大滝の里に構える製紙家の主屋
越前・五箇の一つ、大滝の山裾に東面して建つのが岩野平三郎製紙所の主屋である。もっとも古い部分は明治元年(1868)に遡り、以後、大正後期の増築、昭和期の改修・増築を重ねながら、工房が日本最大級の手漉き和紙の場へと育つのと歩調を合わせて姿を整えてきた。
建物は事務所の北西に接続し、街路へ顔を向ける。二階建切妻造桟瓦葺の北棟に、棟を直交させた平屋の南棟を接ぎ、東・北面には深い下屋をまわす。住まいと商いの場が一体となった構えは、この家の来歴そのものである。
登録の理由と価値
主屋は令和3年(2021)2月26日、製紙所を構成する8棟の一つとして登録有形文化財に登録された。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。住居・土蔵・製造施設がまとまって残る和紙工房の稀な事例として、群としての価値が評価されている。
岩野の名は近代日本画の歴史と分かちがたい。初代岩野平三郎(1878~1960)は内藤湖南の依頼で麻紙を研究し、日本画の画用紙「雲肌麻紙」を生み出した。横山大観が好み、後に東山魁夷や平山郁夫らも用いたこの紙を送り出す家業の采配を執ったのが、この主屋であった。
見どころ
壁の造りに目を留めたい。柱を見せる真壁造とし、腰は下見板張、一部を竪板張とする。北棟を居室部、平屋部を内玄関、南棟を台所や和室とし、用途の異なる部屋を一棟に束ねる。
製紙所は稼働中の事業体であり、主屋は街路からの眺めと、工房見学やお写経体験(要予約)と併せて味わうのがよい。近接する漆喰塗の土蔵とともに眺めれば、登録が守ろうとした落ち着いた沿道景観の要としての役割がよくわかる。
Q&A
- 主屋の内部は見学できますか。
- 主屋は稼働中の工房内にある住居兼事務所で、内部は通常非公開です。街路からの外観鑑賞のほか、製紙所が実施する工場見学・お写経体験(要予約)と併せてお楽しみください。
- いつ頃の建物ですか。
- もっとも古い部分は明治元年(1868)です。大正後期に増築、昭和期に改修・増築が加えられ、一世紀を超える岩野家の歩みを刻んでいます。
- なぜ文化財に登録されたのですか。
- 住居から製造施設まで一体で残る和紙工房の一部としての価値によります。令和3年(2021)に他の7棟とともに登録され、五箇の製紙集落の歴史的景観の保存に寄与しています。
- 岩野平三郎とは。
- 越前和紙職人の名跡です。初代が日本画用の「雲肌麻紙」を開発し、横山大観らに愛用されました。製紙所は現在も日本最大級の手漉き和紙工房です。
基本情報
| 名称 | 岩野平三郎製紙所主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 福井県越前市大滝町27字岩上4他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 令和3年(2021)2月26日 |
| 登録番号 | 18-221 |
| 員数 | 1棟 |
| 建築年代 | 明治元年(1868)、大正後期に増築、昭和期に改修・増築 |
| 構造及び形式等 | 木造2階一部平屋建、瓦葺、建築面積218㎡ |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 所有者 | 非公開 |
| 公開状況 | 稼働中の工房。外観は街路から鑑賞可。工場見学・お写経体験は要予約 |
参考文献
- 文化庁 — 国指定文化財等データベース(登録有形文化財)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013719
- 株式会社岩野平三郎製紙所 公式サイト
- https://www.iwanoheizaburouseisisho.com/
- ECHIZEN WASHI — 越前和紙工業協同組合
- https://echizen-washi.com/people/washimakers/washimakers-767/
- 越前市観光協会 — 岩野平三郎製紙所
- https://www.echizen-tourism.jp/travel_echizen/experience_detail/174
最終更新日: 2026.07.05