村の造り酒屋が残した屋敷構え

松岡家住宅は、高知県高岡郡日高村本郷にある造り酒屋・松岡酒造の屋敷で、明治23年(1890年)の創業以来この地で酒を醸し、大正初期から昭和初期にかけて整えられた主屋・酒蔵・門や塀など12件が平成16年(2004年)3月2日に国の登録有形文化財となった。国道33号に近く、村の中心部から見て西側のやや高い土地に屋敷を構えている。

松岡酒造は昭和50年(1975年)ごろには須崎と日高の2か所に蔵を持ち、年に180キロリットルを造るまでになっていた。銘柄は「松の緑」。平成2年(1990年)に酒造業をやめて花卉栽培に転じ、蔵は閉じられた。

登録から5年後の平成21年(2009年)1月、維持が難しいとして所有者から取り壊しの意向が村に伝えられている。これを知った地元の有志が「旧松岡酒造酒蔵保全活用委員会」を立ち上げ、のちの日高酒蔵会がこの屋敷を「日高酒蔵ホール」として使い続ける道を開いた。登録された12件が今もそろって立っているのは、この動きがあったからである。

建物の年代については資料の言い方がそろっていない。日高村の観光案内は旧松岡酒造の建物を明治時代の建築とし、県の紹介記事も築年数を120年ほどとしている。一方、文化庁の国指定文化財等データベースは、12件をすべて大正初期または昭和初期の建築として登録している。本サイトの各棟のページは文化庁の登録内容に従って書いている。

12件の内訳と登録の基準

松岡家住宅の登録番号は39-0137から39-0148まで連続しており、屋敷を構成する建物と工作物が一度にまとめて登録されたことが分かる。内訳は、住まいの側が主屋・主屋門及び塀・離れ・米蔵・便所・浴室、酒造りの側が槽場・北酒蔵・東酒蔵・西酒蔵、両者にまたがるものとして屋敷の外周を固める石垣・門及び塀と、敷地の中央を仕切る酒造場門及び塀である。

登録有形文化財には3つの登録基準がある。主屋、主屋門及び塀、浴室の3件には「造形の規範となっているもの」が、残る9件には「国土の歴史的景観に寄与しているもの」が当てはめられた。住まいの中心となる建物と、意匠に手をかけた小さな附属屋に前者が付き、蔵や塀は屋敷全体の景観を形づくる一部として評価されている。

時代の重なり方にも特徴がある。槽場・北酒蔵・東酒蔵・米蔵・離れは大正初期、主屋・西酒蔵・主屋門及び塀・酒造場門及び塀・浴室・便所は昭和初期の建築とされ、石垣・門及び塀は大正初期に築かれて昭和初期に手が加えられた。酒造りの施設を先に整え、そのあとで住まいを建て直した順序が読み取れる。

構造も一様ではない。土蔵造の酒蔵が並ぶなかで、西酒蔵はバットレス付きの鉄筋コンクリート造の外壁を持ち、浴室は陸屋根の鉄筋コンクリート造である。塀には煉瓦とコンクリートが使われている。伝統的な土蔵と近代の材料が一つの屋敷のなかで混じり合っている点が、松岡家住宅を見るときの大きな手がかりになる。

屋敷の配置と見る順序

松岡家住宅に近づいて最初に目に入るのは、敷地の正面に築かれた石垣と、その上にのる煉瓦塀である。こぶを残した石を亀甲形に積んだ石垣が、屋敷の外周を重々しく縁取っている。

敷地の中央には主屋が建ち、玄関の前に主屋門が開く。主屋の南には、正面の煉瓦塀に接して小さな離れがあり、敷地の南東の角には米蔵が構える。主屋の背後、敷地の北側には浴室と便所が並ぶ。

酒造りの建物は主屋の西に集まっている。主屋のすぐ西に槽場が東西に長く建ち、その奥に北酒蔵、槽場の正面西側に東酒蔵がL字形につながり、さらに西の端に西酒蔵が東酒蔵と並んで立つ。住まいと醸造場の間を仕切るのが、敷地中央の酒造場門及び塀である。その左の袖塀は離れにつながっている。

酒蔵を見るときは屋根にも目を向けたい。槽場・北酒蔵・西酒蔵の屋根には、一般的な桟瓦とは桟の向きが逆になる「左瓦」が葺かれている。敷地に残る煙突の名残は登録の対象ではないが、訪ねる人の目印になっている。

日高酒蔵ホールとしての使われ方

現在の松岡家住宅は、日高酒蔵会が管理する「日高酒蔵ホール」として使われている。酒蔵を改修したホールは天井が高く、舞台と音響・照明の設備を備え、演劇やライブ、講演会、地域の集まりに貸し出されている。県の紹介記事によれば、ホールの入口はかつて酒を搾っていた場所にあたる。

毎年もっとも多くの人が訪れるのは、春先の「ひだかさかぐらひなまつり」である。仁淀川流域の6市町村が連携する「仁淀川ひな回廊」の日高村会場で、地元から寄せられたひな人形が蔵の中に飾られる。2026年は2月21日から3月8日まで、午前10時から午後4時に開館し、入館料は1人100円、小学生以下は無料だった。夏まつりや秋の収穫祭などの催しも開かれている。

催しのある日は、ふだん閉じている蔵の内部に入れる数少ない機会である。建物を見ることを目的に訪ねるなら、日程を確かめてから出かけるとよい。

見学とアクセス

松岡家住宅は常時公開されていない。敷地の外から石垣と塀の外観を眺めることはできるが、屋敷の中へ入って建物を見学したい場合は、日高酒蔵会へ事前に連絡する必要がある。問い合わせ先は日高村観光協会の予約番号050-3204-1996、またはメール(h.sakagurakai@gmail.com)である。見学料についての案内は公式サイトに見当たらないため、連絡の際に確かめたい。

撮影を制限する案内も公式サイトでは確認できなかった。敷地の外からの外観撮影は問題になりにくいが、建物の中では管理者の指示に従いたい。個人の生活の場でもあるため、門の内側へ無断で立ち入ることは避ける。

最寄り駅はJR土讃線の岡花(おかばな)駅で、県の紹介記事では駅から歩いて3分ほどとされる。高知市の中心部からは車で30分ほど。駐車場はイベントの開催時に臨時のものが用意される。国道33号沿いの案内板に従って進むと、正面の石垣と煉瓦塀が見えてくる。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)「松岡家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004069
国指定文化財等データベース(文化庁)「松岡家住宅石垣・門及び塀」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004080
文化遺産オンライン「松岡家住宅石垣・門及び塀」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/188810
高知県「日高酒造ホールの取り組み~旧酒造を地域のコミュニティ拠点に~」
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/120801/2018070500236.html
高知家の◯◯(高知県)「歴史ある酒蔵がつどいの場所へと大変身!お宝いっぱいの『日高酒蔵ホール』」
https://www.kochike.pref.kochi.lg.jp/column/106044/
日高村観光情報「日高酒蔵ホール」
https://www.vill.hidaka.kochi.jp/kankou/spot_33_play.html
日高酒蔵ホール(公式)
https://hidakasakagura.wixsite.com/hall
日高酒蔵ホールとは|日高酒蔵会
https://hidakasakagura.wixsite.com/hall/about

最終更新日: 2026.09.25

基本情報

名称松岡家住宅
所在地高知県高岡郡日高村本郷1887
指定登録有形文化財 12件
座標33.53198, 133.35208