旧陸軍高射砲第二連隊照空予習室 ― "空をつくる建物"が伝える防空の記憶

千葉県柏市の閑静な住宅街の一角に、約90年前に建てられた鉄筋コンクリート造の建物が静かに佇んでいます。旧陸軍高射砲第二連隊照空予習室は、かつて帝都東京の防空を担った兵士たちが、照空灯(サーチライト)や測遠器の操作訓練を行った特殊な演習施設です。令和5年(2024年)に国登録有形文化財(建造物)に登録され、全国でも2棟しか現存しない貴重な戦争遺跡として注目を集めています。

歴史的背景

大正時代以降、陸軍は国土の防空強化のため、高射砲連隊を各地に設置しました。昭和11年(1936年)の帝国国防方針の改訂を受けて軍備が拡充され、高射砲連隊は国内および朝鮮・台湾を含む計8箇所に配置されました。

高射砲第二連隊は、昭和10年(1935年)に千葉県市川市国府台に開設されましたが、共に防空を担う航空部隊が近くにないことから、昭和13年(1938年)に旧富勢村(現・柏市)根戸へ移転しました。新たに計画された軍用地であったため、照空予習室をはじめとする一連の陸軍施設が新築されました。同年には柏飛行場も完成し、帝都東京の防空体制が整えられました。

文化財指定の理由

令和5年11月、国の文化審議会は文部科学大臣に対し、この建物を国登録有形文化財(建造物)として登録するよう答申しました。登録基準は「(三)再現することが容易でないもの」です。

調査の結果、この種の施設が建てられたことが確認できたのは国内外の7箇所のみであり、そのうち現存するのは柏市と兵庫県加古川市の2棟だけです。さらに公共所有のものは柏の1棟のみであることから、特殊な用途を持つ旧軍施設の遺構として極めて貴重と評価されました。

建物の特徴 ― "空をつくる建物"の仕組み

建物は鉄筋コンクリート造の陸屋根(フラットルーフ)の平屋建てで、東面には屋上へ上がる階段が設けられています。西側の外壁からは、重量のある測遠器を地上から屋上に引き上げるための起重機の支柱が2本、まるで角のように突き出ています。

建築当初、内部には2階の床や間仕切りはなく、高い天井を持つ一室の吹き抜け空間でした。壁と天井に帆布を張り、白・橙・青色の間接照明で異なる時間帯の空を再現しました。投影機で飛行機の画像をこの人工の空に映し出して移動させ、兵士たちはこれを敵機に見立てて高射砲発射の照準を定める指令訓練を行いました。まさに建物の内部に空を作り出したことから、「空をつくる建物」と呼ばれています。

屋上は「測遠器訓練所」として使用され、遠方の鉄塔やラジオゾンデなどの目標物の位置を実測する訓練が行われていました。

戦後の変遷

終戦後しばらく空き家となっていたこの建物は、昭和42年(1967年)に消防分署として生まれ変わりました。この際、2階の床が新設され、正面壁面にシャッター戸が取り付けられるなどの改装が施されました。1階は柏市西部消防署根戸分署として消防車庫や署員の事務室に使用され、平成21年(2009年)に富勢分署として新設移転するまで機能しました。2階は地元の高野台町会と富勢商店会の事務室として平成27年(2015年)まで利用されました。

建物の周辺は、高射砲第二連隊の移転後に開拓され住宅街となりました。連隊の敷地割りは町内の街区や通りに引き継がれ、その要所に建つ照空予習室は地域のランドマークとして長年親しまれてきました。

見学のご案内

照空予習室はJR常磐線北柏駅北口から徒歩約10分の場所にあります。建物内部への立ち入りはできませんが、外観の見学は自由です。特徴的な起重機支柱や鉄筋コンクリート造の重厚な外観をじっくりと観察することができます。住宅街の中にありますので、見学の際は周辺住民の方へのご配慮をお願いいたします。

柏市教育委員会文化課が作成した解説動画や、高射砲第二連隊の敷地を復元した3DCGも柏市のデジタルアーカイブで公開されていますので、訪問前にご覧になることをお勧めします。

周辺の見どころ

照空予習室の近くには、高射砲第二連隊の旧営門や歩哨舎など、他の戦争遺跡も残されています。少し足を延ばせば、布施弁天(東海山布施弁天東海寺)の美しい境内を訪れることができます。また、明治時代に開削された利根運河沿いの散策路や、手賀沼でのサイクリング・バードウォッチングも人気です。

Q&A

Q建物の中に入ることはできますか?
A現在、建物内部への立ち入りはできません。外観のみ自由にご見学いただけます。
Q「照空予習室」とはどういう意味ですか?
A「照空」とは照空灯(サーチライト)で敵機を照らし出す操作を指し、「予習室」は訓練・演習を行う部屋を意味します。建物内部に人工の空を再現し、照空灯による敵機照射のシミュレーション訓練を行った施設です。
Q最寄り駅からのアクセスを教えてください。
AJR常磐線の北柏駅北口から徒歩約10分です。東京方面からは上野駅から常磐線で約40分で北柏駅に到着します。
Q同じような建物は他にも残っていますか?
A現存するのは柏市のこの建物と兵庫県加古川市にある1棟の計2棟のみです。加古川市の建物は民間所有であり、公共所有で残っているのは柏市のものだけです。
Qいつ文化財に登録されましたか?
A令和5年(2023年)11月に文化審議会が登録を答申し、令和5年度(2024年)に国登録有形文化財(建造物)として正式に登録されました。

基本情報

名称 旧陸軍高射砲第二連隊照空予習室
所在地 千葉県柏市根戸443-3
所有者 柏市
建築年代 昭和13年(1938年)頃 / 昭和42年(1967年)改修
構造 鉄筋コンクリート造、陸屋根、平屋建て
指定区分 国登録有形文化財(建造物)、令和5年度登録
登録基準 (三)再現することが容易でないもの
アクセス JR常磐線 北柏駅北口より徒歩約10分
内部見学 不可(外観のみ見学可能)
お問い合わせ 柏市教育委員会 生涯学習部文化課 — 電話:04-7191-7414

参考文献

旧陸軍高射砲第二連隊 照空予習室(建造物) — 柏市
https://www.city.kashiwa.lg.jp/bunka/about_kashiwa/culture/rekishi/shiteibunkazai/torokuyukei/syoukuyosyusitu.html
登録有形文化財(建造物)の登録について(令和5年11月24日) — 千葉県
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/press/2023/tourokukenzobutu106.html
『空をつくる建物』~高射砲第二連隊 照空予習室調査報告書~ — 柏市
https://www.city.kashiwa.lg.jp/bunka/about_kashiwa/culture/digital-archive/3214.html
旧陸軍高射砲第二連隊照空予習室 — 文化遺産オンライン
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/530894
歴史まち柏〜時と人との交差点〜 3:柏の戦争遺跡 — kamon かしわインフォメーションセンター
https://www.kamon.center/mania/history-of-kashiwa-town-3

最終更新日: 2026.04.11