大正4年の煉瓦造上屋、配水池の一方の端に
横浜市西谷浄水場配水池配水井上屋は、神奈川県横浜市保土ケ谷区川島町にある大正4年(1915年)建設の小規模な煉瓦造建築で、平成9年(1997年)6月12日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
上屋とは、機器や開口部を覆うために設けられる小屋掛けの建築を指す。この建物が覆っているのは配水池の配水井、すなわち貯えられた浄水が市街地への送水管へ向かう出口にあたる部分である。装飾建築ではなく水道施設の一部品であり、横浜水道第2回拡張工事によって西谷浄水場が完成した大正4年以来、同じ役割を担い続けてきた。
横浜にとってこの場所は特別である。明治20年(1887年)、日本で最初の近代水道が横浜に生まれた。西谷浄水場は現在も相模湖を水源とし、鶴見・神奈川・西・中・南・保土ケ谷の各区を中心に給水している。大正4年当時の煉瓦造上屋は6棟が現存する。濾過池の整水室上屋4棟、配水池の浄水井上屋1棟、そしてこの配水井上屋である。
設計は横浜市水道臨時事業部。外部の建築家に委嘱したものではなく、市の技術陣が引いた図面である。
八角平面と、22か30かという問い
配水池は両端に上屋を持つ。浄水井上屋は4基の整水室上屋を貫く東西軸の東方に建ち、配水井上屋は配水池を挟んでその対称位置に置かれる。文化庁の解説は両者を「同型同規模」とし、浄水井上屋については平面が八角形で整水室上屋より一回り大きいと記す。整水室上屋は正方形平面で1棟あたり建築面積13平方メートルほどである。
煉瓦の壁、銅板葺の屋根、平屋建。整水室上屋は正方形平面に宝形造の屋根を載せた形式で、配水池側の2棟も同じ建築言語をひとまわり大きな寸法で反復する。煉瓦面には白い帯が水平に走る。記念碑的なところはどこにもない。その抑制こそが登録の理由であり、適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は14-0007である。
面積の記載が食い違っている。国指定文化財等データベースの構造欄は建築面積30平方メートル、同じページの解説文は22平方メートルとする。両者は同一ページに並んで掲載されており、どちらも訂正されていない。現地に立っても判断のしようがないため、ここでは丸めずに両方を記しておく。
浄水場の敷地そのものが幾何学的な庭園風に造成されており、文化庁の解説はその点に繰り返し触れる。価値は個々の上屋よりも、整えられた地割のなかに小さな煉瓦の建物が配される全体の構成にある、という評価である。昭和48年(1973年)の第8回拡張工事にともなう近代化で6棟は本来の機能を終えたが、周囲の構成は保たれた。
令和8年7月27日から一般公開が始まった
長らく状況は芳しくなかった。浄水場入口にあった横浜水道記念館は令和3年(2021年)9月30日をもって全面閉館し、場内見学も同年度に着手した再整備事業にともなって中止された。事業の完了目標は令和16年度(2034年度)である。登録された上屋群は立入り制限区域の内側にあり、柵の外から遠望するほかなかった。
それが令和8年(2026年)7月27日に変わった。横浜市水道局が場内にインフォメーションセンターを開館し、あわせて大正4年の創設当時から現存する歴史的建造物6棟を一般公開したのである。
水道局の記者発表による実務情報は次のとおり。見学は無料、予約不要。開館時間は平日の10時から12時、および13時から15時30分。休館日は土日祝日・お盆・年末年始。団体見学を希望する場合は事前に水道局施設整備課再整備推進係(電話 045-337-0870)へ問い合わせる。センターでは再整備事業の概要のほか、近代水道発祥の地としての横浜の水道史や浄水場の仕組みが紹介され、通常は入れない工事現場をVRゴーグルで見られるコーナーも設けられている。
アクセスはバスが基本である。相鉄線星川駅から相鉄バス浜16系統または浜19系統に乗り、「浄水場前」バス停で下車すればすぐ。徒歩派は上星川駅から「水道坂」と呼ばれる坂を上る経路をとることもある。坂の下に水道管が埋設されていることからこの名がついた。途中には大正3年(1914年)建設の川島町旧配水計量室上屋があり、これも登録有形文化財で、ポケットパークとして公開されている。
公開開始からまだ日が浅く、場内は工事中でもある。訪問前に水道局へ現況を確認しておきたい。
Q&A
- 横浜市西谷浄水場配水池配水井上屋は見学できますか。開館時間は?
- 令和8年(2026年)7月27日から見学できます。横浜市水道局がインフォメーションセンターを開館するのにあわせ、大正4年建設の歴史的建造物6棟が一般公開されました。見学は無料・予約不要で、平日10時〜12時と13時〜15時30分、土日祝日・お盆・年末年始は休館です。
- 西谷浄水場への行き方を教えてください。
- 相鉄線星川駅から相鉄バス浜16系統または浜19系統に乗車し、「浄水場前」バス停で下車するとすぐです。所在地は横浜市保土ケ谷区川島町522。
- 横浜市西谷浄水場配水池配水井上屋はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 平成9年6月12日、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という登録基準で登録されました。小規模ながら端整な意匠の煉瓦造上屋であり、配水池を挟んで浄水井上屋と対称の位置に同型同規模で置かれ、西谷浄水場の記念的存在となっていると評価されています。
- 横浜水道記念館はまだ開いていますか。
- 閉館しています。西谷浄水場再整備事業にともない、令和3年(2021年)9月30日で全面閉館しました。令和8年7月27日に開館したインフォメーションセンターが旧記念館の横に設けられ、その役割を引き継いでいます。
- 配水井上屋の建築面積はどれくらいですか。
- 国指定文化財等データベース内で記載が分かれています。構造欄は30平方メートル、解説文は22平方メートルとします。煉瓦造平屋建・銅板葺で、平面は八角形、正方形平面で13平方メートルほどの整水室上屋より一回り大きい規模です。
- 西谷浄水場には他にも登録有形文化財がありますか。
- 大正4年建設の6棟が登録されています。濾過池整水室上屋4棟、配水池浄水井上屋1棟、配水池配水井上屋1棟で、いずれも平成9年6月の登録です。坂を約500メートル下った川島町旧配水計量室上屋(大正3年)も別途登録されています。
基本情報
| 名称 | 横浜市西谷浄水場配水池配水井上屋 |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県横浜市保土ケ谷区川島町522 |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物)/登録番号 14-0007/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成9年(1997年)6月12日登録・同年6月24日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 煉瓦造平屋建、銅板葺、建築面積30㎡(構造欄)。解説文は22平方メートルと記載。平面は八角形 |
| 所有者 | 横浜市水道事業管理者 |
| 公開状況 | 令和8年(2026年)7月27日から一般公開。無料・予約不要。平日10:00〜12:00/13:00〜15:30、土日祝・お盆・年末年始休館 |
| 建設年 | 大正4年(1915年)、横浜水道第2回拡張工事/設計:横浜市水道臨時事業部 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「横浜市西谷浄水場配水池配水井上屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000194
- 文化遺産オンライン「横浜市西谷浄水場配水池配水井上屋」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/113074
- 横浜市「西谷浄水場 施設概要」
- https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/suido-gesui/suido/suishitsu/josuijo/nishiya/gaiyou.html
- 横浜市記者発表(令和8年7月21日)「西谷浄水場に再整備事業のインフォメーションセンターを開館します」
- https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/suidou/2026/0721info.html
- 横浜市「浄水場等の見学」
- https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/suido-gesui/suido/torikumi/PR/kengaku.html
最終更新日: 2026.08.14