湖畔に移された大正の近代和風住宅
金原家住宅主屋(かねはらけじゅうたくしゅおく)は、広島県東広島市西条町下三永字土壇原にある木造平屋建の住宅で、大正期(1912〜1926年)の建築、平成24年(2012年)8月13日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
建築面積は231平方メートル。入母屋造桟瓦葺で、屋根の一部に銅板を用いる。四周に下屋を廻らせるため、外観は軒が二段に重なる構えとなり、縁先まで雨がかりを抑える実際的な効果も生んでいる。
正面の玄関が、この住宅の性格をもっとも端的に示す。入母屋造の玄関を張り出させ、その軒に唐破風を据える。唐破風は本来、社寺や城郭の格式を示す意匠であり、在郷の住宅の玄関先に置かれる例は多くない。施主が社寺建築を手がける大工を招いたことが、この一点から読み取れる。
もうひとつ、建物の見方を左右する事実がある。文化庁の登録原簿は年代欄に「大正期/平成9年移築」と記す。現在地に建つ姿は、建立当初の敷地のものではない。移築前の所在地について原簿は言及しておらず、本稿の調査範囲では旧地を特定できる公開資料を確認できなかった。
登録基準「造形の規範となっているもの」
日本の建造物保護には性格の異なる二つの制度がある。国宝・重要文化財は国が選び出して指定するもので、現状変更にはおおむね許可を要する。これに対し登録有形文化財は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた制度で、おおむね建設後50年を経て、なお使われ続けている建物を対象とする。大規模な変更は許可ではなく届出で足り、所有者は税制上の優遇と技術的な助言を受ける。
個人が所有し、資料館に転用する予定もない住宅を、静かに失わせないための枠組みである。金原家住宅は、この制度が想定した典型といえる。
当住宅では主屋・離れ・門の3棟が第73回の登録でまとめて登載された。登録番号は主屋が34-0130、離れが34-0131、門が34-0132。いずれも登録基準の第一号「造形の規範となっているもの」による。
主屋についての解説文は、随所に社寺建築の細部を取り入れる点を挙げ、材工ともに優れた近代和風住宅と評価する。近代和風とは、明治から昭和初期にかけて、伝統的な木造の枠組みを保ちながら、新しい資力や意匠感覚、時には新しい材料を受け入れた建築を指す語である。この屋根に用いられた銅板は、その「新しい材料」の小さな一例にあたる。
一五畳主室と吹寄折上格天井
注目すべきは15畳の主室である。およそ25平方メートル、床の間をはじめとする座敷飾を一式そなえ、住宅内でもっとも格の高い部屋として整えられている。
その上に張られるのが吹寄折上格天井である。語を分解すると構造が見えてくる。格天井は格縁を格子状に組み、間に鏡板を落とし込む形式。折上は、周囲に支輪を設けて天井面を一段持ち上げるもので、壁との取合いが平坦に終わらず、実際以上の高さと柔らかさを室内に与える。吹寄は格縁の配りかたを指し、等間隔ではなく二本ずつを寄せ、間を広くとる。均質な格子とは異なる律動が生まれる。
この三つは、いずれか一つでも格式ある室内を示す手法である。三つを重ねた天井を在郷の住宅の座敷に張るとなれば、相当の費えを覚悟した造作といってよい。
内部を見る機会があれば、意匠の目立つ箇所よりも、むしろ取合いの納まりに目を向けたい。長押や差鴨居の見付、下屋と主屋の軸部が接する部分の仕口、面取りの取りかたなど、社寺の仕事に慣れた大工の手癖は、そうした地味な箇所にこそ残る。
なお実際的な点を記しておく。当住宅は個人所有であり、公開日・拝観時間・拝観料のいずれも公表されていない。文化庁のデータベースにも所有者名および管理団体の記載はない。登録有形文化財であることは公開義務を伴わない。写真や原簿の記載、および公道からの外観を通して理解すべき建物であり、見学施設として訪ねる対象ではない。
Q&A
- 金原家住宅主屋の内部は見学できますか。
- 公開の予定は公表されていません。個人所有の住宅で、文化庁の国指定文化財等データベースにも所有者名・管理団体・公開に関する記載はありません。登録有形文化財の登録は所有者に公開を義務づける制度ではなく、居住が続いている登録住宅も数多くあります。
- 金原家住宅主屋はどこにあり、どのように行けますか。
- 登録上の所在地は広島県東広島市西条町下三永字土壇原286-5です。西条地区の南寄りにあたり、JR山陽本線の西条駅から南へおよそ4キロメートル。周辺の移動は自動車が現実的です。同じ下三永の区域には、春の桜と5月初旬の藤で知られる三永水源地堰堤があります。
- 金原家住宅主屋はいつ建てられ、現在地は当初の敷地ですか。
- 大正期(1912〜1926年)の建築です。現在地は当初の敷地ではありません。文化庁の原簿は平成9年(1997年)の移築を明記しています。ただし移築前の所在地は記載がなく、本稿の調査範囲でも確認できませんでした。
- 金原家住宅主屋はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 登録基準「造形の規範となっているもの」によります。解説文は、材料と手間の双方に優れた近代和風住宅であること、社寺建築の細部を住宅の随所に取り入れていることを評価しています。軒唐破風付の玄関、15畳主室の吹寄折上格天井などが具体的な根拠にあたります。
- 金原家住宅主屋を撮影してもよいですか。
- 公開されていないため撮影規則そのものが存在しません。公道からの外観撮影は規則ではなく常識の問題ですが、敷地内に立ち入ること、私有地の内側に向けて撮影することは避けるべきです。東広島市は市内の文化財について、撮影や火気の扱いを含めマナーを守った見学を求めています。
基本データ
| 名称 | 金原家住宅主屋(かねはらけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 広島県東広島市西条町下三永字土壇原286-5 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号34-0130 第73回登録 |
| 指定年 | 平成24年(2012年)8月13日登録・同日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積231平方メートル、木造平屋建、瓦葺一部銅板葺 |
| 所有者 | 個人(国指定文化財等データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。公開に関する情報の公表なし |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 金原家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009376
- 文化遺産オンライン 金原家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/284179
- 東広島市 市内の指定・登録文化財
- https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkaishogaigakushu/3/11/bunkazai/index.html
- 広島県教育委員会 広島県の文化財
- https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/bunkazai/
最終更新日: 2026.08.04