商家の路地に面した客座敷
商家の部屋がすべて家族や商いのためだったわけではない。安田の久保家、敷地北辺に、蔵と同じ裏路地へ面して、接客を目的とした小さな離れが建つ。大正期(1912-1925年)の建築で、木造二階建、建築面積は22平方メートル、桁行三間・梁間二間の規模を切妻造・桟瓦葺の屋根で覆う。
一階には床(トコ)付の六畳座敷を設ける。床は、その空間が改まった接客の場であることを示す設えである。この座敷は来客の宿泊に用いられ、働く家からいくらか離れて客が一夜を過ごせる別棟だった。外壁は養生のため鉄板を張り、路地側には二階のみ開口部を設ける。地上階を街路に対して閉じつつ、上の座敷には外への眺めを与える控えめな構えである。
登録の理由と価値
離れは平成19年(2007年)10月2日、登録有形文化財となった(登録番号39-0222、久保家の登録の並びで最初の番号)。適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。その価値は二重である。建物としては、改まった床を備えた大正期の客座敷の慎ましい形を保っている。群のなかの一部としては、路地の性格を保つ役割を担う。
登録の記載は、離れが蔵や外塀とともに、面する路地の景観を整えることに触れている。久保家の敷地全体が景観の基準で登録された核心はここにある。個々の建物は簡素だが、あわせて一続きの土佐の町並みを構成しており、そのどれ一つを失っても、その一角は貧しくなるだろう。
見どころ
路地から見て最も語るところの多い特徴は、開口部の配置である。一階は鉄板を張った壁の閉じた面を見せ、窓は二階にのみ現れる。下は閉じ、上は開くというこの縦の理屈は、立ち止まって眺める価値がある。街路に対する私性と、内側の座敷への採光や眺めとを、この建物がどう釣り合わせたかが一目で分かるからだ。
数歩先の蔵と、西へ延びる外塀のかたわらに離れを置いてみれば、路地の構成が一続きの設計された区間として読み取れる。建物は私有で使用中のため、公道の路地から眺めていただきたい。安田の旧町並みは徒歩でゆっくり辿るのがよく、久保家北側の路地は、その静かな楽しみの一つである。
Q&A
- 離れは何に使われていましたか。
- 来客を宿泊させる客座敷として、働く母屋から離して用いられました。床を備えた六畳の座敷は、客を迎え、一夜を過ごしてもらうのに適していました。
- なぜ路地側は二階だけが開いているのですか。
- 一階を街路に閉じることで私性を保ち、開口を上に置くことで二階の客座敷に採光と眺めを与えました。公道の路地に面する建物への実用的な対応です。
- 床(トコ)とは何ですか。
- 床(床の間)は、掛軸や季節の飾りを掲げるために設けられた、和室の一段くぼんだ設えです。その存在は、部屋が改まった用途と接客のためのものであることを示します。
- 内部に入れますか。
- 入れません。離れは現在も使用されている個人所有の敷地の一部で、公開されていません。北側の公道の路地から外観を見ることができます。
基本情報
| 名称 | 久保家住宅離れ |
|---|---|
| 所在地 | 高知県安芸郡安田町大字安田1849 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録 平成19年(2007年)10月2日 |
| 登録番号 | 39-0222 |
| 員数 | 1棟 |
| 時代 | 大正期(1912-1925年) |
| 構造 | 木造2階建、瓦葺、建築面積22平方メートル、1階に床付六畳座敷 |
| 公開状況 | 外観のみ路地から見学可/内部非公開 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):久保家住宅離れ
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006760
- 高知県:国登録有形文化財<建造物>
- https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/2023062200186/
最終更新日: 2026.07.11