明泉寺五重塔:能登半島に佇む中世の石造芸術

石川県鳳珠郡穴水町の静かな山間に位置する明泉寺(みょうせんじ)の境内に、高さ約6.8メートルの壮大な石造五重塔がそびえ立っています。鎌倉時代後期(13世紀末~14世紀初頭)に、地元の前波海岸で産出する石灰質細粒砂岩(前波石)を用いて造られたこの塔は、木造建築の精緻な意匠を石に刻み込んだ、日本中世の石造芸術の傑作です。昭和49年(1974年)に国の重要文化財に指定され、能登半島の豊かな歴史と文化を今に伝える貴重な遺産として、多くの人々を魅了しています。

明泉寺の歴史

明泉寺は、正式には白雉山明泉寺(はくちざんみょうせんじ)と称する真言宗の古刹で、白雉3年(西暦652年)の創建と伝えられています。飛鳥時代に開かれたこの寺院は、1,370年以上の歴史を持ち、能登地方でも最も古い寺院の一つに数えられます。また、北陸三十三ヵ所観音霊場の第18番札所でもあります。

中世には大いに栄え、室町末期に描かれた「明泉寺境内絵図」には20棟を超える堂宇が描かれており、往時の壮大な寺観を今に伝えています。この絵図には東西二基の石塔が描かれていますが、天正年間(1570年代)の上杉謙信による能登制圧の際に西塔が分解されて持ち出されたと伝えられ、現存するのは東塔のみとなっています。

境内には五重塔のほかにも、鎌倉末期から室町時代にかけての石層塔・五輪塔・宝篋印塔・板碑・石仏・水船など約150基の石造物が残されています。また、寺から約300メートル離れた通称「鎌倉屋敷」と呼ばれる墓地には約70基の五輪塔や宝篋印塔が現存し、源頼朝の墓と伝える宝篋印塔も含まれています。これらの石塔群在地は、昭和58年(1983年)に県指定史跡に指定されました。

重要文化財に指定された理由

明泉寺五重塔は、昭和49年(1974年)5月21日に国の重要文化財に指定されました。その指定理由は、以下のような卓越した価値が認められたためです。

第一に、総高約6.782メートルという大規模な石造五重塔であり、中世の石塔としては日本でも屈指の規模を誇ります。第二に、各重とも軸石と笠石を別石とし、木造塔の細部を忠実に模して刻んでいる点が高く評価されています。三段の屋根葺き、二軒繁垂木、隅木、隅降棟といった木造建築特有の意匠が、石材に見事に再現されています。

第三に、初重軸部の内部に塔と同時代の石造大日如来坐像を安置しており、鎌倉時代の仏教信仰を伝える貴重な資料でもあります。さらに、基壇に彫られた優美な蓮弁装飾は、鎌倉後期の様式的特徴をよく示しています。白雉年中の草創と伝える名刹明泉寺の中世盛時を語る遺産として、その価値は極めて高いものです。

建築的特徴と石工の技

五重塔の材料は、寺の近くの前波(まえなみ)海岸に産出する石灰質細粒砂岩、通称「前波石」です。この地元産の良質な石材を用い、前波の石工の手によって造られたと考えられています。

初重の軸部は、正面を除く三方を石壁で囲み、内部を厨子として構成しています。正面には格子戸を設け、その奥に塔と同年代の石造大日如来坐像を安置しています。屋根は三段の屋根葺きを表現し、軒下には別石で二軒繁垂木や隅木を精巧に作り出しています。

二重から五重の軸部はそれぞれ一石で造られ、側面は四面とも二区に分けられています。三重から五重の屋根は各一石で作られ、屋根の三段葺きや軒の二軒繁垂木が見事に表現されています。木造建築を石で忠実に再現するこの技術は、当時の石工の卓越した技量を物語っています。

なお、この塔はかつて三重から上が倒壊し、付近に散乱していました。四重と五重の軸石、五重の笠石、相輪部分は失われた状態でしたが、昭和45年(1970年)7月から同年11月にかけて解体修復工事が行われ、元の姿に復元されました。

明泉寺境内のその他の見どころ

五重塔のほかにも、明泉寺には見応えのある文化財が数多く残されています。境内全体が中世の石造文化を伝える貴重な空間となっており、鎌倉末期から室町時代にかけての石層塔・五輪塔・宝篋印塔・板碑など、約150基もの石造物が林立する様は壮観です。

『能登名跡志』には「其頃(中世)は大伽藍にて、今に十町の間に礎等其侭残りあり。今も畠山重忠の寄進の石燈籠、梶原景時の寄附の大石の手水鉢(水船)あり。頼朝公外将軍家の墓所(鎌倉屋敷)あり。境内広し。大石塔多くあり。」と記されており、中世の壮大な寺観がうかがえます。

観音堂には平安時代前期に遡る木造千手観音立像が安置されており、県指定有形文化財に指定されています。また、境内には弘法大師がこの地で修行した際に、空から降ってきて夜を照らしたと伝えられる「明星石」もあり、古くからの信仰の厚さを物語っています。

拝観案内

明泉寺は通年で参拝を受け付けています。拝観時間は午前9時から午後5時まで(12月1日から2月末日は午後4時まで)です。拝観料は300円です。駐車場も完備されています。

静かな農村地帯に位置する小さな寺院ですので、大規模な観光施設とは異なる、落ち着いた雰囲気の中でゆっくりと文化財を鑑賞できます。境内には不整地の石畳や草地がありますので、歩きやすい靴でお越しになることをお勧めします。

公共交通機関でのアクセスは、穴水駅からバスで明千寺バス停まで行き、そこから徒歩約5分です。お車の場合は、穴水駅から約25分、のと里山海道穴水インターチェンジから約40分です。能登里山空港(のと里山空港)からは車で約15分と便利で、東京羽田空港からの飛行機を利用すれば約60分で空港に到着できます。

周辺の観光情報

穴水町および能登半島には、明泉寺と合わせて訪れたい魅力的なスポットが多数あります。「さとりの道」は、平安時代から大正末期まで約800年にわたり鋳物産業で栄えた穴水町中居の歴史ある寺院を巡る石畳の散策路です。全長約1.2キロメートルの道のりを、歴史に思いを馳せながら散策できます。

穴水湾沿いには「ボラ待ちやぐら」が見られます。海上に四角錐状に丸太を組んだやぐらの上から、ボラの群れが網に入るのをじっと待つという、穴水独特の古代漁法に使われたものです。現在は主に観光用のモニュメントとして保存されています。

穴水駅から車で約12分の「能登ワイン」は、能登半島の風土と気候を活かして栽培されたぶどう100%の本格的な生ワインを醸造するワイナリーです。牡蠣の殻を畑に敷き詰めた独自の栽培法でも知られ、無料の工場見学とワインの試飲が楽しめます。

「潮騒の道」は、由比ヶ丘台地に沿って整備された全長約2キロメートルの遊歩道で、湖のように穏やかな穴水湾と七尾北湾の美しい海岸線を望むことができます。春には、のと鉄道の「能登さくら駅」(能登鹿島駅)で見事な桜のトンネルが楽しめることでも有名です。

Q&A

Q明泉寺五重塔はどのような石材で造られていますか?
A近くの前波海岸で産出する石灰質細粒砂岩(通称「前波石」)で造られています。この地元の良質な石材により、木造建築の細部を精巧に再現した彫刻が可能となりました。
Q五重塔はいつ頃建てられたものですか?
A正確な建立年代は不明ですが、基壇の蓮弁彫刻などの細部の手法から、鎌倉時代後期(13世紀末~14世紀初頭)の作と考えられています。
Q五重塔は修復されたことがありますか?
Aはい。長年の間に三重から上が倒壊し、一部の部材が失われていましたが、昭和45年(1970年)7月から11月にかけて解体修復工事が行われ、元の姿に復元されました。
Qかつては五重塔が二基あったと聞きましたが本当ですか?
Aはい。室町末期の「明泉寺境内絵図」には東西二基の石塔が描かれていますが、天正年間の上杉謙信による能登制圧の際に一基が分解されて持ち出されたと伝えられており、現存するのは東塔のみです。
Q東京からのアクセスはどのようになりますか?
A最も便利なルートは、東京羽田空港から能登里山空港まで飛行機で約60分、空港からタクシーまたはレンタカーで約15分です。また、北陸新幹線で金沢へ行き、JR七尾線・のと鉄道を経由して穴水駅まで移動し、そこから車で約25分という方法もあります。

基本情報

名称 明泉寺五重塔(みょうせんじごじゅうのとう)
指定区分 国指定重要文化財(昭和49年5月21日指定)
時代 鎌倉時代後期(13世紀末~14世紀初頭)
材質 石灰質細粒砂岩(前波石)
総高 約6.782メートル
構造 石造五重塔(1棟)
所有 明泉寺
所在地 〒927-0204 石川県鳳珠郡穴水町字明千寺ル18-1
拝観時間 9:00~17:00(12月1日~2月末日は16:00まで)
拝観料 300円
電話番号 0768-57-1353
アクセス 穴水駅から車で約25分、能登里山空港から車で約15分
駐車場 あり

参考文献

明泉寺五重塔 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/184966
明泉寺五重塔・松尾神社本殿 — 石川県
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/bunkazai/kenzoubutu/18.html
明泉寺石造五重塔 — 能登の里山里海
http://noto-satoyamasatoumi.jp/detail.php?tp_no=137
明泉寺 — 穴水町公式サイト
https://www.town.anamizu.lg.jp/site/kankou-sightsee/100320.html
明泉寺 — ほっと石川旅ねっと
https://www.hot-ishikawa.jp/spot/detail_20176.html
明泉寺石塔群在地 — 石川県
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/bunkazai/siseki/ken1-10.html

最終更新日: 2026.03.29