登別原始林 ― 地獄谷を取り囲む北の森
登別温泉の中心にある地獄谷。その荒々しい火口跡をぐるりと囲むように広がるのが、大正13年(1924年)に国の天然記念物となった登別原始林である。面積はおよそ186ヘクタール。指定は北海道のなかでも早い時期にあたる。
噴気の上がる火口の縁から少し歩くと、硫黄のにおいが薄れ、湿った広葉樹林の冷たい空気に変わる。煮えたぎる火山地形と、静かな成熟林。この二つが隣り合っているところに、ここならではの面白さがある。
場所は北海道南西部、胆振地方。新千歳空港から車でおよそ1時間の距離にあり、一帯はすべて支笏洞爺国立公園に含まれている。
森が天然記念物に指定された理由
国指定文化財等データベースには、名称「登別原始林」、指定年月日は大正13年12月9日と記録されている。指定基準は(二)の「代表的原始林、稀有の森林植物相」。その後、昭和34年(1959年)に区域の一部が解除され、昭和59年(1984年)には追加指定と一部解除が行われている。
指定の根拠は植物にある。北海道南西部はこの島でもっとも温暖な地域で、初期の調査報告は、この森が北海道の原始林のなかでは比較的暖地性の種類に富み、植物相が際立って多様であることを特徴として挙げた。本来ならもっと南で見られる植物が、この地方らしい丈夫な広葉樹とともに育つ。ひとつの森のなかにこれだけの植物が共存している点が、評価された。
保護は他の制度のもとでも続いている。林野庁はこの一帯を登別温泉風景林として扱い、平成30年(2018年)には区域の一部に登別ミズナラ希少個体群保護林を設定して、成熟したミズナラ林の価値を位置づけた。
歩いて気づく見どころ
森の構造
これまでの調査では、約60種類の樹木と約110種類の草本が確認されている。高木層の主役はミズナラで、樹高15〜19メートル、幹の直径は20〜40センチほど。これにホオノキやシナノキが混じる。その下にはナナカマドやコシアブラといった亜高木、さらにアオダモやオオカメノキの低木層が重なる。
林床にも見どころがある。地面の多くはクマイザサが緑の絨毯のように覆い、ササの薄い場所では、ミズナラやハウチワカエデ、イチイの稚樹が顔を出す。シダ類やミヤマキヌタソウなどの草も足元に見られる。老木と若木、下草、朽ちていく倒木。森のひとめぐりが一度に目に入る。
火山と接するふち
地獄谷は、この森の劇的な隣人である。直径約450メートル、面積およそ11ヘクタールの爆裂火口跡で、無数の湧出口と噴気孔から1日に1万トン近い湯が噴き出している。泡立ち、湯気を上げる地面が「地獄」の名の由来となり、ここの源泉が温泉街の宿へと送られる。
少し足を延ばすと、表面温度40〜50度ほどの大湯沼がある。そこから流れ出る大湯沼川は、下流へ向かううちに湯が冷め、ちょうどよい温度になったあたりに無料の天然足湯が森のなかに設けられている。近くには、いまも白い噴気を上げる小さな峰、日和山がそびえる。
季節とともに歩く
遊歩道が火口と沼と足湯をつないでいるので、この森は展望台から眺めるより、足で歩いて味わうのがよい。新緑は5月から6月、紅葉は10月。冬は雪に包まれるが、北海道としては降雪が少なく、気候も穏やかである。
行き方と歩くときの注意
札幌からは特急でおよそ1時間あまりで登別駅に着く。駅からは道南バスで登別温泉のバス停まで約15分、登山口は温泉街から歩いてすぐの場所にある。車なら、道央自動車道の登別東インターチェンジからおよそ10〜15分。
地獄谷には有料の駐車場があり、大湯沼近くの駐車場は冬期に閉鎖される。地図や歩道の状況は登別パークサービスセンターで確認できる。暖かい時期は下草にダニがいるため、長袖と長ズボンが無難で、歩き終わったら衣類を点検しておきたい。
周辺の見どころ
温泉街そのものが地獄谷を中心に広がっており、徒歩で回りやすい。商店街からロープウェイで上るのぼりべつクマ牧場では、約80頭のヒグマが飼育され、クマの博物館も併設されている。登別伊達時代村は、江戸時代の町並みを再現したテーマパークで、武士や忍者などに扮した演者による催しが楽しめる。
「極楽通り商店街」には、地獄谷の名にちなんだ鬼の像が店先に並び、閻魔堂では日に数回からくりの上演がある。少し足を延ばせば、カルデラ湖の景色や遊覧船で知られる洞爺湖にも届く。
Q&A
- 森のなかを歩けますか。
- 歩けます。地獄谷、大湯沼、天然足湯を結ぶ遊歩道が整備されており、ふちから眺めるだけでなく、保護された森のなかを通り抜けることができます。
- いつ訪れるのがよいですか。
- 晩春から秋にかけてが歩きやすい時期です。新緑は5月から6月、紅葉は10月が見頃です。冬は一部の歩道や大湯沼の駐車場が閉鎖されるため、寒い時期は事前に状況を確認してください。
- 散策にはどのくらい時間がかかりますか。
- 地獄谷、大湯沼、足湯を結ぶ周回路は、休憩を入れてゆっくり歩いておよそ1時間から1時間半が目安です。
- 入場料はかかりますか。
- 遊歩道と天然足湯の利用は無料です。地獄谷や大湯沼の駐車場は有料です。
- この森のどこが貴重なのですか。
- これだけ北にありながら植物相が多様で、北海道では珍しい暖地性の種類を含んでいます。人の手があまり入らなかった原始林にその多様さが残されている点が、大正13年の天然記念物指定につながりました。
基本データ
| 名称 | 登別原始林(のぼりべつげんしりん) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道登別市登別温泉町 |
| 指定区分 | 国指定天然記念物(指定基準二:代表的原始林、稀有の森林植物相) |
| 指定年月日 | 大正13年(1924年)12月9日。昭和34年・昭和59年に区域の変更 |
| 面積 | 約186ヘクタール |
| 植生 | 樹木約60種、草本約110種。高木層はミズナラが主体 |
| 立地 | 支笏洞爺国立公園内。地獄谷の火口を取り囲む |
| アクセス | JR登別駅からバスで約15分、登別温泉下車。登山口は温泉街から徒歩すぐ |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)― 登別原始林
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/10
- 文化遺産オンライン ― 登別原始林
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/161891
- 林野庁 ― 登別温泉風景林
- https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kokumin_mori/katuyo/reku/rekumori/noboribetsu.html
- 北海道森林管理局 ― 登別ミズナラ希少個体群保護林
- https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/hokkaido/policy/conservation/hogorin/syokubutugunraku_188.html
- 一般社団法人 登別国際観光コンベンション協会 ― 登別原始林
- https://noboribetsu-spa.jp/spot/spot0078/
最終更新日: 2026.05.29