太刀川家住宅店舗:函館に息づく明治の商家建築

函館市弁天町の静かな通りに堂々と佇む太刀川家住宅店舗は、明治時代の商家建築を今に伝える貴重な文化遺産です。1901年(明治34年)、米穀商として成功を収め、漁業や回漕業にも進出した初代太刀川善吉によって建てられたこの煉瓦造2階建ての土蔵造り店舗は、和洋折衷の意匠が見事に融合した開港場ならではの建築です。1971年(昭和46年)に北海道の民家として初めて国の重要文化財に指定され、函館の商業的繁栄と国際性を物語る建造物として高く評価されています。

歴史的背景:太刀川家の歩み

太刀川家のルーツは越後国(現在の新潟県)長岡にあります。2代目当主・太刀川善之助は、幕末に23歳の若さで当時の箱館へ渡り、米屋を開業しました。やがて北前船を操り回船業や漁業へと事業を拡大し、伊達から十勝にかけて土地を所有し、広尾には漁場を構えるまでになりました。北海道で獲れた雑穀や鮭を帆前船で越後に送り、越後からは米や材木を積んで函館へ戻るという交易で、一代で巨額の富を築き上げました。

この住宅店舗を建てたのは初代太刀川善吉で、地元の棟梁・山本佐之吉が設計・施工を担当し、伊藤栄次郎が施工に携わりました。当時の海岸通には防火造りの商店が数多く立ち並んでいましたが、太刀川家の店舗はその中でも代表格とされる堂々たる構えを誇りました。

重要文化財に指定された理由

太刀川家住宅店舗は、1971年(昭和46年)12月28日に国の重要文化財に指定されました。指定の理由として、函館市内で数少なくなった土蔵造り店舗の中でも特に優れたものであること、内外の意匠および平面構造において和洋の手法を巧みに混用していること、そして明治末期の開港場商家の典型的な姿を今に伝えるものとして極めて重要であることが挙げられています。

煉瓦造・木造トラスという洋風の構造技術で建てられながら、土蔵造りの外観を備え、内部は和風を基調としつつ一部に洋風を取り入れるという、開港地・函館ならではの建築的特質が高く評価されています。また、1907年(明治40年)の函館大火では市街地の約3分の1が焼失しましたが、この建物は防火造りの効果により難を免れ、その耐火性能の高さも実証されました。

建築の見どころ

太刀川家住宅店舗は、煉瓦造の2階建てで、屋根は寄せ棟の桟瓦葺き、建築面積は116.6平方メートルです。外壁は煉瓦を漆喰で仕上げた白壁で、清楚かつ重厚な佇まいを見せています。最も目を引くのは、建物の両側に大きく張り出した卯建(うだつ)と呼ばれる防火用の袖壁です。通常の商家の卯建に比べてかなり大規模なもので、度重なる大火に対する函館商人の切実な備えを物語っています。

1階正面には鉄柱で支えられた3連の洋風アーチが並び、かつての商店としての開放的な構えを見せています。その上の2階部分は一転して純和風の意匠となり、伝統的な窓回りや木部の仕上げが東西の様式の見事な対比を生み出しています。この1階洋風・2階和風という構成は、金森洋物店(現・函館市立博物館郷土資料館)にも見られる函館特有の和洋折衷建築の系譜に連なるものです。

内部では「帳場(じょうや)」と呼ばれる商家の帳場空間が見どころで、2階までの吹き抜け構造と洋風の箱階段が印象的です。欅(けやき)の大きな一枚戸や、梁・柱などの力強い木組みも見事で、明治期の職人の高い技術力を今に伝えています。

隣接する洋館について

店舗の隣には1915年(大正4年)に4代目太刀川善吉が応接専用室として増築した洋館が建っています。木造2階建て入母屋瓦葺きの建物で、若草色の下見板張りによる外壁が特徴的です。玄関上部にはコリント式の円柱がアーチを支え、柱頭にはアカンサスの葉をかたどった飾りが施されています。破風や軒下の持送りには彫りの深い植物模様が見られ、大正期の華やかな装飾性を伝えています。

この洋館はかつて国内外の有力者を招いた文化交流・国際交流の場として活用されました。現在は函館市景観形成指定建築物に指定されており、「太刀川家 洋館ゲストハウス」として一棟貸しの宿泊施設として運営されています。

見学・利用案内

太刀川家住宅店舗は、函館市電の通りから一本北側の通りに面しており、外観はいつでも自由に見学できます。夜間にはライトアップされ、昼間とは異なる趣を楽しむことができます。

建物内部は一般公開されておらず、2019年6月より会議、パーティー、展示会、撮影などに対応した貸スペースとして運営されています。隣接する洋館は、ベッドルームやリビングダイニングなどを備えた一棟貸しの宿泊施設として利用可能です。いずれも予約制となっており、電話またはメールでの問い合わせが必要です。

アクセスは、函館市電5系統(函館どつく前行き)に乗車し「大町」電停で下車、徒歩約3分です。函館バス「弥生町」バス停からは徒歩約4分。JR函館駅からは市電で約10分、函館空港からは車で約30分です。建物裏に無料の専用駐車場(6台分)があります。

周辺の見どころ

太刀川家住宅店舗は函館の歴史的西部地区に位置し、数多くの観光名所が徒歩圏内にあります。東へ徒歩約10分の場所には金森赤レンガ倉庫群があり、明治時代の倉庫を改装したショッピング・飲食の複合施設として人気を集めています。函館港沿いのベイエリアは、赤レンガと海が織りなすフォトジェニックな景観が魅力です。

坂を上った元町地区には、国の重要文化財である旧函館区公会堂(1910年築)、函館ハリストス正教会、カトリック元町教会、旧イギリス領事館など、異国情緒あふれる歴史的建造物が集まっています。港を見下ろす八幡坂は「訪れたい坂日本一」にも選ばれた絶景スポットです。

近隣にはペリー会見所跡や、幕末期に建造された洋式帆船・箱館丸のレプリカなどの史跡もあります。世界三大夜景の一つに数えられる函館山の山頂展望台へは、ロープウェイやバスで気軽にアクセスできます。

Q&A

Q太刀川家住宅店舗の内部は見学できますか?
A一般公開は行われていませんが、会議・パーティー・展示会・撮影などの目的で貸スペースとして利用することが可能です。外観はいつでも自由に見学できます。隣接する洋館は一棟貸しの宿泊施設として営業しています。
QJR函館駅からのアクセス方法を教えてください。
A函館市電5系統(函館どつく前行き)に乗車し、約10分で「大町」電停に到着します。電停から徒歩約3分です。タクシーの場合は約8分です。
Qこの建物の建築的な特徴は何ですか?
A煉瓦造・木造トラスの洋風構造で建てられた土蔵造りの外観が特徴です。1階には洋風の3連アーチ、2階は和風の意匠という和洋折衷の構成で、両側には大型の防火用袖壁(卯建)を備えています。明治40年の函館大火にも耐えた堅牢な防火建築です。
Q駐車場はありますか?
A建物裏に無料の専用駐車場があり、6台まで駐車可能です。外観見学のみの場合は、市電の利用が便利です。
Q太刀川家の洋館に宿泊できますか?
Aはい、隣接する洋館(大正4年築)は「太刀川家 洋館ゲストハウス」として一棟貸しの宿泊施設に生まれ変わっています。ベッドルームやリビングダイニングなどを備えており、各種予約サイトまたは直接の問い合わせにて予約可能です。

基本情報

名称 太刀川家住宅店舗(たちかわけじゅうたくてんぽ)
指定 国指定重要文化財(1971年〈昭和46年〉12月28日指定)
建築年 1901年(明治34年)
設計・施工 山本佐之吉(設計・施工)、伊藤栄次郎(施工)
構造 煉瓦造、2階建、桟瓦葺
建築面積 116.6 m²
所在地 〒040-0051 北海道函館市弁天町15-15
アクセス 函館市電5系統「大町」電停下車 徒歩約3分
電話番号 0138-22-0340(予約専用)
駐車場 建物裏に専用駐車場6台分(無料)
外観見学 自由(常時可能)
現在の利用 貸スペース(会議・パーティー・展示会・撮影等)、隣接洋館はゲストハウスとして営業

参考文献

太刀川家住宅店舗(北海道函館市弁天町) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/143718
太刀川家住宅店舗 | スポット一覧 | はこぶら(函館市公式観光情報)
https://www.hakobura.jp/spots/517
太刀川家住宅店舗・洋館 — 北海道文化資源データベース
https://www.northerncross.co.jp/bunkashigen/parts/102067.html
重要文化財・函館太刀川家住宅 — 住宅ジャーナリスト・三木奎吾の住宅探訪記(Replan)
http://kochihen.replan.ne.jp/?p=12556
太刀川家住宅店舗 — はこだて街なかプロジェクト「たてものがたり」
http://www.h-machi.com/pg968987.html
太刀川家 住宅店舗 | TACHIKAWA FAMILY'S HOUSE(公式サイト)
https://tachikawafamilyhouse.com/bunquet/

最終更新日: 2026.04.03