石の痕跡から建て直された櫓
松山城太鼓門北続櫓は、愛媛県松山市丸之内にある松山城本丸で太鼓門から北へ接続する木造平屋建の単層櫓で、2024年12月3日に登録有形文化財に登録された昭和期の復元建造物である。
来歴が、同時に登録された他の3棟と異なる。太鼓門・南続櫓・太鼓櫓はいずれも昭和20年(1945年)7月26日の松山空襲で焼けた。この北続櫓は、そのときすでに存在していない。松山市は「戦前には既に失われていた」と記すだけで、失われた年を示していない。写真も図面も残らなかった。
手元にあったのは地面だった。石垣の形状、縁に並ぶ葛石の上端に残る斫りの跡、周囲の石段。これらから、かつてここに続櫓が建っていたと判断された。その読みに基づいて昭和47年(1972年)に復元され、外観の意匠は南続櫓に揃えられている。門の左右の翼が一対として見えるようにするためである。建築面積は19平方メートル。松山城の登録建造物16棟のうち、玄関に次いで小さい。
推定を推定として書いていること
松山城で重要文化財に指定されているのは現存する21棟である。この櫓は復元であり、しかも資料ではなく推定に基づく復元であるから、適用されるのは1996年創設の登録制度となる。国土の歴史的景観に寄与する建造物を対象とする制度である。
興味深いのは、その判断の道筋が文章として残されている点だ。文化庁のデータベースも松山市の解説も、この櫓を「取り戻した original」として提示していない。すでに失われていたこと、存在は石垣や石段から判断したこと、立面は隣の櫓に揃えたことを、それぞれ明記している。どこまでが証拠でどこからが推定かが読者に開示されている。城郭の復元では珍しい書き方で、実物を見る前に知っておく価値がある。
見どころ
まず南続櫓と見比べたい。仕上げは意図的に揃えてある。腰は簓子下見板張、その上は漆喰の塗籠で軒裏まで塗り込め、屋根は太鼓門上階と一連の南北棟入母屋造、葺きは本瓦葺。この相似は昭和47年の設計判断であって、往時から受け継がれたものではない。そう知って見ると、同じ景色の意味が変わる。
違いは、地面が答えを出せた部分に現れる。この櫓は19平方メートルで、南続櫓の24平方メートルより小さい。出入口は西ではなく北壁に設ける。外側にあたる東壁も、太鼓壁になっているのは一部だけで、開くのは鉄砲狭間のみである。南続櫓が矢狭間と鉄砲狭間を併せもつのとは違う。
内部は太鼓門と同じく天井を張らず、小屋の構造材と垂木、野地板が現しになる。公開はされていないが、松山市が写真を公開している。
見学方法
松山城太鼓門北続櫓は有料区域の外にあり、正対する本丸広場から無料で見学できる。内部は非公開である。門の背面側に位置するため、登ってくる途中では見落としやすい。太鼓門を抜けたところで振り返るとよい。
ロープウェイ・リフトの山頂駅である長者ヶ平からは、戸無門・筒井門を経て徒歩約10分。二之丸側からは黒門口登城道の石段を登り、本丸広場まで徒歩約40分である。ロープウェイとリフトは共通券で往復大人520円、小人260円。その先の天守観覧は別料金で大人520円、小学生160円となる。
ロープウェイの運行は午前8時30分から午後5時30分まで(季節により変動)。太鼓門には開門時間がある。個人の記念撮影に制限はない。ライブ配信、ドローン、大型機材の使用は禁止され、営利目的の撮影は松山城総合事務所への事前申請が必要である。
Q&A
- 松山城太鼓門北続櫓は資料なしにどうやって復元したのですか。
- 石垣の形状、葛石上端の斫りの跡、周囲の石段から続櫓の存在を判断し、外観の意匠は南続櫓に揃えて復元されました。
- 松山城太鼓門北続櫓は空襲で焼けたのですか。
- いいえ。太鼓門や南続櫓とは異なり、戦前には既に失われていました。松山市は失われた年を示していません。
- 松山城太鼓門北続櫓と南続櫓はどこが違いますか。
- 北続櫓は19平方メートルで南続櫓の24平方メートルより小さく、出入口は北壁にあります。東壁の一部だけが太鼓壁で、鉄砲狭間のみを備えます。
- 松山城太鼓門北続櫓の内部に入れますか。
- 内部は公開されていません。外観は本丸広場から無料で見学できます。
- 松山城太鼓門北続櫓はいつ登録されたのですか。
- 2024年12月3日に、太鼓門・太鼓門南続櫓・太鼓櫓とともに登録有形文化財(建造物)となりました。
基本データ
| 名称 | 松山城太鼓門北続櫓 |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県松山市丸之内1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 2024年12月3日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積19平方メートル |
| 所有者 | 松山市 |
| 公開状況 | 外観は本丸広場から無料で見学可。内部は非公開 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「松山城太鼓門北続櫓」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015258
- 松山市「松山城太鼓門北続櫓」(国登録文化財)
- https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kunitouroku/taikokita.html
- 松山市「松山城太鼓門ほか3棟が国の有形文化財(建造物)に登録されます」
- https://www.city.matsuyama.ehime.jp/hodo/202407/1373012024070310062.html
- 松山城総合事務所「アクセス・駐車場」
- https://www.matsuyamajo.jp/guide/access.html
最終更新日: 2026.09.03