棟木に残された明治二十六年六月

平井家住宅土蔵は、茨城県桜川市真壁町真壁264にある明治26年(1893年)建立の土蔵で、平成16年(2004年)6月9日に国の登録有形文化財に登録された。

この種の建物は、通常、建立年が判然としない。大工は署名を残さず、施主の帳簿も散逸し、年代の判定は仕口や瓦の様式に頼ることになる。平井家の土蔵はそうではない。棟木に「明治廿六年第六月 棟梁柴初五郎」の墨書があり、月と年、そして施工した棟梁の名が記されている。柴初五郎の読みは一般に「しばはつごろう」とされる。

この一行の価値は小さくない。年代不明の土蔵が数多く並ぶ町にあって、確実な定点を一つ与えるからである。加えて、記録に名を残すことの少ない職人層の実名が判明する例でもある。

構法と平面

土蔵は南北棟で、通りからは奥まった位置に建つ。主屋の東南隅から道路に沿って南へ延びる通り庭と長屋門があり、その延長線上に土蔵が続く配置である。

規模は桁行4間、梁間2間。約7.3メートル×3.6メートルにあたり、建築面積は37平方メートル。切妻造、桟瓦葺の2階建で、西面に戸口を設ける平入である。妻側ではなく平側に開口をとる形式で、脇の作業空間から直接出し入れできる。

1階は土間床。2階床は南側半分にのみ張られる。この非対称は実用に即したもので、床を張らない北半分は吹き抜けとなり丈のある品を立てて置ける。板張りの南半分上部は軽量な物品の乾燥した収納にあてられる。

土蔵の壁は、竹小舞に荒壁から中塗、上塗と土を重ね、季節をまたいで乾燥させながら仕上げる。手間の見返りは温湿度の安定と、なにより防火性能である。真壁は天保8年(1837年)の大火で、茅葺主体の町並みを焼いた経験をもつ。以後、蔵造の町屋が数十年をかけて普及していった。

敷地の奥行きと町の履歴

この土蔵は、北のT字路に面する平井家住宅店舗及び主屋と同日に登録された。店舗及び主屋が登録番号08-0131、土蔵が08-0132。ともに「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の基準により第42回登録で登録され、官報告示は平成16年6月24日である。

2棟を併せて見ると、真壁の商家の敷地構成が把握できる。商いの機能は通りに面し、収蔵の機能は長屋門に隠れて敷地の奥へ退く。間口が狭く奥行きの深い地割は、真壁城に付属した城下集落に由来し、遅くとも慶長20年(1615年)までには成立していたと考えられている。近世には笠間藩の陣屋が置かれ、周辺の物産が集散する在郷町として、また北関東・東北への木綿販売の拠点として栄えた。

真壁の登録文化財は現在およそ100棟。資料により101棟から104棟まで幅があるのは、公表時期の違いによるものと考えられる。平成22年(2010年)6月29日には約17.6ヘクタールが重要伝統的建造物群保存地区に選定された。全国87地区目、茨城県内では初の選定である。

見学にあたっての実務的な点を挙げておく。平井家住宅土蔵は個人所有で非公開。開館時間も拝観料も設定されていない。主屋の背後に位置するため公道からの視認は限られ、見える範囲は立つ位置によって変わる。よい角度を求めて敷地内に立ち入ることは避けられたい。撮影は公道から見える範囲にとどめ、居住者への配慮を優先する。

例年2月4日頃から3月3日まで「真壁のひなまつり」が開催され、100軒を超える家々や店舗が雛人形を飾る。平成15年(2003年)2月に住民有志の発案で始まり、現在の来訪者は7万人規模、見学は無料である。参加する家は年ごとに変わるため、桜川市観光協会の最新のマップで確認するとよい。交通は自家用車が現実的で、土浦北インターチェンジから約40分。有料の高上町駐車場(真壁町真壁279-1)が同一街区にある。鉄道利用の場合はJR水戸線岩瀬駅、またはつくばエクスプレスつくば駅からバスを乗り継ぐ。

Q&A

Q平井家住宅土蔵の内部を見学することはできますか。
Aできません。居住者のいる敷地内にある個人所有の土蔵で、開館時間も拝観料も設定されていません。主屋の背後に建つため、公道から見える範囲も限られます。敷地内への立ち入りはご遠慮ください。
Q平井家住宅土蔵の建立年はどのように分かったのですか。
A棟木の墨書によります。「明治廿六年第六月 棟梁柴初五郎」と記され、明治26年(1893年)6月の建立と棟梁の名が判明します。真壁の土蔵の多くは年代を幅でしか押さえられないため、月単位まで特定できる例は貴重です。
Q平井家住宅土蔵はどのような構造ですか。
A土蔵造2階建、瓦葺、建築面積37平方メートル。桁行4間、梁間2間の切妻造・桟瓦葺で、西面に戸口を設ける平入形式です。1階は土間床、2階床は南側半分にのみ張られています。
Q平井家住宅土蔵はいつ登録されましたか。登録番号は何番ですか。
A平成16年(2004年)6月9日登録、同年6月24日官報告示、登録番号08-0132です。隣接する平井家住宅店舗及び主屋も同日に登録されており、こちらは08-0131となります。
Q平井家住宅土蔵へのアクセス方法を教えてください。
A所在地は桜川市真壁町真壁264です。真壁に鉄道駅はなく、JR水戸線岩瀬駅またはつくばエクスプレスつくば駅からバスを乗り継ぎます。自動車では土浦北インターチェンジから約40分。有料の高上町駐車場(真壁町真壁279-1)が同一街区にあります。
Q平井家住宅土蔵のような蔵が文化財になるのはなぜですか。
A登録有形文化財の制度は、傑作を選び出すのではなく、築50年以上で歴史的景観に寄与する建造物を幅広く保護する仕組みだからです。平井家住宅土蔵は建立年が墨書で確定し、重要伝統的建造物群保存地区内にあり、商家の敷地構成を示す点でも評価されます。

基本情報

名称平井家住宅土蔵(ひらいけじゅうたくどぞう)
所在地茨城県桜川市真壁町真壁264
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 08-0132
指定年平成16年(2004年)6月9日登録、同年6月24日官報告示(第42回登録)
員数1棟
寸法土蔵造2階建、瓦葺、建築面積37平方メートル。桁行4間・梁間2間(約7.3×3.6メートル)、切妻造、桟瓦葺、平入。西面に戸口
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。主屋背後に位置し公道からの視認は限定的。真壁重要伝統的建造物群保存地区内

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 平井家住宅土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004118
国指定文化財等データベース(文化庁)— 平井家住宅店舗及び主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004117
茨城県教育委員会 いばらきの文化財 — 平井家住宅店舗及び主屋
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6301/
茨城県教育委員会 — 桜川市真壁伝統的建造物群保存地区
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-8557/
桜川市 — 桜川市真壁伝統的建造物群保存地区
https://www.city.sakuragawa.lg.jp/page/page003423.html
全国伝統的建造物群保存地区協議会 — 桜川市真壁
https://www.denken.gr.jp/archive/sakuragawa-makabe/index.html

最終更新日: 2026.08.06