1890年)に広尾で完成した日本赤十字社中央病院を手がけました。この病棟と一緒に犬山へ移された付属便所も同じ設計によります。
- 明治村日本赤十字社中央病院病棟は村内のどこにありますか?
- 4丁目35番地で、村の北寄りにあります。正門より北口のほうが近い位置です。最寄り駅は名鉄犬山駅で、東口から岐阜バスに乗って約20分です。
- 明治村日本赤十字社中央病院病棟で写真は撮れますか?
- 個人の撮影であれば許可は不要です。建物内や狭い通路での三脚・一脚・レフ板・脚立の使用は禁じられており、広告や販売を目的とする撮影には事前に明治村の許可が必要です。
基本情報
| 名称 | 明治村日本赤十字社中央病院病棟 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市内山1 博物館明治村内(4丁目35番地) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成16年(2004年)登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積285平方メートル |
| 所有者 | 公益財団法人明治村 |
| 公開状況 | 博物館明治村の展示建造物として公開。入村料が必要 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「明治村日本赤十字社中央病院病棟」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003858
- 文化遺産オンライン「明治村日本赤十字社中央病院病棟」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/139628
- 博物館明治村「日本赤十字社中央病院病棟」
- https://www.meijimura.com/sight/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%B5%A4%E5%8D%81%E5%AD%97%E7%A4%BE%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E7%97%85%E9%99%A2%E7%97%85%E6%A3%9F/
- 博物館明治村「開村時間・休村日」
- https://www.meijimura.com/guide/open/
- 博物館明治村「チケット・料金」
- https://www.meijimura.com/guide/price/
- 博物館明治村「アクセス」
- https://www.meijimura.com/guide/access/
- 博物館明治村「村内での撮影について」
- https://www.meijimura.com/photography/
- 日本赤十字社「赤十字名所紀行 日本赤十字社中央病院病棟」
- https://www.jrc.or.jp/about/publication/news/20211201_022359.html
最終更新日: 2026.09.03