プレイリー・ハウス(旧佐田邸):函館・元町に息づくフランク・ロイド・ライトの精神
北海道函館市の歴史的な元町地区、日和坂の小路を入った奥まった場所に、ひときわ異彩を放つ住宅が静かに佇んでいます。それがプレイリー・ハウス(旧佐田邸)です。1928年(昭和3年)に竣工したこの木造2階建ての住宅は、近代建築の三大巨匠の一人であるフランク・ロイド・ライトの直弟子・田上義也(1899〜1991)が設計しました。水平線を強調した深い軒、幾何学的な窓のデザイン、八角形を取り入れた平面構成など、ライトの草原様式(プレイリースタイル)の影響を色濃く受けながらも、田上独自の美意識が光る名建築です。2000年(平成12年)に国登録有形文化財に登録され、函館の建築文化の奥深さを今に伝えています。
歴史的背景
プレイリー・ハウスは、函館の海産商であった佐田作郎氏の依頼により建てられました。竣工は1928年(昭和3年)で、当時の函館は日本有数の国際的な港町として繁栄し、和洋折衷の多彩な建築が立ち並ぶ街でした。しかし完成後間もなく、建物の名義は日魯漁業(現・マルハニチロ)の実質的創始者である小熊幸一郎氏の息子夫婦に移り、近隣の住民にとっては「小熊さんの家」という呼び名のほうが馴染み深いものとなりました。
設計者の田上義也は、ライトが帝国ホテル設計のために来日した際に設置された事務所に約4年間勤務し、ライトの建築哲学を直接学んだ建築家です。帝国ホテルの完成後、ライトの助言や下宿先で知り合った作家・有島武郎の影響もあり北海道に渡り、以後その生涯を通じて北海道を拠点に活動しました。札幌や函館をはじめ道内各地に数多くの建築作品を残し、「北海道近代建築の父」とも称される存在です。函館のプレイリー・ハウスは、田上がライトから受け継いだ設計思想を住宅建築として見事に結実させた傑作の一つです。
文化財指定の理由と価値
プレイリー・ハウスは2000年(平成12年)4月28日に、登録番号01-0026として国登録有形文化財(建造物)に登録されました。この登録は、北海道におけるライト式住宅建築の貴重な遺構としての価値を認めたものです。具体的には、水平線を強調した深い軒によるプレイリースタイルの表現、八角形を採り入れた独創的な平面構成、そして窓に施された亀甲形モチーフの組子割りなど、田上義也のライト式住宅の特徴がよく示されている点が高く評価されています。ライトの建築哲学を日本の風土と北海道の気候に適応させた独自の解釈がなされており、日本の近代住宅建築史においても重要な位置を占める建物です。
建築的な魅力と見どころ
プレイリー・ハウスの最大の見どころは、なんといっても幾何学的なデザインの窓です。窓の組子には亀甲形(六角形)のモチーフが採用されており、外光を繊細に透過させることで、中世ヨーロッパの絵画を思わせるような柔らかな光の空間を室内に生み出しています。この窓のデザインは単なる装飾ではなく、住まいの雰囲気全体を左右する重要な建築的要素です。
もう一つ注目すべき点は、窓を覆うように外側に飛び出した壁の存在です。この張り出した壁は、常に室内に影をつくり出し、淡い光の中で暮らすという独特の空間体験を演出しています。光と影の巧みな対比は、華麗さと思索に適した落ち着きの両方を兼ね備えたデザインと言えるでしょう。同時に、この張り出し壁は建物全体の水平的な広がりを強調し、ライトの草原様式の核心ともいえる地面に寄り添うような安定感を生み出しています。
建築の専門家からは、ライトの建築が壮大な自然の前で両手を大きく広げるような力強さを持つのに対し、田上のこの作品は気品と哲学を感じさせるより親密な空間を創り出しているとの評価があります。ライトのテイストを確かに受け継ぎながらも、田上が自身の感性でプレイリーハウスを再創造した、いわば師弟の対話が建築として結実した作品です。
建物は木造2階建て、鉄板葺きで、建築面積は約163平方メートル。函館市の景観形成指定建築物にも指定されており、元町の歴史的な街並みを形成する重要な要素として位置づけられています。
見学・訪問情報
プレイリー・ハウスは現在、民間の個人住宅として使用されており、内部の一般公開は行われていません。外観は公道から見学することができます。2013年から2015年にかけてはカフェ「日和茶房」として営業し、内部空間を体験することができましたが、現在は個人宅に戻っています。外観だけでも、幾何学的な窓の美しさや深い軒の造形は十分に堪能できますので、建築ファンにはぜひ訪れていただきたいスポットです。
建物は元町地区の奥まった静かな場所にあり、日和坂をバス通りから上がり、高橋病院天使寮を過ぎた先の左手の小路に入った突き当たりに位置します。函館市電「末広町」電停から徒歩約5分です。周辺には歴史的建造物が多数あり、散策しながら巡るのに最適なエリアです。
周辺の見どころ
プレイリー・ハウスが建つ元町地区は、函館を代表する歴史的エリアで、明治・大正・昭和初期の和洋さまざまな建築が集積しています。すぐ近くには2018年に国の重要文化財に指定された旧相馬家住宅(1908年築)があり、その向かいには趣のある和風建築で知られる茶房・無垢里があります。函館ハリストス正教会復活聖堂、旧函館区公会堂、八幡坂など、函館を代表する観光名所も徒歩圏内です。元町は函館山ロープウェイの乗り場にも近く、函館山からの美しい夜景を楽しむこともできます。坂道が多い地形ですが、それぞれの坂から見える港の風景が美しく、ゆっくりと歩いて楽しみたいエリアです。
Q&A
- プレイリー・ハウスの内部を見学できますか?
- 現在は個人の住宅として使用されており、内部の一般公開は行われていません。外観は公道から自由にご覧いただけます。かつては2013年から2015年にかけてカフェ「日和茶房」として営業していた時期がありましたが、現在は閉業しています。
- 設計者の田上義也とはどのような建築家ですか?
- 田上義也(1899〜1991)は、フランク・ロイド・ライトが帝国ホテル設計のために来日した際、その事務所に約4年間勤務した建築家です。ライトの直弟子として有機的建築の思想を学んだ後、北海道に渡り、生涯を通じて道内各地に数多くの建築作品を残しました。「北海道近代建築の父」とも呼ばれています。
- プレイリースタイルとは何ですか?
- プレイリースタイル(草原様式)は、フランク・ロイド・ライトが20世紀初頭に確立した住宅建築の様式です。水平方向に低く広がるフォルム、深い軒、開放的な間取り、自然との調和を特徴としています。プレイリー・ハウスの名称はこのスタイルに由来していますが、田上義也は師の様式に独自の解釈を加えた設計を行っています。
- 函館駅からのアクセス方法を教えてください。
- JR函館駅前から函館市電に乗車し、「末広町」電停で下車してください(乗車約10分)。電停から徒歩約5分で到着します。日和坂を上り、左手の小路に入った奥に建物があります。
- 北海道で見られる田上義也の他の建築作品はありますか?
- はい、田上義也は北海道各地に作品を残しています。札幌の旧小熊邸(現・ろいず珈琲館)は特に有名なライト式住宅で、喫茶店として内部を体験できます。また、網走市立郷土博物館なども田上の設計によるもので、北海道を旅しながら彼の建築作品を巡ることができます。
基本情報
| 名称 | プレイリー・ハウス(旧佐田邸) |
|---|---|
| 設計者 | 田上義也(1899〜1991) |
| 竣工年 | 1928年(昭和3年) |
| 構造 | 木造2階建、鉄板葺、建築面積約163㎡ |
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)、登録年月日:2000年(平成12年)4月28日、登録番号:01-0026 |
| 所在地 | 北海道函館市元町32-43他 |
| 交通アクセス | 函館市電「末広町」電停より徒歩約5分 |
| 見学 | 外観のみ見学可(個人住宅のため内部非公開) |
| 問い合わせ先 | 函館市観光案内所 TEL: 0138-23-5440 |
参考文献
- プレイリー・ハウス(旧佐田邸) – 文化遺産オンライン
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/186380
- プレイリーハウス(旧佐田邸) | スポット一覧 | はこぶら(函館市公式観光サイト)
- https://www.hakobura.jp/spots/617
- 函館市の文化財一覧 | 函館市
- https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2016072500056/
- プレイリー・ハウス(旧佐田邸)/北海道文化資源DB
- https://www.northerncross.co.jp/bunkashigen/parts/10743.html
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011230
最終更新日: 2026.04.03