函館中華会館:日本唯一の清朝末期建築様式が残る歴史的建造物
函館の歴史ある元町地区の坂道沿いに佇む函館中華会館(はこだてちゅうかかいかん)は、この港町の多文化的な歴史と、かつて栄えた華僑コミュニティの繁栄を物語る貴重な建造物です。明治43年(1910年)に建設されたこの赤煉瓦の建物は、日本国内で唯一現存する清朝末期の建築様式を持つ建造物であり、国登録有形文化財に登録されています。
大町の基坂下に位置するこの会館は、函館在住の華僑たちにより、三国志の英雄・関羽を祀る関帝廟形式の集会所として建設されました。華麗な内部装飾、釘を一本も使わない伝統工法、そして独特の中国建築様式は、周囲に並ぶ洋風建築との鮮やかな対比を見せ、国際色豊かなこの地区ならではの景観を形成しています。
歴史的背景
函館は、安政元年(1854年)のペリー来航を契機として、日本で最も早く開港した港のひとつです。貿易が盛んになるにつれ、主に海産物の対中国貿易に従事する多くの中国人商人が函館に定住し、華僑コミュニティを形成しました。明治後期には、彼らは函館の商業界において有力な存在となっていました。
明治39年(1906年)12月8日、華僑たちは最初の集会所を洋館風の建物として建設しました。しかし、翌明治40年(1907年)8月の函館大火により、この建物は焼失してしまいます。華僑たちはこの災禍に屈することなく、前回以上に壮大な再建計画に着手しました。
本格的な中国建築を目指した華僑たちは、設計者や技師を中国から招聘しました。中国人大工8人、上海から来た彫刻師2人、漆工5人に加え、日本人の大工、左官、鋳物工らも多数参加しました。木材の大部分をはじめ、祭具、家具、椅子、テーブルなどの備品に至るまで中国から運び込まれ、3年の歳月を費やして明治43年(1910年)に現在の建物が完成しました。
文化財指定の理由
函館中華会館は、平成13年(2001年)4月24日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。また、函館市指定景観形成建造物にも指定されており、地域の景観における重要性も認められています。
最も特筆すべき点は、この建物が日本国内で唯一現存する清朝末期の中国建築であることです。横浜や神戸にも同様の中華会館がありましたが、それらは太平洋戦争中に失われ、戦後に近代的なスタイルで再建されました。函館中華会館だけが1910年の建築当時の姿をそのまま残しています。
関帝を祀る主棟と左右前方に延びた翼廊、これを閉じる正面玄関棟からなるこの建物は、華麗で爛熟した清朝末期の雰囲気を今に伝えています。釘を一本も使わない伝統工法による煉瓦造建築であり、明治40年の函館大火後に建てられた地域の景観のシンボルとして、函館の復興と多文化共生の歴史における重要な一章を物語っています。
建築の見どころ
函館中華会館は、関帝(関羽)を祀る主棟を中心に、左右前方に延びた翼廊と、それを閉じる正面玄関棟で構成されています。建築面積は374平方メートルで、屋根には伝統的な中国式の瓦が葺かれています。
外壁は赤煉瓦で築かれており、周辺の木造建築や洋風建築とは一線を画す重厚な存在感を放っています。屋根の稜線には中国宮殿建築に特有の反り上がった軒先が見られ、棟飾りが施されています。
内部は、清朝末期の華麗で爛熟した雰囲気を色濃く残しています。金色に輝く祭壇、精巧に彫刻された木製パネル、漆工芸、そして中国から直接運び込まれた祭礼用の調度品が空間を彩ります。中央に安置された関羽の祭壇は、忠義・正義・武勇の象徴として崇められる関羽への信仰の場として、建物の精神的な中心を成しています。
建築技法として最も注目すべきは、釘を一本も使用していないことです。すべての接合部は精密に加工された木組みによって結合されており、中国の伝統的な建築技術の卓越さを示しています。この工法は深い建築伝統を反映するだけでなく、100年以上にわたる建物の耐久性にも大きく貢献しています。
見学案内
現在、函館中華会館の内部は一般公開されていません。2000年頃まで一般公開されていましたが、入場者の減少や建物の老朽化を理由に公開が休止されました。期間限定の特別公開が行われることもありますが、現在は公道から外観のみ見学可能です。
外観だけでも、その重厚な赤煉瓦の壁面、精巧な屋根の意匠、そして独特の中国建築様式は十分に見応えがあります。建物は東坂(ひがしざか)沿いに位置しており、坂を上る途中で見る赤煉瓦の外観は格別です。振り返れば函館港を一望できる素晴らしいロケーションにあります。
JR函館駅からは徒歩約20分、函館市電「末広町」電停からは徒歩約5分でアクセスできます。周辺は函館有数の観光エリアである元町地区であり、他の多くの歴史的建造物と合わせた散策コースの一部として訪れるのがおすすめです。
周辺の観光スポット
函館中華会館は、北海道でも有数の歴史的街区の中心に位置しています。元町地区には、徒歩圏内に数多くの見どころがあります。
- 旧函館区公会堂 — 中華会館と同じ明治43年(1910年)に完成した国指定重要文化財。ブルーグレーとイエローの外観が美しい、函館を代表する洋風建築です。
- 元町公園 — 基坂の上に位置し、函館港を一望できる絶好のビュースポット。旧開拓使函館支庁書籍庫など歴史的建造物も点在しています。
- 旧イギリス領事館 — 大正2年(1913年)に建てられた洋館で、現在は開港記念館として公開。ティールームやローズガーデンも併設されています。
- 函館ハリストス正教会 — 日本初のロシア正教会聖堂として知られる、白壁と緑屋根が美しい教会。現在の建物は大正5年(1916年)築で、国指定重要文化財です。
- 基坂 — 中華会館のすぐ近くを走る歴史ある坂道。坂上からは函館港を望み、冬季にはイルミネーションで彩られます。
- 函館山 — 「百万ドルの夜景」で知られる函館随一の展望スポット。近くのロープウェイ山麓駅からアクセスできます。
Q&A
- 函館中華会館の内部は見学できますか?
- 現在、内部の一般公開は行われておらず、公道から外観のみ見学可能です。2000年頃まで一般公開されていましたが、入場者の減少や建物の老朽化により公開が休止されました。特別公開が行われる場合もありますので、最新情報は函館市観光案内所にお問い合わせください。
- なぜ函館中華会館は日本で唯一の存在なのですか?
- 横浜や神戸にも同様の中華会館がありましたが、太平洋戦争で失われ、戦後に再建されたものです。函館中華会館だけが明治43年(1910年)の建築当時の姿をそのまま残しており、日本国内で唯一現存する清朝末期の建築様式を持つ建造物となっています。
- 函館中華会館へのアクセス方法は?
- 函館市電「末広町」電停から徒歩約5分です。JR函館駅からは徒歩約20分、ウォーターフロントエリアを通って元町方面に向かいます。周辺には元町公園や旧函館区公会堂など多くの観光スポットがあり、散策コースの一部として訪れるのが便利です。
- 関帝廟とはどのような建物ですか?
- 関帝廟(かんていびょう)は、中国の三国時代(3世紀)に活躍した武将・関羽(関帝)を祀る中国式の廟です。関羽は忠義・正義・武勇の象徴として崇められ、商売の神様としても広く信仰されています。世界各地の華僑コミュニティに関帝廟が建立されており、函館中華会館もその一つです。
- 入場料はかかりますか?
- 現在は外観のみの見学で、入場料は不要です。過去に特別公開が行われた際の入場条件はイベントによって異なりました。最新の公開情報については、函館市の観光情報をご確認ください。
基本情報
| 名称 | 函館中華会館(はこだてちゅうかかいかん) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道函館市大町1-20 |
| 竣工年 | 明治43年(1910年) |
| 構造 | 煉瓦造平屋建、瓦葺、建築面積374㎡ |
| 建築様式 | 清朝末期の関帝廟形式 |
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)(平成13年4月24日登録) |
| 所有者 | 社団法人函館中華会館 |
| 公開状況 | 外観のみ見学可(内部は現在非公開) |
| アクセス | 函館市電「末広町」電停から徒歩約5分 |
参考文献
- 函館中華会館 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/193109
- 函館中華会館 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BD%E9%A4%A8%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E4%BC%9A%E9%A4%A8
- 貴重な清朝建築様式、函館中華会館を訪ねて - はこぶら
- https://www.hakobura.jp/features/75
- 景観形成指定建築物等一覧 - 函館市
- https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2014021000244/
- 函館中華会館 - はこぶら スポット情報
- https://www.hakobura.jp/spots/511
- 函館市の文化財一覧 - 函館市
- https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2016072500056/
最終更新日: 2026.04.03