岡崎信用金庫資料館:旧東海道沿いに佇む大正の赤レンガ建築

愛知県岡崎市の旧東海道沿い、角地にひときわ存在感を放つ赤レンガと御影石の洋風建築。それが岡崎信用金庫資料館(旧岡崎銀行本店)です。大正6年(1917年)に岡崎銀行の本店として建てられたこの建物は、現在は国の登録有形文化財として、地域の文化発信拠点として愛されています。入館無料で、貨幣や地域の歴史に関する展示を楽しむことができます。

歴史:銀行本店から市民に愛される資料館へ

明治23年(1890年)に設立された岡崎銀行は、大正6年(1917年)に伝馬通りに本店を新築しました。設計を任されたのは、東海地方の近代建築を数多く手がけた建築家・鈴木禎次です。城下町として栄えた岡崎の中心部に誕生した本格的な洋風ビルは、近代化の象徴として人々の注目を集めました。

しかし、昭和20年(1945年)7月の岡崎空襲により、市の3分の1が被災。この建物も内部が焼失しましたが、赤レンガと御影石で造られた外壁は奇跡的に残りました。同年、岡崎銀行は国策により東海銀行(現・三菱UFJ銀行)と合併し、建物はしばらく放置されることとなります。

戦後、同じく空襲で被災した岡崎商工会議所がこの建物を買い取り、昭和25年(1950年)から会議所会館として使用しました。しかし老朽化が進み、商工会議所は新施設に移転。取り壊しの危機に瀕した建物を救ったのは、保存を求める市民の声でした。

昭和52年(1977年)、当時の岡崎信用金庫会長・服部敏郎氏が「この建物は旧岡崎銀行の本店として誕生し、当地における金融・経済の歴史そのものである。解体するには忍びない」として土地・建物を購入。戦災で失われた尖塔屋根やルネサンス式の箱型屋根などを当時の姿に復元し、昭和57年(1982年)に岡崎信用金庫資料館として開館しました。2021年春にはリニューアルオープンを果たし、新たな展示で来館者を迎えています。

設計者・鈴木禎次と師匠・辰野金吾の系譜

鈴木禎次(1870〜1941年)は静岡県出身の建築家で、明治29年(1896年)に帝国大学工科大学造家学科を卒業しました。師匠は「日本近代建築の父」と称され、東京駅や日本銀行本店を設計した辰野金吾です。鈴木は三井銀行の建築係を経て、文部省の命によりイギリス・フランスへ留学。帰国後、明治39年(1906年)に名古屋高等工業学校(現・名古屋工業大学)の教授に就任し、名古屋を拠点に活動しました。

鈴木が生涯で設計した建築物は80棟に及び、うち44棟が名古屋市内に集中していたことから「名古屋をつくった建築家」とも称されます。愛知県内に現存する鈴木の作品は、半田市の旧中埜家住宅など、わずかしか残っておらず、きわめて希少です。また、鈴木は文豪・夏目漱石の義弟(妻同士が姉妹)という文学史的にも興味深いつながりを持っていました。

登録有形文化財としての価値

岡崎信用金庫資料館は、平成20年(2008年)3月7日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。鉄筋コンクリート造2階建一部3階、スレート葺、建築面積302平方メートルの建物は、旧東海道沿いの角地に建ち、塔屋を含めたリズミカルな外観が特徴的です。

建築様式は、西洋古典の復興様式であるルネサンス様式を基調としながら、当時流行していたセセッション(19世紀末ウィーンを中心に起こった芸術革新運動)の幾何学的な意匠を織り交ぜています。古典的な格調と近代的な造形感覚が融合した、大正時代の建築美を今に伝える貴重な存在です。

昭和57年(1982年)には日本建築学会により「全国の建物2000棟」に選出。平成2年(1990年)に岡崎市都市景観環境賞を受賞し、平成29年(2017年)には岡崎市の景観重要建造物にも指定されています。

見どころ

外観:赤レンガと御影石の美しいハーモニー

建物の最大の魅力は、赤レンガと地元岡崎産の御影石(花崗岩)を組み合わせた外壁です。師匠・辰野金吾が得意とした「辰野式」の意匠—赤レンガに白い石を帯状にめぐらせるデザイン—を受け継ぎつつ、鈴木独自の幾何学的装飾を加えています。尖塔屋根、2階窓上部の半円形アーチ、丸いボール状の装飾など、見る角度ごとに異なる表情を見せる左右非対称のファサードは、建築愛好家を魅了してやみません。

1階:企画展示スペース

1階はさまざまな分野の企画展を随時開催しているギャラリー空間です。地元の歴史や文化に関する特別展、芸術作品の展示など、訪れるたびに新たな発見があります。鈴木禎次の建築作品を紹介する写真パネル展なども過去に開催されています。

2階:「お金」の世界を体験

2階は常設展示室「貨幣展示室」として、日本や世界各国の貨幣を展示しています。江戸時代の両替商を復元したコーナーは当時の金融の様子を生き生きと伝えてくれます。千両箱の重さ体験や1億円の束のレプリカを持てるコーナーは、大人も子どもも楽しめる人気の展示です。日本の紙幣に施された偽造防止技術の紹介コーナーもあり、身近な「お金」の奥深さを学ぶことができます。

旧東海道と岡崎二十七曲がり

資料館が面する道は、江戸時代に江戸と京都を結んだ旧東海道です。岡崎城下には「二十七曲がり」と呼ばれる防御のための屈曲した道筋が設けられており、資料館はこの歴史ある街道沿いに位置しています。二十七曲がりを辿りながら歩くと、江戸時代の城下町の面影を感じることができ、その途中で出会う大正の近代建築は、時代を超えた岡崎の重層的な歴史を体感させてくれます。

周辺情報

資料館は岡崎の主要観光スポットと好立地に位置しています。徳川家康生誕の城として名高い岡崎城は徒歩圏内にあり、城内の博物館や乙川沿いの桜並木とあわせて楽しめます。名鉄東岡崎駅近くの六所神社は徳川家ゆかりの安産祈願の神社として知られ、美しい朱塗りの門が印象的です。また、江戸時代から続く味噌づくりの伝統を守る八丁味噌の蔵元も近く、工場見学や味噌を使ったグルメを楽しむこともできます。

Q&A

Q入館料はかかりますか?
A入館は無料です。1階の企画展示と2階の常設貨幣展示のいずれも、どなたでも無料でご覧いただけます。
Q最寄り駅からのアクセスを教えてください。
A最寄り駅は名鉄名古屋本線「東岡崎駅」です。名古屋駅から快速特急で約30分。東岡崎駅から北へ徒歩約15分、旧東海道沿いに歩くと右手に赤レンガの建物が見えてきます。
Q外国語の案内はありますか?
A展示は主に日本語での解説となっています。ただし、貨幣の展示はビジュアル中心で、言語を問わずお楽しみいただけます。建物そのものの建築美もぜひご堪能ください。
Q写真撮影はできますか?
A外観の撮影は自由です。館内については、展示内容により撮影の可否が異なる場合がありますので、入館時にスタッフにご確認ください。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A一年を通じてお楽しみいただけますが、特におすすめは春(3月下旬〜4月上旬)です。近くの岡崎城公園は愛知県有数の桜の名所で、花見とあわせた散策が楽しめます。秋の穏やかな気候の中で旧東海道を歩くのもおすすめです。

基本情報

名称 岡崎信用金庫資料館(旧岡崎銀行本店)
設計 鈴木禎次(すずき ていじ)
竣工 大正6年(1917年)
構造 鉄筋コンクリート造2階建一部3階、スレート葺、建築面積302㎡
建築様式 ルネサンス様式を基調にセセッション(分離派)の意匠を加味
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)(平成20年3月7日登録)
所在地 〒444-0047 愛知県岡崎市伝馬通1-58
所有者 岡崎信用金庫
開館時間 10:00〜17:00
休館日 月曜日、祝日、年末年始
入館料 無料
アクセス 名鉄名古屋本線「東岡崎駅」より徒歩約15分

参考文献

岡崎信用金庫資料館(旧岡崎銀行本店) – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/142618
国登録:建造物 岡崎信用金庫資料館(旧岡崎銀行本店) – 岡崎市ホームページ
https://www.city.okazaki.lg.jp/1300/1304/1332/p021631.html
岡崎信用金庫資料館 – 岡崎信用金庫公式サイト
https://www.okashin.co.jp/local/museum/
岡崎信用金庫資料館 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A1%E5%B4%8E%E4%BF%A1%E7%94%A8%E9%87%91%E5%BA%AB%E8%B3%87%E6%96%99%E9%A4%A8
岡崎信用金庫資料館 – 岡崎おでかけナビ
https://okazaki-kanko.jp/point/428
鈴木禎次 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%88%B4%E6%9C%A8%E7%A6%8E%E6%AC%A1
「岡崎信用金庫資料館」市民の声で存続した大正期の近代建築 – LIFULL HOME'S PRESS
https://www.homes.co.jp/cont/press/reform/reform_01129/

最終更新日: 2026.03.22