本町通りの東側に残る生糸商の屋敷
中村弥市商店・中村家住宅は、群馬県桐生市本町一丁目にある生糸商中村家の屋敷で、明治27年(1894年)の奥座敷から昭和12年(1937年)頃の文庫蔵や石蔵までの7件が、平成17年(2005年)11月10日にそろって登録有形文化財に登録された。読みは「なかむらやいちしょうてん・なかむらけじゅうたく」。
7件のうち、店舗・文庫蔵・新座敷・石蔵の4件は「中村弥市商店」、奥座敷・浴場・門の3件は「中村家住宅」の名で登録有形文化財になっている。名前は二つに分かれているが、登録番号は10-0136から10-0142までの連番で、所在地も同じ本町1-6-33である。桐生市はこれを1軒の屋敷としてまとめ、「中村弥市商店・中村家住宅」と呼んでいる。
「中村弥市商店」は、いまこの屋敷で営まれている塗料店の名である。表の店が商いの顔で、奥が一家の住まいという、桐生の商家の構えがそのまま二つの名前に表れている。
間口約12メートル、奥行き約72メートルの敷地
中村弥市商店・中村家住宅の敷地は本町通りの東側にあり、間口が6間半(約12メートル)、奥行きが40間(約72メートル)と、通りから奥へ深く延びる短冊形をしている。桐生市によれば、この寸法は桐生新町の地割りそのものである。桐生新町は天正19年(1591年)に町立てされ、その当初の敷地割りが今も残っている。
建物は敷地の北寄りに一列に並ぶ。先頭は本町通りに面して西を向く店舗で、その奥に新座敷、文庫蔵、奥座敷が東へ向かって続く。敷地の南の辺には浴場と石蔵が接して建つ。
門は店舗の南隣で、やはり通りに面している。門をくぐると敷地の南側に通路が奥へ延び、浴場と石蔵はこの通路沿いに立つ。文化庁は、通りに店と門を並べて奥へ通路を設けるこの構えを、桐生の近代の町家の屋敷割りをよく表すものと評価している。
店舗の北側は路地に面し、新座敷の奥の文庫蔵と奥座敷も北の壁をこの路地に向けている。通りから奥へ、店舗の鼠色の漆喰壁、文庫蔵の白い壁、奥座敷の下見板張の壁と、時代も材料も違う3つの壁が並ぶ。
質屋から糸商、そして塗料店へ
桐生の中村家は、弘化3年(1846年)生まれの初代中村利八が、明治9年(1876年)に上野国山田郡休泊村大字沖之郷(現在の太田市)から分家し、桐生に移ってきたことに始まる。利八は質屋や米穀商を営んだのち、生糸の原糸を扱うようになった。明治37年(1904年)刊行の『群馬県営業便覧』には「糸商中村弥一」の名が見える。
明治から昭和の初めにかけての桐生は、近代化に成功した織物業が最も盛んな時期にあった。明治13年(1880年)生まれの初代中村弥市は多くの貸家を建て、昭和の初めにはさらに多くの家作を持った。桐生市は中村家を、生糸の商いで成功した有力な商家の一つとみている。
第二次世界大戦に召集され、復員した2代目中村弥市(大正12年・1923年生まれ)は、戦後に糸の商いを離れた。昭和33年(1958年)に塗料店「中村弥市商店」を開き、その店が今に続いている。
三つの時期に建った7件
最も古いのは奥座敷である。奥座敷に組み込まれた土蔵の梁に墨書があり、明治27年(1894年)10月16日の建設と、そのとき利八が48歳、弥市が14歳であったことが記されている。店舗はそれから28年後の大正11年(1922年)の建築で、中村家に伝わる「貸家台帳」によって建築の年月日まで分かる。
残る5件、文庫蔵・新座敷・石蔵・浴場・門は、いずれも昭和12年(1937年)頃の建築とされる。文庫蔵と新座敷には鉄筋コンクリートが使われており、文化庁は住宅に鉄筋コンクリートを用いた比較的早い例としている。浴場は、桐生市の水道が昭和7年(1932年)に完成したあとに建てられ、はじめから水道を引いた別棟だった。
- 中村弥市商店店舗:大正11年(1922年)、木造2階建、瓦葺、建築面積88㎡
- 中村弥市商店新座敷:昭和12年(1937年)頃、鉄筋コンクリート造平屋及び木造2階建、瓦葺、建築面積37㎡
- 中村弥市商店文庫蔵:昭和12年(1937年)頃、鉄筋コンクリート造2階建、瓦葺、建築面積23㎡
- 中村家住宅奥座敷:明治27年(1894年)、木造平屋建、瓦葺、建築面積85㎡
- 中村弥市商店石蔵:昭和12年(1937年)頃、石造平屋建、瓦葺、建築面積25㎡
- 中村家住宅浴場:昭和12年(1937年)頃、木造平屋建、瓦葺、建築面積6.2㎡
- 中村家住宅門:昭和12年(1937年)頃、木造、瓦葺、間口2.3m
登録の基準は、文庫蔵と新座敷の2件が「造形の規範となっているもの」、残る5件が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
見学のしかたと行き方
中村弥市商店・中村家住宅の建物は、いまも店舗と住まいとして使われている。そのため内部は公開されておらず、見学は通りからの外観に限られる。本町通りからは店舗の正面とその南隣の門がよく見える。門の内側と北側の路地の奥は私有地にかかるので、通りから眺めるだけにしてほしい。
本町一丁目と二丁目の全域、それに天神町一丁目の一部は、平成24年(2012年)7月9日に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。中村弥市商店・中村家住宅はその区域の中にある。桐生市は、保存地区の建物の多くが人の暮らす場所であることから、敷地に無断で入らず、写真は許可を得てから撮るよう求めている。
鉄道ならJR両毛線の桐生駅が近く、北口から保存地区まで徒歩で約15分かかる。おりひめバスやタクシーを使えば約5分である。東武線で来る場合は新桐生駅で降り、バスかタクシーで約10分。地区の中に駐車場はなく、車は周辺の有料のまちなか駐車場に停める。
保存地区の拠点施設であるまちなか交流館も、同じ本町一丁目の7番4号にある。観光案内とパンフレットの配布をしており、開館時間は午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)、休館日は火曜日(祝日なら翌日)や年末年始などで、見学は無料である。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)中村弥市商店店舗
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004933
- 国指定文化財等データベース(文化庁)中村家住宅奥座敷
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004937
- 国指定文化財等データベース(文化庁)中村家住宅門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004939
- 文化遺産オンライン 中村弥市商店店舗
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/184843
- 桐生市 中村家住宅(中村弥市商店 店舗)他6棟
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1002002.html
- 桐生市 国登録文化財
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/index.html
- 桐生市 桐生新町伝統的建造物群保存地区の概要について
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/spot/denken/about/1003081.html
- 桐生市 桐生新町重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)へのアクセス
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/spot/denken/about/1003105.html
- 桐生市 重伝建地区公開活用施設「まちなか交流館」施設案内
- https://www.city.kiryu.lg.jp/shisetsu/bunka/1023669/1023671.html
最終更新日: 2026.10.06
基本情報
| 名称 | 中村弥市商店・中村家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県桐生市本町1-6-33 |
| 指定 | 登録有形文化財 7件 |
| 座標 | 36.41892, 139.34471 |