正面を「顔」として構える教室棟

旧札幌農学校キャンパスの東南端、現在の北海道大学構内に、低く白い建物が一棟残っている。明治34年(1901年)に竣工した昆虫及養蚕学教室である。木造平屋建でありながら、壁は漆喰の大壁で軸組を覆い隠し、木造とは思えない量感を与えている。

平面はⅠ字型。中央棟の左右に翼部が伸びる構成をとる。目を引くのは中央部の扱い方だ。ピラスターとペディメントが正面中央を縁取り、そこを建物の正式な顔として際立たせる。一方、両翼の寄棟屋根は装飾を抑え、静かにまとまる。上げ下げ硝子窓が壁面に左右対称で並ぶ。

登録の理由

設計者は中條精一郎。世紀の変わり目に札幌農学校の新キャンパス整備に携わり、後に各地の大規模建築で名を知られる建築家である。この教室棟は平成12年(2000年)4月28日に登録有形文化財として登録され、告示は同年5月17日に出された。登録基準は「造形の規範となっているもの」。過剰な装飾ではなく、構成の明快さがその評価を支えている。

養蚕と昆虫学は、開拓期の北海道にとって実用的な学問だった。当時建てられた専用の教育施設が現存する例は多くない。移築や取り壊しで失われた校舎が少なくないなか、この建物は使われた場所の近くに今も立つ。

見どころ

正面に正対すると設計の論理が見えてくる。ピラスターは浅く、漆喰に描き込まれたようでありながら、中央棟に翼部の持たないリズムを与える。この対比こそが要点だ。漆喰塗大壁は柱を壁面の内に埋め込む技法で、軽い木造の骨組みを保ったまま石造のような表情を建物にまとわせている。北海道の建築の文脈にも通じるつくりである。

教室棟は稼働中の札幌キャンパスにある。構内を歩けば外観は自由に見られるが、内部は大学が使用しており一般公開はしていない。近くには同じ中條の設計で、やはり現位置に残る旧図書館読書室がある。あわせて見ると理解が深まる。

Q&A

Qいつ、誰が設計しましたか。
A明治34年(1901年)竣工で、設計は新キャンパス整備に関わった中條精一郎です。
Q内部は見学できますか。
A大学が使用しているため内部の一般公開はありません。外観は構内を歩いて見られます。
QⅠ字型平面とは何ですか。
A中央棟の両側に翼部が付く、アルファベットのⅠに似た平面です。中央はピラスターとペディメントで強調されています。
Q壁は石造ですか。
A石造ではありません。柱を覆い隠す漆喰塗大壁の木造で、石造のような表面に仕上げています。

基本情報

名称北海道大学旧札幌農学校昆虫及養蚕学教室
所在地北海道札幌市北区北9条西8丁目
指定区分登録有形文化財(登録 平成12年4月28日/告示 平成12年5月17日)
建築年明治34年(1901年)
構造木造平屋建、鉄板葺、建築面積397㎡、1棟
設計中條精一郎
所有者国立大学法人北海道大学
公開札幌キャンパスで外観見学可、内部は一般非公開

References

国指定文化財等データベース(文化庁)— 北海道大学旧札幌農学校昆虫及養蚕学教室
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001541
北海道大学 公式サイト
https://www.hokudai.ac.jp/

最終更新日: 2026.07.02