三棟でいちばん大きい南端の蔵

鶴味噌並倉南棟は、福岡県柳川市三橋町江曲にある煉瓦造平屋建の味噌蔵で、明治39年(1906年)頃の建築に大正7年(1918年)の増築が加わり、平成12年(2000年)12月4日に国の登録有形文化財となった。

建築面積は70平方メートル。北棟の62平方メートル、中棟の45平方メートルを上回り、三棟で最も大きい。文化庁が持つ年代データに従えば、最も古いのもこの南棟である。ただし同じ文化庁の解説文は、隣の中棟について、煉瓦造の蔵として最初に建てられたと伝わる、と記している。所有者の鶴味噌醸造は自社サイトで南棟1906年・中棟1910年・北棟1918年という並びを示す。三者の記述は照合されないまま残っており、個々の年代は暫定的なものと受け取っておくのが正確だろう。

建物を所有するのは明治3年(1870年)創業の鶴味噌醸造。三棟はいずれも麹室として建てられた。蒸した米や麦に麹菌をつけ、仕込みに回すまで温度を保って繁殖させる部屋である。数日にわたって熱を抱え続ける必要があり、木造の小屋でそれをやれば火鉢を焚くことになって火の危険がついて回った。煉瓦はその二つの問題に同時に答えている。

洋式トラスと、隙間を埋めた壁

登録番号は40-0018、第27回登録。告示は平成12年12月20日で、適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

小屋組はキングポストトラス。煉瓦造とともに日本へ入り、明治期の工業教育を通じて広まった西洋式の架構である。隣の中棟はこれとまったく違う。登梁を中柱で受ける和小屋、つまり日本の伝統的な組み方を採っている。十メートルほどしか離れていない二棟が別々の構造原理で立ち、それでいて掘割から見れば一つの建物群として目に入る。

三棟が一体に見える仕掛けは、棟と棟の隙間にある。南棟と中棟が接するところには小規模な切妻屋根が架けられ、その下の間隙に煉瓦の壁が築かれている。壁面を横切り、そのまま主棟の軒下へ続いていくのが、鋸歯飾りを刻んだ胴蛇腹だ。同じ意匠を北棟も持つ。十年ほどの幅をもって別々に建てられた三棟が、この一本の線によって南端から北端まで繋がって見える。

文化庁の解説文が評価しているのも、その効果である。三棟の煉瓦妻面が掘割に向き合い、水郷柳川の歴史的景観をかたちづくっている、と。登録から15年後、同じ論点がより高い水準で確認された。平成27年(2015年)3月10日、並倉は国指定名勝「水郷柳河」の指定地に含まれた。旧柳川城下に張りめぐらされた掘割、詩人・北原白秋の生家、白秋作品に描かれた神社境内とあわせ、指定面積は184,291.88平方メートルにおよぶ。白秋自身もこの並倉を詩に詠んでいる。もっとも彼の詩句のなかでは、味噌ではなく醤油の並倉として登場する。

外観だけが見どころではない。かつては汲水場が併設され、掘割の水を直接工場へ引き込んでいたという。設備そのものは失われたが、三棟が水に向かって建っている理由はそこにある。

どこに立って見るか

並倉は稼働中の工場で、一般公開はされていない。煉瓦の部屋は冷蔵室・温蔵室に改修され、いまも生産に使われている。鶴味噌醸造は予約制で工場見学と味噌づくり体験を受け付けており、門の内側に入る方法はこれだけである。

西鉄柳川駅までは、西鉄天神大牟田線の特急で西鉄福岡(天神)駅から約50分。川下りの乗船場はいずれも駅から徒歩5〜10分の範囲にある。通常の片道コースは約3キロメートルを約60分、大人2,000円、5歳から小学生までの小人1,000円。並倉が視界に入るのは乗船から20分ほど、内堀コースと外堀コースが分かれる地点にあたる。

時期については一つ注意がある。2月中旬から下旬にかけて掘割の清掃のために水を落とす「水落ち」の期間があり、各社とも短縮コースのみの運航に切り替わる。日程は毎年変わるので、2月に訪ねるなら事前確認が要る。

陸から見るなら壇平橋へ。工場の脇に架かる古い木橋で、映画のロケにも使われてきた。橋の上からは南棟の長い側面が見え、鋸歯飾りの胴蛇腹が北へ向かって三棟を貫いていくのが追える。拝観料はなく、橋上や公道からの撮影に制限もない。日没前の時間帯を選ぶとよい。西日が煉瓦に色を積み、掘割の水面がもう一組の並倉を返してくる。

名称について補足すると、ここでいう「並倉」は柳川の鶴味噌醸造の三棟を指す通称であり、他地域の同名の倉庫群とは別物である。船頭には「鶴味噌の並倉」と伝えれば通じる。

Q&A

Q鶴味噌並倉南棟はいつ建てられたのですか。
A文化庁のデータベースは明治39年(1906年)頃の建築、大正7年(1918年)に増築としています。所有者の鶴味噌醸造も1906年としています。ただし文化庁の中棟の解説文には、中棟が煉瓦造の蔵として最初に建てられたと伝わる旨の記述があり、三棟の建設順序は完全には確定していません。
Q鶴味噌並倉南棟は中棟とどこが違いますか。
A構造と規模が違います。南棟は西洋式のキングポストトラスを小屋組に用い、建築面積70平方メートルで三棟最大です。中棟は日本の和小屋で45平方メートル。また南棟は鋸歯飾りの胴蛇腹を北棟と共有しています。
Q鶴味噌並倉南棟には登録有形文化財以外の指定もありますか。
Aあります。平成12年(2000年)12月4日に登録番号40-0018で単独登録されたほか、平成27年(2015年)3月10日には並倉全体が国指定名勝「水郷柳河」の指定地に含まれました。
Q川下りに乗らずに鶴味噌並倉を見ることはできますか。
Aできます。工場の脇に架かる木橋の壇平橋から、三棟をまとめて陸上から眺められます。料金はかからず、橋上や公道からの撮影にも制限はありません。
Q鶴味噌並倉を舟から見る場合、避けたほうがよい時期はありますか。
A2月中旬から下旬です。掘割の清掃のために水を落とす「水落ち」の期間にあたり、各舟会社とも短縮コースのみの運航になります。日程は毎年変動するため、舟会社への事前確認をおすすめします。

基本情報

名称鶴味噌並倉南棟(つるみそなみくらみなみとう)
所在地福岡県柳川市三橋町江曲216
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 40-0018。国指定名勝「水郷柳河」の指定地内(2015年)
指定年平成12年(2000年)12月4日登録、同年12月20日告示(第27回登録)
員数1棟
寸法煉瓦造平屋建、瓦葺、建築面積70平方メートル
所有者鶴味噌醸造株式会社
公開状況外観は川下りおよび壇平橋から見学可。内部は工場として稼働中で、見学は予約制のみ。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 鶴味噌並倉南棟
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002100
文化遺産オンライン — 鶴味噌並倉南棟
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/186830
鶴味噌醸造株式会社 — 並倉について
https://tsurumiso.co.jp/namikura
柳川市 — 国指定名勝「水郷柳河」
https://www.city.yanagawa.fukuoka.jp/rekishibunka/bunkazai/kunibunkazai/kunibunkazai_suikyoyanagawa.html
柳川市観光公式サイト — 柳川川下り完全ガイド
https://www.yanagawa-net.com/features/5576/

最終更新日: 2026.08.25