旙山家住宅:広島県三次市に残る江戸時代の農家建築の真髄

広島県三次市の穏やかな山間に佇む旙山家住宅(はたやまけじゅうたく)は、18世紀中期に建てられた農家住宅で、日本の重要文化財に指定されています。入母屋造の茅葺き屋根、太い多角形の曲がり柱が立ち並ぶ力強い構造、そして時代の変遷を超えてほぼ原形を保つ希有な保存状態——この住宅は、かつての日本の農村の暮らしを今に伝える貴重な文化遺産です。灰塚ダム建設に伴い水没を免れるために移築・復元されたドラマチックな歴史もまた、この住宅の魅力を一層深いものにしています。

旙山家住宅の歴史

旙山家住宅は、建築年代を直接示す史料は残されていませんが、構造手法の分析から18世紀中期(江戸時代中期)の建築と推定されています。もともと広島県中央北部の旧双三郡三良坂町灰塚に所在し、旙山家は代々この山間の地で農業を営む家柄でした。

二百年以上にわたり、大きな改変を受けることなく建ち続けてきたこの住宅ですが、20世紀後半、灰塚ダムの建設計画により集落ごとダム湖の底に沈む運命を迎えます。しかし、国の重要文化財としての価値が認められ、平成9年(1997年)から平成11年(1999年)にかけて、近隣の「のぞみが丘団地」の一角へ移築が行われました。この際、後世に加えられた増改築部分を取り除き、建築当初の姿に復元する工事が実施されています。

なぜ重要文化財に指定されたのか

旙山家住宅は、昭和53年(1978年)1月21日に国の重要文化財に指定されました。その指定理由には、いくつかの重要な要素があります。

第一に、建築年代に比して極めて古風な構造手法を残している点です。特に土間部分に立ち並ぶ太く曲がった多角形の上屋柱は、自然木の形状をそのまま活かした豪快な造りで、より古い時代の建築伝統を色濃く伝えています。この柱が並ぶ様は視覚的にも大変見応えがあり、日本の民家建築の変遷を知る上で貴重な資料となっています。

第二に、建築以来の改変が極めて少なく、保存状態が良好であることです。間取り、構造体、内部の各所がほぼ建築当初の状態を保っており、江戸時代中期の農家住宅の実態を忠実に伝えています。

第三に、整形四間取(せいけいよまどり)と呼ばれる標準的な農家の間取りを美しく備えており、中国山地内陸部の民家建築の典型例として学術的にも高く評価されています。

建築の見どころ

旙山家住宅は、桁行約14.9メートル、梁間約9.1メートルの上屋に、四周に半間(約90cm)の下屋を巡らせた入母屋造・茅葺きの住宅です。

圧巻の土間空間

大戸を入ると、三間×四間半にわたる広い土間が広がります。ここは竈(かまど)での煮炊きや農作業の準備など、農家の日常の「働く場」でした。最大の見どころは、土間に立ち並ぶ太い多角形の曲がり柱です。自然の木の曲がりをそのまま活かした豪壮な柱が、上屋の骨格を支えながら独特の力強い空間を生み出しています。

整形四間取の居住空間

床上部は「オオデ」(大出居・主たる生活の場)、「オモテ」(表座敷・接客の間)、「ナンド」(納戸・寝室)、「カッテ」(勝手・台所兼日常の部屋)の四室で構成されています。土間の柱とは対照的に、床上部の柱は鉋(かんな)で丁寧に仕上げられており、「仕事の場」と「暮らしの場」の使い分けが建築の意匠にも表れている点が興味深いところです。

美しい茅葺き屋根

入母屋造の茅葺き屋根は、腰折れの優美な曲線を描き、背景の山々と調和した美しいシルエットを見せます。近年には大規模な屋根の葺き替え修理も行われ、伝統的な茅葺き技術が次の世代へと受け継がれています。

灰塚ダムからの移築——文化財を守った大事業

旙山家住宅の歴史の中でも最もドラマチックなエピソードが、灰塚ダム建設に伴う移築です。ダム計画により旧所在地が水没予定地となったことを受け、この貴重な重要文化財を後世に残すための大規模な移築プロジェクトが実施されました。

平成9年(1997年)から平成11年(1999年)にかけて行われた工事では、建物の部材一本一本を慎重に解体・記録し、灰塚ダム生活再建地「のぞみが丘団地」の一角に運んで再建しました。移築にあたっては、後世に加えられた改変部分を取り除き、建築当初の姿への復元が行われています。平成12年(2000年)に現在地での公開が始まり、今では約270年前の建築当初に近い姿を間近に見ることができます。

周辺の観光情報

旙山家住宅は灰塚ダム周辺の豊かな自然に囲まれたエリアに位置しており、近隣には見どころが多数あります。

  • 灰塚ダム・知和ウエットランド:平成19年(2007年)に完成した日本最大級のビオトープ。バードウォッチングやカヤック体験、自然散策が楽しめます。
  • 湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム):日本初の妖怪専門博物館。妖怪コレクションの展示やチームラボの体験型展示が人気です。車で約25分。
  • 広島三次ワイナリー:製造工程の見学や地元ワインの試飲、広島和牛バーベキューが楽しめる人気スポット。
  • 広島県立歴史民俗資料館・みよし風土記の丘:中国地方最大級の古墳群とともに、地域の歴史と文化を学べる施設。
  • 奥田元宋・小由女美術館:三次市出身で文化勲章を受章した日本画家・奥田元宋と人形作家・奥田小由女の作品を展示する美術館。

アクセス・見学のご案内

旙山家住宅は、三次市教育委員会が管理しており、年間を通じて指定された開館日に見学が可能です。開館日カレンダーは三次市のホームページで公開されていますが、日程が変更される場合もありますので、事前に「文化と学びの課」へお問い合わせいただくと安心です。カレンダーに記載のない日に見学をご希望の場合も、事前連絡により対応いただける場合があります。

交通アクセスは、JR福塩線「三良坂駅」から東へ約1.5キロメートル。お車の場合は、中国自動車道「三次IC」または「庄原IC」から約15分です。周辺は山間の静かな環境のため、お車でのアクセスが便利です。

Q&A

Q入場料はかかりますか?
A旙山家住宅は指定の開館日に無料で見学できます。最新の情報は三次市のホームページをご確認いただくか、三次市教育委員会「文化と学びの課」へお問い合わせください。
Q英語の案内はありますか?
A現地の案内は主に日本語となっていますが、建築の美しさや雰囲気はどなたでも感じていただけます。翻訳アプリのご利用や、日本語が話せる方とのご訪問をお勧めします。
Qなぜ元の場所から移築されたのですか?
A旙山家住宅の旧所在地は灰塚ダムの建設によりダム湖に水没する予定地でした。この貴重な重要文化財を保存するため、平成9〜11年(1997〜1999年)にかけて近隣へ移築し、建築当初の姿に復元されました。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A四季を通じて楽しめますが、春の桜や秋の紅葉の時期は特に美しい景観とともに見学できます。夏は緑深い山里の風情、冬は雪化粧した茅葺き屋根の風景も趣がありますが、冬季はアクセスにご注意ください。
Q他の観光地と組み合わせて訪問できますか?
Aはい。灰塚ダムや三次もののけミュージアム、広島三次ワイナリーなど、近隣には多くの観光施設があります。一日かけて旙山家住宅と三次市内の文化施設を巡るプランがおすすめです。

基本情報

名称 旙山家住宅(はたやまけじゅうたく)
文化財指定 国指定重要文化財(昭和53年〈1978年〉1月21日指定)
建築年代 18世紀中期(江戸時代中期)
構造型式 入母屋造、茅葺き/桁行約14.9m、梁間約9.1m
間取り 整形四間取(オオデ・オモテ・ナンド・カッテ)+土間
所在地 広島県三次市三良坂町灰塚543番地2(移築先)
所有者 三次市
交通アクセス JR福塩線「三良坂駅」から東へ約1.5km/中国自動車道「三次IC」「庄原IC」から車で約15分
見学 指定の開館日に見学可能(三次市ホームページにて開館日カレンダーを公開)。それ以外の日は事前に三次市教育委員会へ要連絡

参考文献

旧旙山家住宅 - 三次市ホームページ
https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/soshiki/49/3526.html
旙山家住宅(広島県双三郡三良坂町) - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/176432
広島県の文化財 - 旧旙山家住宅 - 広島県教育委員会
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/bunkazai/bunkazai-data-102010380.html
国指定文化財等データベース - 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3195
旙山家住宅 - 重要文化財建造物一覧
https://historical.info-proffer.com/landmarks?separate=JSXACMR7

最終更新日: 2026.03.09