農家の姿をした本陣

千本内海家住宅主屋(せんぼんうつみけじゅうたくしゅおく)は、兵庫県たつの市新宮町千本1824にある江戸時代後期の住宅で、平成16年(2004年)2月17日に国の登録有形文化財(建造物)となりました。登録番号は28-0139です。

内海家は、周辺の村々を束ねる大庄屋であると同時に、千本宿の本陣をつとめた家柄です。本陣は商売としての宿ではありません。大名や幕府の役人が街道を往来する際、その宿泊と休息を引き受けるために置かれた施設で、費用の多くは役をあずかる家が負担しました。旅人が銭を払って泊まれる場所ではなかったのです。

門前を通る道の呼び名は資料によって揺れます。文化庁のデータベースは「出雲往来」、たつの市の文化財ページは「因幡道」と記します。地元では因幡・出雲街道と続けて呼ぶことが多く、正式には因伯雲作往還といいました。姫路で山陽道から分かれ、新宮を経て山陰へ抜ける道筋を指す点では、いずれも同じものです。

千本はその宿駅として栄えました。現在の所有者側が伝えるところでは、伝馬役として馬25匹が常置され、鳥取・松江・津山などの藩主が参勤交代の折にこの本陣を用いたとされます。

建物の構えを読む

主屋は敷地の東寄り、その中程に建ちます。長屋門をくぐった先、道からは一段奥まった位置です。木造平屋建、瓦葺で、登録上の建築面積は280平方メートル。軸部は桁行10間半、梁間5間半を測り、現在の尺度でおよそ19メートル×10メートルにあたります。

平面は西半分を床上部とします。ここが格式ある客を迎え、泊める側の空間でした。そして南面の西寄りには、入母屋屋根を前へ突き出させた式台玄関が設けられています。

立ち止まって見たいのはこの玄関です。式台とは、敷居の内側に低い板の段を構えた儀礼のための入口で、訪れた者の身分を言葉より先に確認する装置でした。ふつうの農家に式台玄関はありません。村役人の家にそれが許されているという事実そのものが、この家の位置を示しています。

屋根も同じことを語りかけてきます。全体が本瓦葺、つまり平瓦と丸瓦を交互に組む重い葺き方です。同じ敷地に建つ土蔵や長屋門は軽い桟瓦葺で、この地域の民家も大半が桟瓦です。これだけの規模の屋根をすべて本瓦で覆うのは費用のかかる選択であり、遠目にもよく目立ちました。

登録の理由

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まり、建造物は三つの基準のいずれかで登録されます。主屋が該当したのは「造形の規範となっているもの」。同じ敷地の土蔵と長屋門は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されており、基準が分かれています。事務上の区別ではありません。主屋は周囲との調和ではなく、建築そのものの完成度で評価されたということです。

評価されたのは折衷のうまさでしょう。骨格は播磨の上層農家のもので、広い平面、深い軒、端に土間の作業域を持つ構えです。そこに武家住宅の作法である式台玄関が接がれている。ちぐはぐにならずに一棟へまとめている例は、そう多くありません。

登録は平成16年2月17日付、告示は同年3月4日、第40回の登録にあたります。主屋・長屋門・土蔵は一括ではなく、それぞれ独立した3件として登録されました。番号が別々に振られているのはそのためです。

訪ねる

登録文化財の住宅としては珍しく、この主屋は特別な手続きなしに中へ入れます。平成19年(2007年)から、18代当主が「史跡 千本本陣」の名で主屋を使った料理店を営んでいるためです。手打ちの蕎麦と地元食材の田舎料理が中心で、座敷を見るなら食事の予約が実際的な方法になります。

営業は11時から15時まで、ラストオーダーは14時。定休日は火・水・木曜ですが、祝日にあたる場合は営業します。席数は40で、テーブル席と畳席があり、冬にはこたつ席も出ます。支払いは現金のみでクレジットカードは使えません。平均予算は3,000円から5,000円ほど。1日に案内する組数を絞っているため、予約は事実上必須と考えたほうがよいでしょう。

交通は思ったより楽です。JR姫新線の千本駅から徒歩約5分、距離にして西へ300メートルほど。車なら播磨自動車道の播磨新宮インターチェンジから約8分で、駐車場は25台分あります。

敷地は約4,200平方メートル。庭は手入れが続いており、3月から5月は梅・桜・桃と山野草、秋には県下でも屈指という大紅葉と銀杏、冬は水仙と椿が季節を担います。寒い時期には屋内で囲炉裏に火が入ります。

訪ねる前に知っておきたい客が二人います。文化10年(1813年)、全国測量の途上にあった伊能忠敬がこの本陣に泊まりました。慶応4年(1868年)には、西園寺公望を総督とする山陰道鎮撫使の一行、およそ1,000人が立ち寄っています。松平不昧や西園寺公望の名を記した宿札、それに多数の古文書が今も家に伝わるとされますが、常設の展示ではありません。見られるかどうかはその日次第で、尋ねてみる以外にありません。

撮影について公表された規定はありません。営業する店であると同時に個人の住まいでもあります。自席の料理を超えて建具や資料にレンズを向ける前には、ひと声かけてください。

Q&A

Q千本内海家住宅主屋の内部は見学できますか。
A主屋で営業している料理店「史跡 千本本陣」を利用する形で入れます。見学だけの拝観制度や入館料の設定はありません。1日の受け入れ組数が限られているため、電話での事前予約をおすすめします。
Q千本内海家住宅主屋の営業時間と定休日を教えてください。
A11時から15時(ラストオーダー14時)です。定休日は火・水・木曜で、祝日の場合は営業します。支払いは現金のみです。
Q千本内海家住宅主屋へのアクセス方法は。
AJR姫新線の千本駅から西へ徒歩約5分、およそ300メートルです。車の場合は播磨自動車道・播磨新宮インターチェンジから約8分。駐車場は25台分用意されています。
Q千本内海家住宅主屋はなぜ本陣と呼ばれるのですか。
A本陣は宿場に置かれた公認の宿泊施設で、大名・公家・幕府役人が利用しました。内海家は大庄屋をつとめながら、千本宿の本陣役を代々あずかっていました。鳥取・松江・津山の各藩主が利用したと伝えられます。
Q千本内海家住宅主屋で最初に注目すべき部分はどこですか。
A南面西寄りの式台玄関です。入母屋屋根を本体から前へ突き出させた構えで、本来は武家住宅の作法にあたります。農家の平面にこれが備わっている点が、この家の格式を最も端的に示しています。
Q千本内海家住宅主屋で写真を撮ってもよいですか。
A公表された撮影規定はありません。個人の住まいでもあるため、室内や建具、伝来資料を撮る際は必ず店の方に確認してください。

基本データ

名称千本内海家住宅主屋(せんぼんうつみけじゅうたくしゅおく)
所在地兵庫県たつの市新宮町千本1824
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 28-0139/基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成16年(2004年)2月17日登録、同年3月4日告示(第40回登録)
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積280平方メートル/桁行10間半、梁間5間半
所有者内海家(個人所有。国のデータベースに所有者名の記載なし)
公開状況料理店利用者は内部に入場可。11時~15時(L.O.14時)、火~木曜定休(祝日は営業)、要予約、現金のみ

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「千本内海家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003892
文化遺産オンライン「千本内海家住宅主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/169202
たつの市「千本の内海家住宅」
https://www.city.tatsuno.lg.jp/soshiki/1041/gyomu/5/4/3915.html
史跡 千本本陣(主屋で営業する料理店の公式サイト)
https://senbonhonjin.com/
神戸新聞NEXT「はりま駅前探訪 姫新線(2)千本駅」
https://www.kobe-np.co.jp/news/seiban/202601/0019873960.shtml

最終更新日: 2026.08.26