竹村家門及び塀 — 大正の風格を今に伝える登録有形文化財
広島県尾道市の海岸通りに静かに佇む竹村家本館。その北側の道路に面して設けられた門と塀は、2004年(平成16年)に国の登録有形文化財に登録されました。主屋とともに登録されたこれらの構造物は、大正時代に建てられた料亭旅館の風格を今日に伝える貴重な建造物です。
竹村家本館は、単なる宿泊施設にとどまりません。建築、料理、文学、映画が交差する尾道の文化的な象徴であり、門と塀はその世界へと誘う最初の入口です。瀬戸内の穏やかな海を背景に、一世紀以上にわたって尾道の歴史と風景を見守り続けてきました。
竹村家の歴史
竹村家の歴史は、1902年(明治35年)に尾道市久保の渡瀬橋のほとりに開業した洋食屋にさかのぼります。冷蔵庫もまだ普及していない時代にアイスクリームを提供するなど、当時としては先進的な店でした。
しかし、この洋食屋は火事により全焼。1920年(大正9年)、その跡地に料理旅館として全面的に建て替えられたのが、現在の竹村家本館です。以来100年以上にわたり、尾道を代表する割烹旅館として文人墨客や映画人、そして多くの旅人を迎え入れてきました。
2004年、主屋・門・塀が国の登録有形文化財に登録されました。また、竹村家は日本遺産「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」(#014)の構成文化財の一つにも位置づけられています。
門と塀の建築的特徴
竹村家の門は、敷地の北側道路に面し、やや西寄りに設けられています。屋根は切妻造で銅板葺とし、格式ある佇まいを見せています。木造の骨格に銅板の屋根を組み合わせた意匠は、料亭旅館の玄関にふさわしい落ち着いた品格を感じさせます。
塀は同じく北側道路に面して延び、真壁造・桟瓦葺の構造です。壁面は黒漆喰で仕上げられ、横長の小窓が設けられています。この黒漆喰と小窓の組み合わせは、外から庭の気配をほのかに感じさせつつ、旅館の内と外を品よく区切る役割を果たしています。大正時代の建築美学を体現した端正な造りと言えるでしょう。
門をくぐると、磨き上げられた木の廊下が奥へと続き、竹をふんだんに用いた書院造・数寄屋造の空間が広がります。門と塀は、この特別な空間への導入部として、訪れる者の期待感を静かに高めてくれる存在です。
登録有形文化財としての価値
日本の登録有形文化財制度は、1996年(平成8年)に導入されました。重要文化財のような厳格な規制とは異なり、所有者が建物を日常的に使用・維持しながら保存を図ることを奨励する柔軟な制度です。
竹村家の門と塀が登録された理由は、大正時代の料亭旅館に特有の建築的特徴を良好に残していること、そして尾道の歴史的な町並みの形成に寄与していることにあります。銅板葺の門と黒漆喰の塀という組み合わせは、かつて港町として栄えた尾道の格式ある建築文化を物語る貴重な遺構です。一世紀以上にわたり現役の旅館として使われ続けているという点も、大きな文化的意義を持っています。
小津安二郎『東京物語』との縁
竹村家が国際的にも広く知られるきっかけとなったのは、小津安二郎監督の名作『東京物語』(1953年)です。この映画の尾道ロケが実現した背景には、当時の竹村家の主人と脚本家・柳井隆雄がいとこであったという縁がありました。
撮影中、小津監督をはじめとする主要スタッフ、笠智衆、原節子、香川京子といった出演者たちが竹村家に宿泊しました。俳優たちの尾道弁の指導には竹村家の主人と女将も参加し、東山千栄子の尾道弁は女将そっくりになったと伝えられています。
館内には『東京物語』の撮影時の記念品が今も飾られており、原節子が宿泊した部屋に泊まることもできます。宿泊客の約3分の2が映画ファンであるとも言われ、映画の聖地巡礼の重要な目的地となっています。2008年には新藤兼人監督の映画『石内尋常小学校 花は散れども』の舞台としても使用されました。
主屋の見どころ
門と塀をくぐった先に広がる主屋は、1920年(大正9年)竣工で、建築面積は481平方メートル。東西方向の北棟と南北方向の南棟がT字型に交差する構造です。屋根は桟瓦葺で、竹材を多用した書院造の意匠が特徴的です。
数寄屋造の客室は全5室で、いずれも尾道水道に面しています。窓のすぐ外が海という立地は、尾道でも竹村家と魚信の2軒だけ。窓を開ければ、海風が穏やかに吹き込み、行き交う渡船の音が聞こえてきます。2階には約100人を収容できる大広間も備えています。
廊下は宿の主人自らが磨き上げており、美しい木の艶を保っています。床の間、床脇、障子、天井の意匠には大正時代の職人技が随所に光り、裏庭には聚楽第にあったと伝えられる太閤柄・太閤菊の浮き彫りが施された灯籠が佇んでいます。
瀬戸内の味覚を堪能する
竹村家は割烹旅館として、料理にも深いこだわりがあります。瀬戸内海の旬の食材を吟味し、代々受け継がれてきた味付けと盛り付けの技で懐石料理を提供しています。季節ごとに異なる彩りを楽しめるひと皿ひと皿には、先代から引き継いだ繊細な味わいが宿ります。
創業当時から伝わる製法で作られるアイスクリームは、明治の洋食屋時代の名残を今に伝える逸品です。食事のみの利用も可能で、4名以上で事前予約が必要です。
周辺情報
竹村家は尾道市役所そばの海岸通りに位置し、尾道観光の拠点として最適な立地にあります。
千光寺公園は、千光寺山の山頂から中腹にかけて広がる尾道随一の景勝地です。ロープウェイで山頂へ向かえば、尾道水道と瀬戸内海の島々を一望できる大パノラマが広がります。「さくら名所100選」にも選定されており、春の桜の季節には多くの花見客で賑わいます。山頂から千光寺へ向かう参道「文学のこみち」には、尾道ゆかりの文人たちの詩碑が点在しています。
尾道の商店街では、名物の尾道ラーメンを味わうことができます。背脂の浮いた醤油ベースのスープは、一度食べると忘れられない味わいです。林芙美子記念館では、尾道で多感な少女時代を過ごした作家の足跡をたどることができます。
サイクリング愛好家には、尾道を起点とするしまなみ海道がおすすめです。本州と四国を結ぶ約70キロメートルのサイクリングルートで、瀬戸内海の島々を橋で渡りながら絶景を楽しめます。レンタサイクルは駅周辺で手軽に借りることができます。
Q&A
- 竹村家の門と塀は宿泊しなくても見学できますか?
- 門と塀は公道に面しており、外観はいつでもご覧いただけます。ただし、主屋の内部や庭園、客室などをご覧いただくには、宿泊またはお食事(4名以上、要予約)のご予約が必要です。
- 竹村家本館へのアクセス方法を教えてください。
- JR山陽本線の尾道駅から徒歩約20分、タクシーで約5分です。新幹線をご利用の場合は、新尾道駅からタクシーで約10分です。お車の場合は、尾道インターチェンジから約20分です。
- 竹村家本館では『東京物語』に関連した展示を見ることができますか?
- はい、館内には小津安二郎監督『東京物語』の撮影時の記念品が展示されています。また、原節子が宿泊した客室に泊まることも可能です。詳細はご予約時にお問い合わせください。
- 尾道を訪れるのに最適な季節はいつですか?
- 尾道は四季を通じて魅力がありますが、特に3月下旬〜4月中旬の桜の季節は千光寺公園の桜が見事です。11月の紅葉シーズンも美しく、夏はしまなみ海道のサイクリングに最適です。冬は観光客も少なく、新鮮な瀬戸内の海の幸を静かに堪能できます。
基本情報
| 名称 | 竹村家門及び塀(たけむらやもんおよびへい) |
|---|---|
| 文化財種別 | 登録有形文化財(建造物)、2004年(平成16年)登録 |
| 建築年代 | 大正時代(1920年頃) |
| 門の構造 | 切妻造、銅板葺 |
| 塀の構造 | 真壁造、桟瓦葺、黒漆喰仕上げ、横長小窓付き |
| 所属施設 | 竹村家本館(登録有形文化財の料亭旅館) |
| 日本遺産 | #014「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」構成文化財 |
| 所在地 | 〒722-0045 広島県尾道市久保3丁目14-1 |
| 電話番号 | 0848-37-1112 |
| アクセス | JR尾道駅より徒歩約20分またはタクシー約5分、新尾道駅よりタクシー約10分 |
| 宿泊料金 | 1泊2食付き 25,300円〜(税込) |
参考文献
- 竹村家 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%B9%E6%9D%91%E5%AE%B6
- 竹村家|日本遺産ポータルサイト
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/1266/
- 文化財 ⑮竹村家 | 日本遺産尾道市公式WEBサイト
- https://nihonisan-onomichi.jp/bunkazai15_takemuraya/
- 竹村家|旅館|泊まる・温泉|尾道市の観光情報
- https://www.ononavi.jp/staying/ryokan/detail.html?detail_id=160
- 登録有形文化財(建造物)| 文化庁
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
- 登録有形文化財 竹村家本館 - 宿泊予約はRelux
- https://rlx.jp/21057/
最終更新日: 2026.03.24