鉄筋コンクリートに置き換えた柱と梁

高松市の中心部に立つ八階建ての高層棟は、細い柱と前へ張り出した梁、深い庇が各階に影の帯をつくっている。骨組みは昭和33年(1958年)に鉄筋コンクリートで打たれたものだが、その構成は日本の社寺建築の木組みに通じている。設計者は建築家の丹下健三。古い建物を写したのではなく、伝統的な木造の論理を新しい素材へ置き換えた仕事だった。

重要文化財に指定された建物は、つながった二つの棟からなり、員数は1棟として数えられている。高い棟の隣に低い三階建ての棟が並び、高層棟の一階はあえてほとんど空けてある。丹下はここを高さ約7メートルのピロティとして持ち上げ、来庁者が守衛のいる玄関で止められることなく、建物の足元を通り抜けられるようにした。執務室はその開かれた階の上に積み上がり、頂部には三階分の塔屋がのる。

初めて訪れる人がとまどう点がひとつある。香川県は現在、この昭和33年の建物群全体を「県庁舎東館」と呼んでいる。平成12年(2000年)に隣へ新しく高い本館が完成したためで、もとは本館だった丹下の高層棟は「旧本館」となった。文化財としての登録名にもその名が使われている。

重要文化財に指定された理由

令和4年(2022年)2月9日、この建物は「香川県庁舎旧本館及び東館」として国の重要文化財に指定された。第二次世界大戦後に建てられた庁舎建築としては全国で初めての指定であり、現在も県職員が日々使う現役の庁舎である。指定の根拠は、意匠的に優秀なものであること、歴史的価値が高いものであること、この二点だった。

歴史的な重みは、この建物が何を始めたかにある。当時の金子正則知事は、威圧する庁舎ではなく、戦後の民主主義にふさわしい開かれた庁舎を望んでいた。丸亀市出身の画家・猪熊弦一郎が、若い建築家だった丹下を知事に引き合わせた。丹下が示した案は、ル・コルビュジエが唱えた近代建築の五原則、すなわちピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサードを下敷きにしたものだった。

丹下はエレベーターと設備を中央のコアに集め、その周囲の床を自由に組み替えられる平面とした。この構成は、その後数十年にわたって全国の庁舎やオフィスビルが手本とした。構造設計は技術者の坪井善勝が担い、高層棟の最高高さは約43メートルに達する。近代建築の記録に取り組む組織ドコモモ・ジャパンは、後にこの建物を「文化遺産としてのモダニズム建築20選」のひとつに選んでいる。

訪れたときに見たいところ

まずピロティの下に立ってみたい。ここは当初から県民のための広場として計画され、催し物の会場にも通路にもなってきた。床に据えられた円筒形の石灯籠は、丹下自身がデザインしたものである。ロビーへ入ると、天井まで届くガラスの壁が、内部と外の庭との境を薄くしている。

ロビーには、この建物でもっともよく知られた美術作品がある。猪熊弦一郎による壁画「和敬清寂」で、茶道の四つの理念である和・敬・清・寂を題とする。打ち放しコンクリートの灰色に対し、猪熊は黒・白・赤・青を用い、静かな面の中に温度と動きを加えた。

家具にも目を向けたい。共用部の調度は丹下研究室で設計され、知事室の机などはデザイナーの剣持勇が手がけた。製作には高松の工房・桜製作所が深く関わっている。一階入口近くの小さなギャラリーには、写真や資料に加え、丹下が猪熊へ送った手紙が並ぶ。完成前に壁画の仕上げを控えめに催促した内容で、二人の関係がうかがえる。改修の際に外された旧本館バルコニーの手摺のオリジナル部材も、ここで見ることができる。

竣工当初、この建物の屋上は高松市内で最も高い眺めの場所だった。完成から半年のうちに、県人口のおよそ六分の一が瀬戸内海を見渡そうと上ったという。

その改修は耐震のための工事だった。2010年代半ばから令和元年(2019年)12月にかけて、基礎の下に免震装置を据え、高層棟と低層棟を一階の床面で一体化する免震レトロフィット工法が採られた。地震の揺れを吸収しながら、昭和33年の姿はそのまま保たれている。

周辺の見どころとアクセス

庁舎は高松市の中心、番町にある。JR高松駅からは徒歩でおよそ20分、または瓦町からまちなかループバスに乗り「県庁・日赤前」で降りればよい。少し南へ進むと、特別名勝に指定された回遊式庭園の栗林公園がある。港の方角へ向かえば、高松城跡である玉藻公園が広がり、その近くには香川県立ミュージアムが建つ。隣の新しい本館には上層階に展望室があり、昭和の庁舎をめぐったあと、市街と瀬戸内海を見渡すのに都合がよい。

Q&A

Q建物の中に入れますか。
A入れます。共用スペースであるピロティ、一階ロビー、南庭は、休日と年末年始を除く平日の午前8時30分から午後5時15分まで見学できます。執務室への立ち入りはできません。
Q見学に料金はかかりますか。
Aかかりません。ロビーの壁画を含め、開放されている範囲は無料で見学できます。
Q設計者や壁画の作者は誰ですか。
A設計は建築家の丹下健三、構造設計は坪井善勝です。ロビーの壁画は香川県丸亀市出身の画家・猪熊弦一郎、家具は丹下研究室とデザイナーの剣持勇によるものです。
Q屋上から眺めを楽しめますか。
A昭和33年当時の屋上展望台は、現在は一般公開されていません。市街や瀬戸内海を眺めたい場合は、隣に建つ新しい本館の展望室を利用してください。
Q案内はありますか。見学にどのくらいかかりますか。
A一階受付で配られるパンフレットのQRコードを読み取ると、無料の音声ガイドを利用できます。ピロティ、ロビー、壁画、ギャラリーを自分のペースで見て回ると、おおむね30分から45分ほどです。

基本情報

名称香川県庁舎旧本館及び東館(かがわけんちょうしゃくうほんかんおよびとうかん)
所在地香川県高松市番町4丁目1番3
指定区分重要文化財(令和4年〔2022年〕2月9日指定)
種別近代/官公庁舎
竣工昭和33年(1958年)
設計丹下健三/構造設計:坪井善勝
構造・形式鉄筋コンクリート造、建築面積3,270.39平方メートル。旧本館:八階建、塔屋三階付(最高高さ約43メートル)。東館:三階建。
員数1棟。附指定:石灯籠3基、太鼓橋1基、家具57点、旧本館バルコニー手摺1基。
所有者香川県
公開共用スペース(ピロティ、一階ロビー、南庭)を平日午前8時30分から午後5時15分まで無料で公開。休日・年末年始は閉庁。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005389
香川県庁舎東館(香川県)
https://www.pref.kagawa.lg.jp/zaisankeiei/higashikan/kfvn.html
香川県庁舎東館の耐震化について(香川県)
https://www.pref.kagawa.lg.jp/zaisankeiei/higashikan/taishinkaisyuu.html
鑑賞ポイント 香川県庁舎東館(うどん県旅ネット)
https://www.my-kagawa.jp/feature/higashikan/point

最終更新日: 2026.06.03