信洋舎製紙所とは
信洋舎製紙所は、福井県越前市定友町にある明治19年(1886年)設立の手漉き和紙の製紙所で、明治期に建てられた工場4棟が令和2年(2020年)に登録有形文化財に登録された。
読みは「しんようしゃせいしじょ」。定友町は越前和紙の産地として知られる五箇地区の集落の一つで、文化庁の解説は、大徳山のふもとに紙漉きの工房が並ぶ一帯に信洋舎製紙所の敷地があると書いている。
信洋舎製紙所はいまも紙を漉いている現役の工場である。福井県和紙工業協同組合のサイトによると、現在の主な製品は四方に耳(漉いたままの縁)を残した手漉きの名刺やはがきで、紙の厚さは約0.4mm。製紙所自身は、明治の建物と機械がそのまま残っていると紹介している。
信洋舎製紙所の来歴
創業の年は、資料によって2通りに書かれている。令和2年(2020年)3月19日の文化審議会の答申資料は、信洋舎製紙所を明治19年(1886年)に設立された製紙所と説明し、4棟のうち最も古い旧休憩場及び張場棟も同じ年の建築としている。一方、製紙所の公式サイトと福井県和紙工業協同組合の紹介は、創業を1888年としている。2つの年がそれぞれ何を起点にしているのかは、確認できた資料からは分からない。
公式サイトによれば、創業のころの信洋舎製紙所は50人前後の職人を抱えていた。初代が手がけたのは三椏(みつまた)を原料とする局紙で、製紙所はこの紙がパリの万国博覧会で金杯を受けたと紹介している。2017年の催しの出展案内では、明治以来、主に銅版画用の美術紙として海外へ輸出してきたとも説明している。現在は5代目が紙を漉いている。
工場の建物は、明治19年(1886年)の旧休憩場及び張場棟に始まり、明治後期の漉場棟まで、明治期を通じて建て足されてきた。近年では、福井県の「福井の歴史的建造物保存促進事業」を使って、令和5年度(2023年度)に屋根瓦・野地板・小屋組・内壁が修繕されている。
信洋舎製紙所の4棟と作業の流れ
信洋舎製紙所の4棟は、互いにつながって一つの工場を形づくっている。文化庁の解説から位置関係を拾うと、漉場棟の南に旧休憩場及び張場棟が接し、張場棟の西にボイラー及び旧ロール場棟、その北に旧塵取場及び仕上場棟が続く。
答申資料は、この4棟が作業の順に並んでいると説明する。棟ごとの用途を和紙づくりの工程に当てはめると、原料から塵(ちり)を取り除く塵取場、紙を漉く漉場、漉いた紙を張り板に張って乾かす張場、ロール機で紙に艶を付けるロール場、製品に仕上げる仕上場となる。塵取場と仕上場は同じ棟の1階と2階にあたるので、配置を順にたどると、作業は工場をひと回りして出発点の棟に戻ってくるように読める。
福井県の資料によると、信洋舎製紙所の建物は切妻造・桟瓦葺で、内部の壁は板壁、外壁は室内側を土壁とした縦板張りである。床は土間コンクリートで、製紙の器械を据えた区画は2階まで吹抜にし、それ以外の天井は根太天井としている。漉場棟・旧休憩場及び張場棟・旧塵取場及び仕上場棟の3棟については、文化庁の解説が、ガラス窓を広く取って光と風を入れたことを特徴に挙げている。
信洋舎製紙所の登録4件
信洋舎製紙所の4棟は、令和2年(2020年)8月17日にそろって登録有形文化財に登録された。登録番号は18-0211から18-0214までの連番で、4件とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されている。
- 信洋舎製紙所漉場棟:明治後期(1898〜1912年)、木造平屋建、瓦葺、建築面積133㎡
- 信洋舎製紙所旧休憩場及び張場棟:明治19年(1886年)、木造2階建、瓦葺、建築面積51㎡
- 信洋舎製紙所ボイラー及び旧ロール場棟:明治中期(1883〜1897年)、木造2階建、瓦葺、建築面積122㎡
- 信洋舎製紙所旧塵取場及び仕上場棟:明治32年(1899年)、木造2階建、瓦葺、建築面積101㎡
答申資料は、信洋舎製紙所を現在も地域の伝統産業を支え続けている製紙工場と位置づけている。手作業の工房にボイラーとロール機を組み込んだ構成は、文化庁が説明するとおり、手工業から近代化へ向かった明治の製紙業の歩みをそのまま示している。
信洋舎製紙所の見学と行き方
信洋舎製紙所は紙を漉き続けている私有の工場で、一般に公開された施設ではない。公式サイトには見学受付の案内が見当たらず、営業時間は月曜から金曜の午前9時から午後6時、問い合わせは主にメールで受けるとしている。仕事中は電話に出られないことがあるとも断っているので、訪ねたい場合は前もってメールで相談したい。
工房の中を見られる機会としては、越前市・鯖江市・越前町で毎年秋の3日間に開かれるオープンファクトリーの催し「RENEW」がある。信洋舎製紙所は2017年のRENEWで会期中に工房見学を受け入れ、2019年には工房での活版印刷体験と販売を行った。参加する事業者は年ごとに替わるため、出かける前に公式サイトの一覧で信洋舎製紙所の名前を確かめておきたい。
場所の目安になるのは越前和紙の里で、信洋舎製紙所はパピルス館から北東へ直線で約500mの位置にある。越前和紙の里の案内では、ハピラインふくいの武生駅から福鉄バスの南越線または池田線に乗って約30分、「和紙の里」で降りる。北陸新幹線の越前たけふ駅からはタクシーで約10分、車なら北陸自動車道の武生インターチェンジから約10分である。来訪者向けの駐車場について、製紙所の公式サイトに案内はない。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)信洋舎製紙所漉場棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013381
- 国指定文化財等データベース(文化庁)信洋舎製紙所旧休憩場及び張場棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013382
- 国指定文化財等データベース(文化庁)信洋舎製紙所ボイラー及び旧ロール場棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013383
- 国指定文化財等データベース(文化庁)信洋舎製紙所旧塵取場及び仕上場棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013384
- 文化遺産オンライン 信洋舎製紙所漉場棟
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/380557
- 文化庁 文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)令和2年3月19日
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/92100601_01.pdf
- 福井県 福井の歴史的建造物保存促進事業 実績一覧
- https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/bunshin/rekiken-jisseki-h18-.html
- 信洋舎製紙所 信洋舎について
- https://www.shinyosha1888.com/about/
- ECHIZEN WASHI(福井県和紙工業協同組合)信洋舎製紙所
- https://echizen-washi.com/people/washimakers/washimakers-698/
- RENEW 2026 公式サイト
- https://renew-fukui.com/
- RENEW 2017 信洋舎製紙所
- https://renew-fukui.com/2017/imadate/w01.html
- RENEW 2019 エキシビター 信洋舎製紙所
- https://renew-fukui.com/2019/exhibitor/echizenwashi-shinyosha/
- 越前和紙の里 アクセスマップ
- https://www.echizenwashi.jp/access/
最終更新日: 2026.10.08
基本情報
| 名称 | 信洋舎製紙所 |
|---|---|
| 所在地 | 福井県越前市定友町五字相生12他 |
| 指定 | 登録有形文化財 4件 |
| 座標 | 35.91445, 136.24762 |