アイヌの生活用具コレクション――函館に息づく北方民族の知恵と祈り

北海道函館市、港町の歴史的な街並みのなかにある函館市北方民族資料館。重厚な石造りの旧日本銀行函館支店を活用した館内には、北海道の先住民族であるアイヌの人々の暮らしを今に伝える貴重な民具が収められています。なかでも「アイヌの生活用具コレクション」は、758点もの資料からなる大規模な収集で、1959年に国の重要有形民俗文化財に指定されました。衣食住、狩猟や漁労の道具、そして信仰や儀礼の用具まで、北方の風土と深く結びついて育まれた文化の厚みを、世界に伝える貴重な収蔵品です。

コレクションについて

このコレクションは、函館出身の考古学・民族学研究者である馬場脩(ばば おさむ、1892〜1979)が、昭和10年前後を中心に北海道、樺太、千島の各地を精力的に調査して収集した資料を中核としています。馬場が長年にわたって積み上げた「馬場コレクション」は、戦前の日本において編まれた北方民族の物質文化に関する最も体系的な記録のひとつとされ、1971年に函館市へ正式に寄贈されたのち、市立函館博物館を経て現在の北方民族資料館に展示されるようになりました。

このコレクションのもう一つの大きな特色は、北海道アイヌだけでなく樺太アイヌ(カラフトアイヌ)の生活用具を多数含んでいる点にあります。第二次世界大戦後の社会変動のなかで、樺太アイヌの民具は新たに集めることが極めて困難となっており、ここに残された資料は世界的にも代えがたい価値を持っています。樹皮繊維で織られたアットゥシ、刺繍と切り伏せをほどこしたルウンペやチカルカルペといった衣装、儀礼で神々(カムイ)に祈りを捧げるイクパスイ(捧酒箸)、彫刻を施した木鉢や盆、マキリ(小刀)、そして大陸との交易を物語る山丹服(蝦夷錦)など、見どころは尽きません。

なぜ国の重要有形民俗文化財に指定されたのか

本コレクションは、1959年(昭和34年)5月6日、衣食住に関する民俗資料として国の重要有形民俗文化財に指定されました。指定の理由は、単に造形的に優れた作品が含まれているからではなく、アイヌをはじめとする北方民族の日常生活の特色を示すに足る用具が、体系的かつ網羅的に収集されている点にあります。

その学術的・文化的価値を支えているのは、おもに次のような特徴です。

  • 衣服、調理道具、狩猟・漁労具、信仰具、装身具まで、生活の各場面を物語る品が広く揃っていること
  • 戦後再収集が極めて困難となった樺太アイヌの資料が含まれていること
  • 地域や用途、由来などの情報を伴って収集されており、研究資料としての連続性を保っていること

2002年に指定された「北海道二風谷及び周辺地域のアイヌ生活用具コレクション」と並び、本コレクションはアイヌ民族の物質文化を国レベルで体系化した代表的な事例として位置づけられています。

魅力と見どころ

テーマごとに構成された展示室

函館市北方民族資料館の展示室は、エントランスホールから始まり、神々の世界、暮らしの中の自然、HAKODATE COLLECTION、衣の世界、北方民族学の先駆者たち、絵画資料の世界など、複数のテーマに分かれています。約1時間ほどかけて巡ると、アイヌの精神文化と生活技術の両面に触れることができます。

建物そのものが歴史を語る空間

展示の舞台は、1926年(大正15年)に建てられた旧日本銀行函館支店の建物です。1988年まで実際に銀行として使われていたため、重厚な扉、支店長室、廊下、金庫室など随所に当時の意匠が残されています。大正期の銀行建築の中で、先住民族の暮らしを物語る民具に出会うという、ほかではあまり味わえない鑑賞体験が魅力です。

体験講座で文化に触れる

館内では、アイヌの伝統的な口琴「ムックリ」の製作・演奏体験(事前予約制、所要約90分、料金1,000円)や、北方民族の伝統文様を題材とした切り紙細工体験(無料、所要約15分)が随時実施されています。文様や音色を自分の手で確かめると、展示品の見え方が一段と豊かになります。

ミシュラン・グリーンガイド一つ星

本資料館は『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン2011』で一つ星を獲得し、海外からの旅行者にも文化的価値の高い観光地として紹介されています。

周辺情報

資料館は、函館の坂町・元町地区の入口にあたる基坂(もといざか)に面しています。徒歩圏には、旧函館区公会堂、函館市旧イギリス領事館、八幡坂、金森赤レンガ倉庫(徒歩約5分)、函館山ロープウェイ山麓駅などが集まり、半日で元町散策と組み合わせて巡ることができます。共通入館券(旧函館区公会堂・函館市文学館・函館市旧イギリス領事館との組み合わせ)を活用すれば、複数の歴史的建造物をお得に訪ねられます。

アイヌ文化をさらに深く知りたい方には、JR函館駅から特急などで約2時間半の白老町にあるウポポイ(民族共生象徴空間)の国立アイヌ民族博物館も併せて訪れることをおすすめします。

Q&A

Q「アイヌの生活用具コレクション」はどこで見ることができますか。
A所有者は函館市で、北海道函館市末広町21番7号の函館市北方民族資料館で展示・収蔵されています。元町地区の歴史的な街並みのなかに位置しています。
Qコレクションの点数や収集者を教えてください。
A国指定の点数は758点です。函館出身の考古学・民族学者である馬場脩が、昭和10年前後を中心に北海道、樺太、千島で行った調査を通じて収集した資料が中核となっています。
Qどのような種類の資料が含まれていますか。
Aアットゥシをはじめとする衣装、狩猟・漁労具、儀礼に用いるイクパスイ(捧酒箸)、文様を施した木鉢や盆、装身具などが含まれ、特に樺太アイヌの資料が貴重です。
Q入館料と開館時間を教えてください。
A入館料は一般300円、学生・生徒・児童150円です。開館時間は4月〜10月が9:00〜19:00、11月〜3月が9:00〜17:00で、館内整理休館日や年末年始の休館日があります。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
QJR函館駅からのアクセス方法は。
AJR函館駅前から市電「函館どつく」行きに乗車し、「末広町」電停で下車。電停から徒歩約1分です。所要時間はおおむね15分程度です。

基本情報

名称 アイヌの生活用具コレクション
指定区分 国指定 重要有形民俗文化財(1959年5月6日指定)
点数 758点
分類 衣食住
所有者 函館市
展示施設 函館市北方民族資料館
所在地 〒040-0053 北海道函館市末広町21番7号
建物 旧日本銀行函館支店(1926年〔大正15年〕竣工、1989年に資料館として開館)
アクセス 市電「末広町」電停から徒歩約1分
入館料 一般300円/学生・生徒・児童150円(共通入館券あり)

参考文献

函館市北方民族資料館(公式サイト)
https://www.zaidan-hakodate.com/hoppominzoku/
函館市北方民族資料館 | 函館市
https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2015121000103
函館市北方民族資料館 | アイヌミュージアムバーチャルガイド(あかれんが)
https://www.akarenga-h.jp/ainu-virtual/06.php
函館市北方民族資料館 | 公益財団法人アイヌ民族文化財団
https://www.ff-ainu.or.jp/web/link/details/post_69.html
函館市北方民族資料館 | はこぶら
https://www.hakobura.jp/spots/534
重要有形民俗文化財 | Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/重要有形民俗文化財
函館市北方民族資料館 | 北海道デジタルミュージアム
https://hokkaido-digital-museum.jp/facility/hakodate-city-museum-of-northern-peoples/

最終更新日: 2026.04.26