古青江の刀工・包次が遺した太刀
刃長79.3センチ、反り3.4センチ。腰元で大きく反り、先へ向かうほど反りが浅く幅も細くなる姿は、平安末から鎌倉初期の太刀に通じる。鍛えたのは備中国、いまの岡山県西部で活動した刀工、包次(かねつぐ)である。茎の佩裏、目釘孔の下に「包次」の二字を、太い鏨で大きく刻んでいる。
現在は兵庫県西宮市の公益財団法人黒川古文化研究所が所蔵する。日本刀の質量で屈指と評される同研究所のコレクションのなかでも、古青江の特色をよく示す一口として知られる。
備中・青江派と包次
包次が属した青江派は、備中国を流れる高梁川のほとり、青江の地を拠点とした刀工集団である。平安末期から南北朝期まで続き、平安末から鎌倉中期までの作を古青江、それ以降を中青江・末青江と呼び分ける。守次・貞次・恒次・為次など、その多くが「次」の字を名に通わせた。包次は守次の弟子と伝えられ、古青江の早い世代に位置づけられる刀工である。
古青江の在銘作はもともと数が限られる。最初期の青江物は二字銘のみで年紀を入れず、現存数も決して多くない。確かな銘を備えたこの太刀が、研究上も鑑賞上も重んじられてきた理由はそこにある。昭和53年(1978年)6月15日、重要文化財に指定された。文化庁の解説は、姿の美しさと、鍛え・刃文に古青江の特色がよく現れている点を挙げている。
地鉄と刃文を見る
青江の見どころは、まず地鉄にある。隣国備前が肌の詰んだ地を志向したのに対し、青江の地はもっと表情が立つ。板目に杢が交じり、肌が立って、いわゆる縮緬肌をなす。そのなかに地斑(じふ)と呼ばれる黒っぽい斑が点々と現れ、青みを帯びた地と合わさって澄肌(すみはだ)と称される独特の景色をつくる。この太刀でも、肌立った地に地斑が交じり、細かな地沸がつく。
刃文は直刃調に小乱れを交え、足がよく入り、小沸がつく。匂口はやや沈みごころで、派手さよりも古調の落ち着きが勝つ。帽子は直ぐに小丸に返る。彫物は表裏に棒樋を彫り、先を角留めとする。
茎にも目を留めたい。多くの太刀は、腰に佩いたとき外を向く面に銘を切る。ところが包次は反対の、体に接する佩裏に銘を据えた。青江の刀工に共通して見られる癖で、流派を見分ける手がかりのひとつになっている。
拝観と周辺
黒川古文化研究所は研究機関であり、通年開館する美術館ではない。一般公開は春(4月中旬〜5月中旬)と秋(10〜11月)の展観時に限られ、会期はそれぞれ約1か月。この太刀が出陳されるかどうかは各回の主題によるため、訪ねる前に開催中の展観を確かめておくとよい。
研究所は西宮の苦楽園、甲山へと続く閑静な住宅地の高みに建つ。阪急神戸本線の夙川駅からバスで「柏堂町」へ向かい、そこから坂を15分ほど登る。タクシーなら駅から約10分で門前に着く。同研究所は短刀の国宝2件をはじめ中世の刀剣を厚く揃えており、刀剣を目当てに足を運ぶ価値は十分にある。
Q&A
- いつでも見られますか。
- いいえ。黒川古文化研究所は春と秋の展観時のみ開館し、会期は各約1か月です。この刀が展示されるかは回ごとに異なるため、事前に展観内容をご確認ください。
- 古青江の刀はどこが特徴的ですか。
- 地鉄です。備中の青江は肌の立つ縮緬肌に地斑を交え、青みを帯びた澄肌を見せます。詰んだ地を志向した隣国備前とは趣を異にします。
- 銘の位置が珍しいと聞きました。
- 青江の刀工には、太刀でありながら体に接する佩裏に銘を切る例が多く見られます。包次もこの流派の習いに従っています。
- 「包次」銘の太刀はこれだけですか。
- いいえ。厳島神社や京都国立博物館などにも在銘の包次が伝わり、文化財に指定されています。本作は1978年指定の、黒川古文化研究所所蔵の一口です。
- 研究所へはどう行きますか。
- 阪急神戸本線の夙川駅からバスで「柏堂町」へ、下車後は徒歩15分です。タクシーなら駅から約10分で着きます。
基本データ
| 名称 | 太刀〈銘包次〉(たち めいかねつぐ) |
|---|---|
| 指定区分 | 重要文化財(工芸品・刀剣) |
| 指定年月日 | 昭和53年(1978年)6月15日/指定番号 01894 |
| 時代 | 鎌倉時代(13世紀初頭) |
| 作者 | 包次(備中国・古青江派/守次の弟子と伝わる) |
| 寸法・員数 | 刃長79.3センチ、反り3.4センチ/1口 |
| 形状 | 鎬造、庵棟、小鋒、腰反り高く踏張りがある。表裏に角留めの棒樋。茎は雉股形・先切、鑢目大筋違、目釘孔1、佩裏に「包次」の銘 |
| 所有・所在 | 公益財団法人黒川古文化研究所(兵庫県西宮市苦楽園三番町14-50) |
| 公開 | 春・秋の展観時のみ(各約1か月)。本作の出陳は展観により異なる |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)「太刀〈銘包次〉」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6690
- 公益財団法人黒川古文化研究所 公式サイト
- https://www.kurokawa-institute.or.jp/
- 黒川古文化研究所(ウィキペディア)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/黒川古文化研究所
- 青江派(ウィキペディア)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/青江派
最終更新日: 2026.05.29