約70トンの鐘を吊るすために建てられた楼

知恩院の宝仏殿裏、石段を上りきった小高い場所に、桁行・梁間とも三間の四角い建物が建つ。延宝6年(1678)の造営で、目的はただ一つ、重さ約70トンの梵鐘を吊るすことにあった。鐘そのものは寛永13年(1636)の鋳造で、この楼が建つ時点ですでに42年を経ていた。これほどの重量物を安定して吊り下げるには、何度も試行錯誤が重ねられたという。その役目を果たした建物が、重要文化財に指定されている大鐘楼である。

知恩院は浄土宗の総本山で、宗祖・法然上人が後半生を過ごし、建暦2年(1212)に没した地に営まれた。現在の広大な伽藍は、江戸時代に徳川家の京都における菩提所となったことで整えられていく。大鐘楼もこの造営の流れのなかで、第38世・玄誉万無上人の代に建てられた。

「技術的に優秀なもの」と評価された理由

大鐘楼が国の重要文化財に指定されたのは平成9年(1997)5月29日。指定の基準は「技術的に優秀なもの」である。この一語は、大工が向き合った課題をよく示している。70トン級の鐘は、梁から下げればよいというものではない。その荷重を骨組み全体で受け止め、地盤へと逃がさなければならず、柱が裂けたり建物がゆがんだりしない構造が求められた。

建物は桁行三間・梁間三間、一重で、入母屋造、本瓦葺。間口は大きくないが、内部の架構は鐘の重さに合わせて太く頑丈に組まれている。外から見ると、通常の鐘楼より背が低く、どっしりと構えた姿になっているのはこのためだ。

梵鐘と除夜の鐘

梵鐘は高さ3.3メートル、口径2.8メートル、厚さは約30センチ。第32世・雄誉霊巌上人が檀信徒に寄進を募り、寛永13年(1636)に鋳造させた。京都・方広寺、奈良・東大寺の鐘と並ぶ、日本三大梵鐘の一つに数えられる。

鐘の表面をよく見ても、誰がいつ何のために寄進したかという記録は刻まれていない。鋳出されているのは「南無阿弥陀仏」の名号と鋳造者の名のみである。来歴を記す銘文をあえて省いたのは、後世の論難や災いを避けるための霊巌上人の配慮だったとされる。

この鐘が撞かれるのは、4月の法然上人の御忌大会と、大晦日の除夜の鐘の年に二回だけだ。とりわけ知られるのが除夜の鐘で、親綱を1人、子綱を16人、計17人の僧侶が撞く。親綱を持つ僧は体をうしろへ投げ出すようにして撞木を鐘へ振り込む。その光景は毎年のように全国へ中継される。一般の参詣者は見学のみができる。

周辺の見どころとアクセス

大鐘楼は境内の高く静かな一角にあり、中心の諸堂を抜けて坂を上った先にある。その道すがら、二つの国宝の前を通る。入口の三門は元和7年(1621)の建立で、高さ約24メートル、幅約50メートルという日本最大級の木造の門である。中段の御影堂は、寛永10年(1633)の火災ののち寛永16年(1639)に再建された本堂で、伽藍の中心をなす。

知恩院には「七不思議」も伝わり、踏むと音が鳴る鴬張りの廊下や、御影堂の軒裏に残る忘れ傘などが数えられる。境内そのものは無料で入れ、方丈庭園と友禅苑は別途拝観料がかかる。東山のふもとに位置し、円山公園や八坂神社、祇園の町並みまで歩いてすぐである。

Q&A

Q鐘を撞くところは見られますか。
A撞かれるのは4月の御忌大会と大晦日の除夜の鐘だけです。除夜の鐘では、一般の方も17人の僧侶が撞く様子を見学できますが、参加はできません。それ以外の時期は、楼と鐘を見ることはできますが、音を聞くことはできません。
Q大鐘楼の拝観に料金は要りますか。
Aいいえ。大鐘楼を含む境内は無料で入れます。料金がかかるのは方丈庭園(400円)と友禅苑(300円)のみです。拝観時間は9時から16時までです。
Q知恩院へのアクセスは。
A市バスで「知恩院前」下車、徒歩約5分です。または地下鉄東西線「東山」駅から徒歩約10分。大鐘楼は三門から坂を上った先にあり、石段を経て至ります。
Q鐘楼と梵鐘の指定は別ですか。
Aはい。建物である大鐘楼は延宝6年(1678)の造営で、平成9年(1997)に重要文化財に指定されました。なかに吊るされた梵鐘は寛永13年(1636)の鋳造で、別に指定されています。いずれも保護の対象です。
Qなぜこの鐘はこれほど有名なのですか。
A約70トンという大きさが日本三大梵鐘の一つに数えられ、17人がかりで撞く除夜の鐘が年末の風物詩として広く知られているためです。

基本情報

名称知恩院大鐘楼(ちおんいんだいしょうろう)
所在地京都府京都市東山区新橋通大和大路東入三丁目林下町
指定区分重要文化財(建造物) 平成9年(1997)5月29日指定
建立延宝6年(1678)/江戸中期
構造・形式桁行三間、梁間三間、一重、入母屋造、本瓦葺 1棟
梵鐘寛永13年(1636)鋳造/高さ約3.3メートル、口径約2.8メートル、重さ約70トン/別に重要文化財指定
所有者知恩院
拝観料境内無料、方丈庭園400円、友禅苑300円
拝観時間9:00–16:00
アクセス市バス「知恩院前」下車 徒歩約5分/地下鉄東西線「東山」駅 徒歩約10分

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「知恩院大鐘楼」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/1781
浄土宗総本山 知恩院「大鐘楼」
https://www.chion-in.or.jp/highlight/building/daishoro.php
浄土宗総本山 知恩院「知恩院の建造物」
https://www.chion-in.or.jp/highlight/building/
浄土宗総本山 知恩院「参拝のご案内」
https://www.chion-in.or.jp/guide/

最終更新日: 2026.06.03