照林坊御成の間 | 浴室と便所のある文化財

登録有形文化財の解説文は、たいてい屋根と組物の話で終わる。ところが照林坊御成の間について、文化庁の記述はもっと生活寄りのものに触れている。南背面に付設された浴室と便所である。

この一行が、どんな建築用語よりも建物の性格を言い当てている。御成の間は、見られるために建てられたのではない。客が泊まるために建てられた。

場所は広島県三次市三次町1280、明鏡山照林坊の境内。浄土真宗本願寺派の寺院である。御成の間は客殿の東南に位置し、廊下を介して続く。竣工は昭和9年(1934)で、客殿と同年。平成23年(2011)7月25日に一括登録された八棟のうち、この二棟がもっとも新しい。

名前がそのまま用途である

「御成」は到着を指す言葉だ。身分の高い人物が訪れることをいい、その人を迎えるために設けられた部屋が御成の間となる。格式のある寺院は日常の空間から切り離してこの一画を備え、必要な折にだけ開いた。

照林坊の御成の間は木造平屋建、瓦葺、建築面積117㎡。東西に3室を並べ、周囲に縁をまわす。東端が主室で、日本の室内で格を示す設えが揃う。トコ、トコ脇、そして付書院。付書院は壁面から張り出した書き物用の造作で、低い窓から庭の光を取り込む。各室には棹縁天井を張り、壁は砂壁とする。

そして南背面の浴室と便所。周囲には下屋がまわる。

これらを足し合わせると、平面が語るものが見えてくる。寺に付属した、小さな自足的住まいである。眠り、湯を使い、人と会い、庭を眺める。その間、庫裏に立ち入る必要がない。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、境内の他の六棟と同じ。登録番号は34-0118。

意図された抑制

客殿から御成の間へ移ると、音量が落ちる。

客殿の葺きは本瓦葺。格式ある建物に用いる重い葺き方で、正面には唐破風造の玄関が付く。三十メートルと離れていない場所に、同じ年、同じ施主のもとで建った御成の間は桟瓦葺である。当時ごく普通の瓦だ。入母屋造ではあるが、玄関の破風はない。

内部も同じ論理で組み立てられている。砂壁は光らない。棹縁天井は格式ある天井の中でもっとも簡素な部類で、境内の経蔵が張る格天井には遠くおよばない。文化庁はその結果を「落ち着きのある設え」と記す。

これは志の不足ではない。貴人が滞在するための部屋は、大勢に見せるための部屋とは目的が違う。東端の主室に置かれた書院造の設えが、表面があえて手放した格式を引き受けている。客殿は演じ、御成の間は受け入れる。この二棟を並べて読むことが、照林坊で得られるもっとも面白い体験で、必要なのは境内で立ち位置を変えることだけだ。

実務的な注意。照林坊は博物館ではなく現役の門徒寺である。登録制度は、そうした状態を保ったまま建物を守るために設計されている。境内と外観は訪問できるが、御成の間の内部に公開日程はない。問い合わせは 0824-62-2284 へ。

Q&A

Q「御成の間」とはどういう意味ですか。
A「御成」は身分の高い人物の訪問を指す敬語表現です。その人を迎えるために整えられた部屋、あるいは一画を御成の間と呼びます。寺社や大きな住宅に見られる部屋型です。
Q内部は公開されていますか。
A公開日程は設けられていません。照林坊は現役の浄土真宗寺院で、建物は宗教活動に使われ続けています。境内と外観は訪問できます。内部の見学を希望する場合は事前に寺へご連絡ください。
Q付書院とは何ですか。
A座敷の壁面から張り出した造作で、低い窓と、その下に書き物用の板を備えます。もとは自然光で読み書きをするための場所でしたが、やがて部屋の格式を示す標準的な設えのひとつとなり、トコやトコ脇と組み合わせて用いられるようになりました。
Qなぜ御成の間は客殿より簡素なのですか。
A二棟は役割が異なります。客殿は住職が来客と正式に向き合う対面所を収めるため、外観に儀礼の記号を掲げます。重い本瓦葺と唐破風造の玄関です。御成の間は貴人一人のための宿泊空間で、浴室と便所まで備えます。桟瓦葺、砂壁、棹縁天井という選択は、見せるためではなく過ごすための部屋にふさわしいものです。
Q寺そのものはどれくらい古いのですか。
A寺伝では、開基は親鸞聖人の高弟で関東六老僧の一人に数えられる明光上人とされ、鎌倉時代に現在の福山市域に建てられたと伝わります。第十代住職の代、慶長7年(1602)に三次へ移されたといいます。現存する最古の建物は寛文5年(1665)の山門です。

基本情報

名称照林坊御成の間(しょうりんぼうおなりのま)
区分登録有形文化財(建造物)
登録番号34-0118(第70回登録)
登録年月日平成23年(2011)7月25日
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
員数1棟
年代昭和9年(1934)
構造及び形式等木造平屋建、瓦葺、建築面積117㎡。入母屋造桟瓦葺、周囲に下屋。東西に3室を並べ周囲に縁、南背面に浴室・便所を付設
内部東端の主室にトコ・トコ脇・付書院。各室棹縁天井、砂壁
種別宗教/建築物
所在地広島県三次市三次町1280
所有者宗教法人照林坊
寺院明鏡山照林坊(浄土真宗本願寺派)
公開状況現役寺院につき内部の定例公開なし。問い合わせ 0824-62-2284

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)── 照林坊御成の間
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008777
国指定文化財等データベース ── 照林坊客殿(隣接建物)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008776
三次観光推進機構(みよしDMO)── 明鏡山 照林坊
https://www.miyoshi-dmo.jp/play/shourimbo/
広島県 ── 指定文化財一覧(PDF)
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/591373.pdf
三次市 ── 登録有形文化財(建造物)
https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/soshiki/49/3527.html

最終更新日: 2026.07.18