静思館(旧冨田家住宅)とは

静思館(旧冨田家住宅)は、兵庫県川辺郡猪名川町上野にある昭和初期の和風邸宅で、美術商の冨田熊作が昭和9年(1934年)に完成させた屋敷の主屋・茶室・門・蔵・塀など18件が、平成16年(2004年)に国の登録有形文化財に登録された。読みは「せいしかん(きゅうとみたけじゅうたく)」で、地元では「旧冨田邸」とも呼ばれる。

敷地は2,505平方メートル、建物の建築面積は合わせて534.3平方メートルある。中央に茅葺の主屋が南を向いて建ち、そのまわりを長屋門形式の表門、4棟の土蔵造の蔵、弁柄塗の小屋、土塀と庭塀が囲む。猪名川町役場の南隣にあり、昭和59年(1984年)から町立の文化施設「静思館」として公開されている。

冨田熊作と静思館の建設

町が発行するパンフレットによると、冨田熊作は明治5年(1872年)、中谷村上野(現在の猪名川町)で酒造業を営む家の次男として生まれた。12歳で神戸の骨董貿易商に勤め、明治36年(1903年)に東洋美術を扱う山中商会へ入る。まもなくロンドン支店長となり、英国の王室や収集家との取引を担った。大正11年(1922年)に50歳で山中商会を退いてからは京都で美術商を営み、スイスの実業家アルフレッド・バウアーの東洋美術コレクションの収集を手伝ったことで知られる。昭和28年(1953年)に81歳で亡くなった。

静思館の屋敷は、その冨田が故郷に建てたものである。町の資料は、昭和7年(1932年)から3年をかけて建てたとしている。文化庁のデータベースは18件すべての年代を昭和9年(1934年)とし、このサイトでもその年を完成年として扱った。主屋の棟梁は斎藤宗太郎で、町の案内では京都の棟梁とされる。総工費はおよそ10万円で、当時の中谷村の年間予算の2倍以上にあたるともいわれる。

パンフレットは、建材に北山丸太・丹波松・尾州檜・唐木などの銘木を使ったと記す。外観は江戸時代の豪農の屋敷にならっているが、外国人客をもてなす目的もあったため、近代の設備が随所に組み込まれた。主屋の小屋組はトラスで、給水塔は井戸水を高所の水槽に上げて水洗便所に送り、書斎蔵の床下には暖房が仕込まれている。静思館の18件を見て回ると、伝統的な構えの中にこうした仕掛けが散らばっていることに気づく。

町の施設「静思館」になるまで

冨田家の屋敷は、昭和59年(1984年)に猪名川町が買い取り、一般に公開されるようになった。「静思館」の名は、緑の多い環境で来館者に憩いと静かに思いをめぐらす場を提供する、という趣旨から付けられたと町は説明している。

昭和62年(1987年)に「ひょうご住宅百選」に選ばれ、平成16年(2004年)6月9日付で18件が国の登録有形文化財となった。平成20年(2008年)には兵庫県の景観形成重要建造物にも指定されている。主屋の和室と茶室は貸室として使われ、季節の催しの会場にもなる。

静思館(旧冨田家住宅)の18件と登録基準

静思館の18件は、登録番号28-0150から28-0167までの連番で、同じ日に登録された。登録基準は3つに分かれる。

  • 造形の規範となっているもの:主屋(建築面積261㎡)、茶室(10㎡)、書斎蔵(27㎡)、供待ち(4.2㎡)の4件
  • 再現することが容易でないもの:給水塔(9.8㎡、塔屋付)の1件
  • 国土の歴史的景観に寄与しているもの:表門(59㎡)、乾蔵(40㎡)、中蔵(19㎡)、衣装蔵(16㎡)、柴部屋(17㎡)、道具部屋(25㎡)、炭部屋(14㎡)、味噌部屋(11㎡)、番小屋(20㎡)、井戸小屋(2.1㎡)、庭塀(延長13m)、勝手門(間口4.2m)、土塀(延長98m)の13件

主屋の大屋根から井戸小屋のような2平方メートルほどの上屋まで、屋敷を構成する建物と塀がほぼそろって登録されている点が、静思館の大きな特徴である。各棟の構造と見どころは、それぞれのページにまとめた。

静思館の屋敷の配置

静思館へは、南の街道から導入路を通って近づく。導入路の途中に番小屋と井戸小屋が並び、その先で表門が屋敷地の南辺を限る。表門は長屋門で、西に門座敷、東に農具の物置を抱える。門を入った西脇には、来客の供の者が待つ供待ちがある。

表門の内側は2つの庭に分かれる。西の前庭は主屋の土間口へ通じ、西辺に柴部屋が東を向いて建つ。東の内庭は庭塀で前庭と仕切られ、書斎蔵と茶室がこの庭に面する。主屋は屋敷地の中央に南を向いて建ち、その西南の角から勝手門が道具部屋へ渡って、前庭と裏庭を区切る。

西辺には道具部屋・炭部屋・味噌部屋が南から北へ一列に並ぶ。北辺には西から乾蔵・中蔵・衣装蔵が並び、主屋と中蔵の間に給水塔が立つ。屋敷地の東辺から北辺は、高い石垣の上の土塀が約98メートルにわたって囲む。町のパンフレットには、登録されていない氷室(奥行き約20メートル)も載っており、戦時中は防空壕としても使われたという。

静思館(旧冨田家住宅)の見学とアクセス

静思館は町立の文化施設で、観覧は無料である。開館時間は午前9時30分から午後4時30分まで。月曜日(祝日の場合は翌日)と12月29日から1月3日は休館となる。和室や茶室に貸館の予約が入っている日は観覧できないことがあると町は案内している。貸室の使用料は1室1時間700円で、町外の居住者はその2倍になる。

撮影については、令和5年(2023年)1月から町の決まりが改められた。個人の観光の範囲でのスナップ写真は許可が要らない。業者による撮影、婚礼や七五三などの前撮り、商用の撮影、三脚や脚立を使う撮影、敷地を長く占める撮影は貸館の予約が必要で、実施日の3日前までに申請する。ペットを連れての入館はできない(補助犬は可)。古い建物のため敷居や段差が多く、車いす用の設備はない。

電車では、能勢電鉄の日生中央駅から阪急バスに乗り、「上野」で降りて徒歩3分ほど。川西能勢口駅からも阪急バスで上野へ行ける。車の場合は正門(表門)横に3台分の駐車場があり、北隣の猪名川町役場の駐車場も使える。役場側からは通用門を通って敷地に入れる。料金・時間・撮影の決まりは2026年10月1日に町のページで確かめた。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004155
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)茶室
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004156
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)表門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004157
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)書斎蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004158
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)乾蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004159
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)中蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004160
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)衣装蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004161
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)柴部屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004162
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)道具部屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004163
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)炭部屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004164
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)味噌部屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004165
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)給水塔
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004166
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)供待ち
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004167
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)庭塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004168
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)勝手門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004169
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)土塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004170
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)井戸小屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004171
国指定文化財等データベース(文化庁)静思館(旧冨田家住宅)番小屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004172
文化遺産オンライン 静思館(旧冨田家住宅)主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/150765
猪名川町 猪名川町立静思館(せいしかん)
https://www.town.inagawa.lg.jp/soshiki/1036/gyomu/1/seishikan/6710.html
猪名川町 静思館パンフレット(PDF)
https://www.town.inagawa.lg.jp/material/files/group/37/seishikan2.pdf
猪名川町 猪名川町の指定文化財一覧
https://www.town.inagawa.lg.jp/kanko_bunka_sports/rekishi_bunkazai/5047.html
阪神北地域観光 猪名川町立静思館
https://visithanshin.jp/spot/454/

最終更新日: 2026.10.01

基本情報

名称静思館(旧冨田家住宅)
所在地兵庫県川辺郡猪名川町上野字町廻22
所有者猪名川町
指定登録有形文化財 18件
座標34.89409, 135.37614