茶を守るために建てられた煉瓦の蔵
前田園本店倉庫(まえだえんほんてんそうこ)は、福岡県直方市殿町にある煉瓦造及び木造二階建の倉庫で、昭和2年頃の建設とされ、平成25年(2013年)12月24日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は40-0108、建築面積は111平方メートル、員数は1棟である。
敷地の奥に東西棟で建ち、通りに面した店舗とは座敷などを挟んでつながる。屋根は切妻造の桟瓦葺で、前の店舗と同じ葺き方をとる。出入口は東妻。反対の西妻には鉄板張の扉が開き、周囲の壁には窓が穿たれている。
構造の組み合わせが目を引く。煉瓦造と木造を併用し、外壁を鉄板張とし、内部はモルタル仕上とする。直方市の説明によれば一階は土間、二階は板張りである。
なぜこの造りなのか
茶は保管の難しい商品である。湿気を吸い、周囲の匂いを移し、いったん風味が落ちれば戻らない。火もまた大敵で、木造の商家が並ぶ町では卸商の在庫が一日で消えかねない。煉瓦・鉄板・モルタルという材の選択は、この二つへの備えとして読める。ただし当時の施主や大工の意図を記した資料は公表されていないため、あくまで構造から導かれる推定にとどまる。
内部で見上げたいのは小屋組である。キングポストトラスが組まれている。明治期の技術導入とともに広まった西洋式の小屋組で、工場や倉庫、駅舎に多く採用された。同じ高さの和小屋より広い間隔を飛ばせるうえ、床に柱が立たない。荷を積む建物には都合がよい。
登録基準は店舗と同じく第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。第76回登録の一件として、前面の店舗と同日に告示された。二棟一組で登録された点に意味がある。1920年代の筑豊で、茶の卸商が敷地をどう使っていたかが、店と蔵の関係のまま残っているからである。
建設年については店舗と同じ幅がある。文化庁のデータベースは「昭和2頃/1927頃」と記す一方、直方市と地元報道は前面の店舗を大正15年(1926年)とする。決着をつける公表資料は見当たらない。
ホールとしての第二の使い道
茶の商いが退いたあと、この蔵はしばらく敷地の奥で使われないままだった。敷地全体の持ち主が替わって、状況が動いた。
直方市職員で一級建築士の塩川直登さんが、取り壊し寸前だった前面の店舗を買い取り、令和4年(2022年)4月に「塩cafe」として開いた。奥の蔵はその第二段階にあたる。改修を経て、現在は貸館「塩cafe劇場」として運用されている。
用途はコンサート、映画上映、会議、軽運動など。料金は時間単位で、会場のほかピアノ、エアコン、JBLとBOSEのスピーカー、プロジェクター、楽屋、パイプ椅子50脚までが個別に設定されている。コンセントは14か所を一口ずつ数え、タコ足配線は不可とされる。展示物としてではなく、稼働する施設として管理されていることが、この細かさから読み取れる。
訪問時にできることも、そこから決まる。外観は塩cafeの敷地内から見られる。内部が開くのはイベント開催時か、貸館として予約が入っているときである。じっくり見たい場合は、いきなり奥へ進むのではなく、電話またはLINEで事前に問い合わせたい。日常的に使われている私有地である。
行き方は店舗と同じで、JR直方駅東口から徒歩10〜11分、商店街を抜けて殿町方面へ。駐車場は敷地内にある。二棟は同じ敷地にあるため、多くの人は一度の訪問で両方を見ることになる。通りに向いた黒漆喰と銅板の正面と、奥に控える鉄板張の外壁。同じ商家が同じ時期に建てた二棟で、素材の扱いがここまで違う点は見比べる価値がある。
Q&A
- 前田園本店倉庫は見学できますか。
- 外観は同じ敷地の「塩cafe」の敷地内から見学できます。内部が公開されるのはイベント開催時、または貸館として予約が入っているときです。内部を見たい場合は電話またはLINEで事前に問い合わせてください。私有地であり日常的に使用されています。
- 前田園本店倉庫は現在どのように使われていますか。
- 貸館「塩cafe劇場」として運用されています。コンサート、映画上映、会議、軽運動などに利用でき、会場のほかピアノ、プロジェクター、スピーカー、パイプ椅子50脚などが時間単位の料金で用意されています。
- 前田園本店倉庫の構造にはどんな特徴がありますか。
- 煉瓦造と木造を併用した二階建で、外壁を鉄板張、内部をモルタル仕上とします。小屋組にはキングポストトラスを用います。明治期以降に普及した西洋式の小屋組で、柱を立てずに広い床面を確保できるため、倉庫に適した構法です。
- 前田園本店倉庫はいつ文化財に登録されましたか。
- 平成25年(2013年)12月24日、第76回登録で国の登録有形文化財(建造物)となりました。登録番号は40-0108です。建設年は文化庁のデータベースが昭和2年(1927年)頃、直方市と地元報道は前面の店舗について大正15年(1926年)としており、資料間に1年の差があります。
- 前田園本店倉庫と前田園本店店舗の関係は。
- 同じ殿町590-1の敷地に建つ二棟で、同じ日に登録されました。通りに面するのが店舗、その後方に座敷などを挟んで建つのが倉庫です。茶の卸商が敷地をどう構成していたかが、二棟の配置に残っています。
基本情報
| 名称 | 前田園本店倉庫(まえだえんほんてんそうこ)/通称 旧前田園本店倉庫 |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県直方市殿町590-1(住居表示 殿町12-23) |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) 登録番号40-0108、第76回登録 |
| 指定年 | 平成25年(2013年)12月24日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 煉瓦造及び木造2階建、瓦葺、建築面積111平方メートル。切妻造桟瓦葺、小屋組はキングポストトラス |
| 所有者 | 個人(国のデータベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 外観は塩cafeの敷地内から見学可。内部はイベント開催時または貸館予約時に「塩cafe劇場」として利用可能 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 前田園本店倉庫
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009852
- 文化遺産オンライン 前田園本店倉庫
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/231961
- 塩cafe劇場 貸館案内
- https://shiocafe.jp/
- 塩cafe 店舗情報・アクセス
- https://www.shiocafe.com/about.php
- ささっとー(読売新聞西部本社) 蔵の改修に触れた記事
- https://sasatto.jp/article/entry-3726.html
最終更新日: 2026.08.25