渓谷の斜面を貫く、緩く湾曲した煉瓦隧道

群馬県みどり市、渡良瀬川を見下ろす斜面に、延長98メートルの単線トンネルが穿たれている。わたらせ渓谷鐵道第一神土トンネルである。坑内は直線ではなく緩やかに湾曲しており、列車の前方をのぞいても、車両が奥まで進むまで反対側の出口の光が見えない。覆工の煉瓦は4枚厚。崩れやすい山肌に対して、それだけの土圧を受け止める構えである。

竣工は大正元年(1912年)。私鉄の足尾鉄道が鉱石輸送のため渓谷を遡って敷設した路線の一部として造られた。現在の姿は後年の増設を経たものだ。東坑門には、軌道上に張り出した鉄筋コンクリート造の落石覆が据えられ、その巻厚は全長にわたって一様ではなく、位置によって変化をつけて成形されている。覆にはめ込まれた銘板に、使用材料の品質等の詳細が記される。西坑門側には玉石積の擁壁が31メートルにわたって続き、線路が切通しから抜け出る部分を支える。

鉄道隧道が登録有形文化財となった経緯

登録有形文化財の制度は、平成8年(1996年)に築かれた比較的新しい枠組みで、おおむね建設後50年を経た建造物のうち保存に値するものを、指定文化財より緩やかな規制のもとで登録する。現状を凍結するのではなく、日常の使用を続けながらその価値を認める仕組みだ。第一神土トンネルは平成21年(2009年)11月2日に登録され、告示は同月19日。第65回登録で、この路線に沿う鉄道構造物約37件が一括して登録された際の一基である。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とされる。

その歴史的景観とは、鉱山鉄道の景観である。路線の起源は、足尾銅山の鉱石を積み出すために敷かれた足尾鉄道にさかのぼる。日本を代表する産銅地であった足尾銅山は、同時に近代日本初期の公害である足尾鉱毒事件を渡良瀬川流域に残した場所でもある。鉄道は大正7年(1918年)に国有化されて国鉄足尾線となり、長く官営路線として運行された。昭和48年(1973年)の閉山で輸送量は激減し、平成元年(1989年)に第三セクターのわたらせ渓谷鐵道へ転換された。1912年の隧道や橋梁が今日まで残ったのは、転換後も列車が走り続け、これらを使い続けたためである。

車窓から見るという楽しみ方

第一神土トンネルを味わうなら、車窓が最良の席になる。この区間で線路は川に寄り添って走り、沢入駅と神戸駅の間は路線でも指折りの撮影名所で、近年は花桃が植えられて春には川岸が色づく。トンネルは約180メートル東の第二神土トンネルと近接しており、二つの隧道が短い間隔で続く。煉瓦の闇に潜り、また抜ける、その反復が渓谷の車窓に刻み目を入れる。

名称には土地の履歴が残る。「神土」は、平成元年の転換時に神戸駅と改称される以前の神土駅の名を継いだもので、トンネルは古い表記を今も掲げる。この隧道は現役の鉄道施設であり、徒歩での通行や立ち入りはできない。安全に接するには列車に乗るのがよく、暖候期に運行される窓のないトロッコ車両ならなお臨場感がある。路線初期の土木技術をじっくり見たい向きには、同じく足尾鉄道時代の神戸駅本屋を併せて訪ねたい。

Q&A

Qトンネルの中を歩いたり立ち入ったりできますか。
Aできません。現役の単線鉄道の隧道で、歩行者は入れません。わたらせ渓谷線の列車から見学するかたちになります。
Qいつ造られたトンネルですか。
A隧道本体は大正元年(1912年)の竣工です。鉄筋コンクリート造の落石覆と玉石積擁壁は、昭和4年(1929年)と昭和33年(1958年)に増設されました。
Q駅名は神戸なのに、なぜ「神土」トンネルなのですか。
Aトンネルは、昭和末まで用いられ平成元年に神戸へ改称された旧地名「神土」を残しています。近接する二基は第一・第二と番号で区別されます。
Qこの区間に乗るなら、どの季節がよいですか。
A沢入・神戸間の花桃が咲く晩春と、渓谷が色づく秋がおすすめです。トロッコ列車もこの季節に運行されます。

基本情報

名称わたらせ渓谷鐵道第一神土トンネル
所在地群馬県みどり市東町神戸
指定区分登録有形文化財(登録 平成21年11月2日/告示 平成21年11月19日)
登録番号10-0287
員数1基
年代大正元年(1912年)、昭和4年・昭和33年増設
構造及び形式煉瓦造及び石造、延長98メートル、落石覆及び擁壁付
公開状況わたらせ渓谷線の車窓から見学可。トンネル自体は非公開

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — わたらせ渓谷鐵道第一神土トンネル
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007860
わたらせ渓谷鐵道株式会社 — 沿革・歴史
https://www.watetsu.com/company/history.php
わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線

最終更新日: 2026.07.02