大名邸の裏方に置かれた石の井戸
徳川園釣瓶井戸は、愛知県名古屋市東区徳川町にある明治33年頃(1900年頃)の石造の井戸で、平成26年(2014年)に登録有形文化財に登録された。
釣瓶とは、綱の先に付けた桶を滑車にかけ、手繰って水を汲み上げる仕掛けをいう。井戸があるのは脇長屋の東側、屋敷の表向きではなく、日々の用を担う側の一角である。文化庁の解説によれば、かつてはこの横に厩舎と馬車置場が建っていた。建物はどちらも失われ、井戸だけが残った。
この敷地の歴史は元禄8年(1695年)、尾張藩2代藩主の徳川光友が隠居所を営んだところから始まる。明治22年(1889年)に尾張徳川家が土地を取り戻して邸宅を整え、徳川園釣瓶井戸はその整備にともなって設けられた。同じ日に登録された黒門や塀と時期を同じくする。昭和6年(1931年)に名古屋市が寄付を受け、翌年に庭園が公開され、昭和20年(1945年)の空襲で建物の大半を失った。
登録の理由と価値
徳川園釣瓶井戸が国の登録有形文化財となったのは平成26年(2014年)10月7日、登録番号は23-0406である。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。員数は1基、構造は石造、面積1.6平方メートル、屋形付と記録されている。
登録は重要文化財の指定とは別の制度で、平成8年(1996年)に設けられた。おもに明治以降の建造物のうち、その場所の性格を保っているものを対象とする。井戸のような設備は従来の指定制度が拾いにくかった類のもので、徳川園の説明も、この井戸を塀と並べて「周辺建物の歴史的景観を整えている」ものと位置づけている。
もうひとつ、残り方がよい。古い屋敷に伝わる井戸は井桁だけが残り、上屋や滑車が失われている例が多い。ここでは井桁、支柱、屋根、滑車、釣瓶がそろって現存する。
井戸に要らないはずの仕事
徳川園釣瓶井戸の井桁は、花崗岩の切石を1.95メートル角に組んだものである。角石を井桁に組むこと自体は素直な手法で、ここまでは平凡な井戸に見える。
変わるのはその上だ。井桁の傍らに支柱が立ち、腕木が張り出す。どちらも鉋ではなく釿を入れたなぐり仕上で、面が細かく波打ち、横から光が当たると陰影が出る。井戸の頭には破風板を付けた小さな切妻屋根がかかり、屋根は杉皮で葺かれている。釣瓶の高さは2.4メートルを測る。
腕木から吊るされたものを見てほしい。滑車は鉄製で、円板に桜花文が透かし彫りされている。水を汲むだけなら滑車に飾りは要らない。それでもこの屋敷では飾ることを選んだわけで、表門と同じ水準の手が裏方にも及んでいたと読める。
井桁、なぐりの支柱、杉皮葺の屋根、透かしの滑車。四つを並べて見ると、徳川園釣瓶井戸は水汲みの設備というより、水を汲むという用を持たされた小さな造形物に見えてくる。
見学方法
徳川園釣瓶井戸は邸宅跡に開かれた庭園である徳川園の園内、脇長屋の東側にあり、入園すれば見学できる。開園時間は午前9時30分から午後5時30分まで、入園は午後5時まで。休園日は月曜日で、月曜が休日にあたるときは直後の休日でない日に振り替わる。年末年始は12月29日から1月1日まで。入園料は大人300円、名古屋市内在住の65歳以上は100円、中学生以下は無料。1年間有効の定期入園券は1,200円である。
個人の範囲での撮影に申請は要らないが、混雑時の三脚使用は控えるよう求められている。人物を主とした撮影や婚礼・成人式などの記念撮影は営利か否かを問わず事前申請が必要で、広告・テレビ・映画の撮影も同じ扱いになる。
JR中央本線の大曽根駅からは南出口を出て徒歩約10分、地下鉄名城線の大曽根駅からは3番出口から約15分、名鉄瀬戸線の森下駅からは約10分。基幹バスの徳川園新出来停留所からは約3分、観光ルートバスのメーグルは徳川園の前に停まる。金曜・土曜・日曜・祝日には入口近くの受付に無料のガイドボランティアが立っており、厩舎のあった位置も教えてくれる。
Q&A
- 徳川園釣瓶井戸は園内のどこにありますか
- 黒門の脇に建つ細長い建物、脇長屋の東側にあります。入園料300円を払って園内に入れば近くまで行けます。
- 徳川園釣瓶井戸はいつ頃つくられたものですか
- 文化庁は明治33年頃(1900年頃)としています。隣接する塀と同じ時期の整備によるものです。
- 徳川園釣瓶井戸で実際に水を汲めますか
- 登録有形文化財として保存されているもので、使用はできません。園は植え込み地や柵の中への立ち入りも控えるよう案内しています。
- 徳川園釣瓶井戸の見どころはどこですか
- 鉄製の滑車に桜花文の透かしが入っている点、支柱と腕木がなぐり仕上である点です。裏方の設備にここまで手を入れた例は多くありません。
- 徳川園釣瓶井戸は重要文化財ですか
- いいえ。平成26年(2014年)に登録番号23-0406で登録された登録有形文化財です。登録は指定とは別の、より緩やかな制度です。
基本情報
| 名称 | 徳川園釣瓶井戸 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市東区徳川町1001 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成26年(2014年)登録 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 面積1.6平方メートル、井桁1.95メートル角、釣瓶の高さ2.4メートル |
| 所有者 | 名古屋市 |
| 公開状況 | 徳川園の園内にあり、開園日は見学できる。入園料300円 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 徳川園釣瓶井戸
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010158
- 文化遺産オンライン 徳川園釣瓶井戸
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/234271
- 徳川園 徳川園について(登録有形文化財)
- https://www.tokugawaen.aichi.jp/about/index.html
- 徳川園 利用案内
- https://www.tokugawaen.aichi.jp/guide/index.html
- 徳川園 撮影について
- https://www.tokugawaen.aichi.jp/photo/index.html
- 名古屋市 徳川園
- https://www.city.nagoya.jp/kurashi/douro/1014853/1014854/1014865.html
最終更新日: 2026.09.01