照林坊鐘撞堂 | 16㎡に詰め込まれた組物の語彙
照林坊の鐘撞堂は面積16㎡。小さな寝室ほどの床面積である。平成23年(2011)に一括登録された境内八棟のうち最小であり、そして木割の密度では群を抜いている。
桁行1間梁間1間。壁は一枚もない。本堂の東南、切石積の基壇の上に建つ。延享元年(1744)建立、平成6年(1994)改修。文化庁の解説文は、記述ではなく評価で締めくくられている。「近世建立になる良質な鐘楼」。
照林坊は正式には明鏡山照林坊。広島県三次市三次町1280に境内を構える浄土真宗本願寺派の寺院である。
柱を読む
足元から順に上がっていく。他に目を奪うものがないからだ。吹放ちの鐘楼には壁がない。柱が屋根を負い、中央に鐘が吊られ、構造の一切が露出している。
柱はまず礎盤に立つ。石と木の間に挟み込まれた盤である。柱は円柱で、しかも粽付。上下がわずかに絞られ、中ほどが張る形をとる。そして垂直には立っていない。内側へ傾く。内転びと呼ばれる技法で、軸部を締めるとともに、1間しかない塔身を実際より高く見せる。水平方向は柱を貫通する貫で固め、頂部には台輪をまわす。
礎盤、粽、貫、台輪。建築史がこの四つを結びつける先は禅宗様である。13世紀に宋から入った禅宗寺院の様式だ。照林坊は禅寺ではない。浄土真宗の門徒寺である。延享元年の大工がしていたのは、江戸期の大工が普段どおりにしていたこと。求める重みを担う細部を、出自を問わず選び取ることだった。
台輪の上には尾垂木付の二手先斗栱が組まれる。柱頭から二段せり出し、尾垂木が構造の内側へ伸びて軒を外へ持ち出す。斗栱は柱の上だけでなく柱間中央にも置かれ、その間には蟇股が飾られる。蟇股の系譜は逆方向、和様に属する。軒は二軒繁垂木。
屋根は入母屋造、桟瓦葺。登録番号は34-0122、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。
どこに立つか
この鐘撞堂は、国のデータベースでは「建築物」ではなく「その他工作物」に分類されている。役所的な区分だが、実態にも合っている。誰もここに住まない。鐘を頭上に保持し、それを撞く行為を境内の反対側からも見えるようにする。それだけのための構造物である。
そこが実用的なヒントになる。壁がないので軸部から組物まで外から読み切れる。客殿や御成の間と違い、見るために許可を得る必要のあるものが何もない。柱の間から見上げて斗栱の重なりを追い、それから境内の反対側まで下がって、本堂の屋根を背景にした鐘楼の輪郭を眺める。
建物どうしの位置関係も見どころだ。照林坊の伽藍配置は江戸時代から動いていない。山門をくぐり、本堂の脇を抜けて鐘撞堂へ至る道筋は、延享元年の人々が歩いた道筋そのままである。寛文5年(1665)の山門は鐘撞堂より79年古い。8年新しい経蔵は本堂の東北に立つ。その周囲を、昭和9年の客殿と御成の間が西南から埋めている。
照林坊は住職の暮らす現役の寺院で、訪問者は誰かの門徒寺の敷地に立っている。鐘は寺のものであり、自由に撞くための観光設備ではない。
Q&A
- 予約なしで鐘撞堂を見られますか。
- 鐘撞堂は開けた境内に建ち、壁がないため構造は境内から見て取れます。照林坊は観光施設ではなく現役の寺院ですので、他の礼拝の場と同様の心構えでお参りください。鐘は寺が使うもので、来訪者が撞くために置かれているものではありません。
- なぜ浄土真宗の寺に禅宗様の細部があるのですか。
- 18世紀には、様式が特定の宗派のものではなくなっていたためです。礎盤、粽付柱、貫、台輪といった禅宗様の要素は13世紀に禅宗建築とともに入ってきましたが、江戸期の大工は施主の宗派に関わらず自由に用いました。同じ鐘楼の蟇股は、より古い和様の系譜に属します。両方が同時に存在しているわけです。
- 「吹放ち」とはどういう意味ですか。
- 柱の間に壁を設けず、四方を開け放つ形式をいいます。音を遠くへ届かせ、軸部に手が届く必要がある鐘楼では一般的な構えです。照林坊の場合、それは同時に、仕口や組物が常時見えているということでもあります。
- 建立年と改修歴を教えてください。
- 文化庁は江戸中期、延享元年(1744)とし、平成6年(1994)の改修を記録しています。地元の観光資料はより大まかに「江戸時代中期建立」と記しており、文化庁の年代と矛盾しません。
- 照林坊では他に何が登録されていますか。
- 平成23年7月25日に八棟が一括登録されました。本堂(嘉永5年/1852)、山門(寛文5年/1665)、この鐘撞堂(延享元年/1744)、経蔵(宝暦2年/1752)、庫裏(享和元年/1801)、渡り廊下(江戸後期)、客殿と御成の間(ともに昭和9年/1934)です。
基本情報
| 名称 | 照林坊鐘撞堂(しょうりんぼうかねつきどう) |
|---|---|
| 区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録番号 | 34-0122(第70回登録) |
| 登録年月日 | 平成23年(2011)7月25日 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 員数 | 1棟 |
| 年代 | 江戸中期/延享元年(1744)・平成6年改修 |
| 構造及び形式等 | 木造、瓦葺、面積16㎡。切石積基壇に建つ桁行1間梁間1間の吹放ち鐘楼、入母屋造桟瓦葺 |
| 細部 | 礎盤に粽付円柱を内転びにたて、貫・台輪で固める。尾垂木付二手先斗栱、柱間中央にも斗栱、その間に蟇股。二軒繁垂木 |
| 種別 | 宗教/その他工作物 |
| 所在地 | 広島県三次市三次町1280 |
| 所有者 | 宗教法人照林坊 |
| 寺院 | 明鏡山照林坊(浄土真宗本願寺派) |
| 公開状況 | 境内から外観を見学可。現役寺院。問い合わせ 0824-62-2284 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)── 照林坊鐘撞堂
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008781
- 国指定文化財等データベース ── 照林坊経蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008780
- 三次観光推進機構(みよしDMO)── 明鏡山 照林坊
- https://www.miyoshi-dmo.jp/play/shourimbo/
- 広島県 ── 指定文化財一覧(PDF)
- https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/591373.pdf
- 三次市 ── 登録有形文化財(建造物)
- https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/soshiki/49/3527.html
最終更新日: 2026.07.18