旧御殿水源地事務所 ― 高松に息づく大正ロマンの洋風建築
香川県高松市鶴市町、香東川のほとりに静かにたたずむ旧御殿水源地事務所は、大正時代の日本が近代化へと歩みを進めた時代の記憶を今に伝える貴重な建造物です。大正6年(1917年)に建てられたこの木造平屋建ての洋風建築は、四国でもっとも初期の近代水道施設のひとつである御殿水源地の管理事務所として長年にわたり使われてきました。現在は国の登録有形文化財として保護され、高松市水道資料館の一部として一般に公開されています。白と水色の美しい外観は、訪れる人々を大正の時代へと誘う、知る人ぞ知る名建築です。
歴史 ― 高松に近代水道がやってきた日
旧御殿水源地事務所の物語は、高松が近代的な水道システムの整備を目指した大正時代にさかのぼります。高松の水道の歴史は古く、正保元年(1644年)に高松藩主・松平頼重公の命により、湧水を水源として木樋(もくひ)や土管を使った水道が整備されたと伝えられています。しかし、時代の変化とともに、より衛生的で安定した水の供給が求められるようになりました。
御殿水源地の建設は大正4年(1915年)頃から始まり、事務所は大正6年(1917年)に竣工しました。施設全体は大正10年(1921年)9月1日に給水を開始し、全国で40番目の近代水道として高松市民の生活を大きく変えました。事務所は昭和61年(1986年)まで、事務室と宿直室として実際に使用されていました。
建築の特徴
旧御殿水源地事務所は、木造平屋建て・瓦葺きの建物で、建築面積は145平方メートルです。平面はL字型を採り、建物の南東の出隅部分に玄関が設けられているのが特徴的です。この配置により、建物全体に開放的な印象を与えています。
基礎部分には花崗岩が敷かれ、立ち上がり部分はイギリス積みのレンガ造りとなっており、出隅は石で補強されています。外壁は横羽目板張りで、白と水色に塗り分けられた外観は御殿水源地全体の統一されたデザインを形成しています。
規模は小さいながらも、隣接する喞筒場(そくとうじょう・ポンプ場)と共通する洋風の意匠を持ち、妻面の半円形窓などの装飾的要素が建物に上品な趣を添えています。この二棟がそろい立つ姿は、100年以上前の高松市民にとって近代化の象徴であり、現在もその美しさは変わることなく人々に親しまれています。
登録有形文化財としての価値
旧御殿水源地事務所は、平成9年(1997年)5月7日に隣接する喞筒場とともに国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。この登録は、大正時代における日本の近代化を象徴する建造物としての歴史的・文化的価値が認められたことによるものです。
文化遺産オンラインの解説によれば、本建物は高松の近代的水道施設の創設当時から事務室・宿直室として使われ、隣接するポンプ所と類似する意匠を持つことから、あわせて近代化のシンボルとして地域に親しまれてきたと評価されています。
平成28年(2016年)には、敷地内の倉庫、集水埋渠東方人孔、北門門柱、擁壁の4つの構造物も追加で登録され、御殿水源地全体で6件の登録有形文化財を擁する一大文化財群となりました。また、昭和60年(1985年)には当時の厚生省による「近代水道百選」にも選ばれており、日本の近代土木遺産としても高く評価されています。
見どころ
事務所内部(PR館)
事務所は現在、高松市水道資料館のPR館として活用されています。館内では、水道の仕組みや水がつくられる過程、水道事業の歴史について分かりやすく展示されています。大正時代の建築の雰囲気を残した内装は、歴史と技術の両面から楽しめる空間です。
喞筒場(歴史館)
事務所に隣接する喞筒場は、大正7年(1918年)に建てられたT字型平面の建物で、建築面積は249平方メートルです。レンガ造りの地下室には、創建当時のモーターやポンプが保存されており、半円形窓から差し込む柔らかな光が重厚な機械設備を美しく照らし出します。建物全体はキングポストトラスによるしっかりとした洋小屋組で構成されています。
敷地と多目的広場
建物周辺は芝生の多目的広場として美しく整備されています。近くの香東川沿いには桜並木があり、春には白と水色の建物と桜のコントラストが見事な景観をつくり出します。近年では結婚式の前撮りやポートレート撮影、コスプレ撮影のロケ地としても人気を集めています。
その他の登録有形文化財
敷地内には、花崗岩の割石を精緻に積み上げた擁壁、歴史ある北門門柱、倉庫、そして日本でもっとも初期の伏流水取水施設のひとつである集水埋渠東方人孔など、見応えのある構造物が点在しています。約9メートルもの深さを持つレンガ造りの人孔は、土木技術の粋を感じさせる必見のスポットです。
来館案内・アクセス
旧御殿水源地(高松市水道資料館)は、毎日10時から17時まで開館しており、入館は無料です。休館日は年末年始(12月29日〜1月3日)のみとなっています。平成29年(2017年)から実施された耐震補強工事は令和元年(2019年)に完了し、スロープや多機能トイレ、授乳室・おむつ交換台を備えたベビーケアルームが新設されるなど、ユニバーサルデザインにも配慮した施設に生まれ変わりました。
JR高松駅から車で約12分、高松自動車道インターチェンジから約20分、高松檀紙インターチェンジから約15分の場所にあります。駐車場がありますが、アクセス道路はやや狭いため、お車でお越しの際はご注意ください。
周辺の観光スポット
旧御殿水源地の見学は、高松の他の観光名所と組み合わせて楽しむことができます。日本を代表する名勝のひとつである栗林公園は車で約15分の距離にあり、ミシュラン・グリーンガイドで三つ星を獲得した美しい回遊式庭園を堪能できます。高松城(玉藻城)跡や高松港周辺エリアからは、直島・豊島・小豆島など瀬戸内海の島々へのフェリーが発着しており、アートと自然を満喫する旅が広がります。建築ファンには、丹下健三の初期の傑作として名高い香川県庁舎東館もおすすめです。そして、香川を訪れたなら讃岐うどんの本場の味をぜひお試しください。
Q&A
- 旧御殿水源地の入館料はかかりますか?
- 入館は無料です。開館時間は毎日10時から17時で、休館日は年末年始(12月29日〜1月3日)のみです。
- 写真撮影はできますか?
- 観光目的の個人的な撮影は自由に行えます。ただし、結婚式の前撮りやコスプレ撮影、商業目的の撮影など、見学以外の用途で利用する場合は、事前に香川県広域水道企業団高松ブロック統括センター総務課への使用許可申請が必要です。
- バリアフリー対応はしていますか?
- はい。2019年のリニューアル工事により、建物入口へのスロープ、多機能トイレ、身体障がい者用駐車スペース、授乳室・おむつ交換台を備えたベビーケアルームが整備されています。
- おすすめの訪問時期はありますか?
- 年間を通じて見学できますが、特に春は近くの香東川沿いの桜並木が見頃を迎え、白と水色の建物との美しいコントラストを楽しめます。秋の紅葉シーズンも趣があります。
- 公共交通機関でのアクセスは可能ですか?
- 最寄り駅からはやや距離があるため、JR高松駅からタクシーやレンタカーの利用が便利です。車で約12分の距離にあります。駐車場は敷地内にありますが、アクセス道路が狭いためご注意ください。
基本情報
| 名称 | 旧御殿水源地事務所(きゅうごてんすいげんちじむしょ) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録日 | 平成9年(1997年)5月7日 |
| 竣工 | 大正6年(1917年) |
| 構造・形式 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積145㎡ |
| 所在地 | 香川県高松市鶴市町御殿1360 |
| 所有者 | 香川県広域水道企業団 |
| 現在の用途 | 高松市水道資料館(PR館) |
| 開館時間 | 10:00〜17:00(休館日:12月29日〜1月3日) |
| 入館料 | 無料 |
| 電話番号 | 087-839-2711 |
参考文献
- 旧御殿水源地事務所 – 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/113054
- 旧御殿水源地喞筒場 – 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180083
- 旧御殿水源地(高松市水道資料館) – 香川県広域水道企業団
- https://union.suido-kagawa.lg.jp/soshiki/25/1283.html
- 旧御殿水源地(高松市水道資料館) – エクスペリエンス高松
- https://www.art-takamatsu.com/jp/spot/entry-701.html
- 【国の登録有形文化財】旧御殿水源地 高松市水道資料館 – 物語を届けるしごと
- https://yousakana.jp/waterworks-takamatsu/
- 高松市水道資料館 – COOL KAGAWA(四国新聞社)
- https://www.coolkagawa.jp/news/entry-673.html
- 大正レトロな映えスポット「旧御殿水源地」 – ガーカガワ
- https://pugkko.com/trip/favorite/post-17185
最終更新日: 2026.03.09