玉林院本堂――大徳寺に佇む江戸初期の重要文化財建築

京都・紫野の大徳寺境内に位置する玉林院は、御所出入りの名医・曲直瀬正琳(まなせ しょうりん)が開創した塔頭寺院です。通常非公開ながら、その本堂は1985年に重要文化財に指定されており、通常の六間取りを超える八間取りの堂々たる方丈型建築と、狩野探幽一派による襖絵が高く評価されています。皇室の典医、戦国の名将、大坂の豪商――さまざまな歴史上の人物の物語が交差する、知る人ぞ知る名建築です。

歴史的背景

玉林院は慶長8年(1603年)、曲直瀬正琳が曲直瀬家の始祖・曲直瀬道三の菩提を弔うため、大徳寺第142世・月岑宗印(げっしん そういん)を開祖として創建しました。正琳は皇室の典医として正親町上皇や後陽成上皇の治療にあたったほか、豊臣家・徳川家の待医も務めた当代随一の医師でした。

創建当初は「正琳庵」と称していましたが、のちに「琳」の字を「玉」と「林」に分け、現在の「玉林院」と改号されました。慶長14年(1609年)に火災で焼失しましたが、豊臣家直参の片桐且元らの支援により速やかに再建されました。

寛保2年(1742年)には、大坂の豪商・鴻池了瑛(4代目鴻池善右衛門)が、先祖とされる山中鹿之介(山中幸盛)の位牌堂として南明庵を建立。あわせて茶室・蓑庵(さあん)と霞床席(かすみどこせき)が造営され、玉林院の文化的な厚みがさらに増しました。

重要文化財に指定された理由

玉林院本堂は昭和60年(1985年)5月18日に重要文化財に指定されました。その評価のポイントは以下のとおりです。

本堂は禅宗の方丈型本堂の形式をとりますが、通常の六間取り平面の上手に二室を加えた八間取りという大規模な構成が特徴です。桁行23.1メートル、梁間15.0メートル、一重入母屋造、桟瓦葺で、全体に木割が太く堂々とした風格を備えています。

室内は座敷飾りが少ない古格の間取りを伝えており、近世初期の禅宗方丈建築の姿を今に残す貴重な遺例です。さらに、狩野探幽とその一派の代表的絵師たちによる襖絵がよく保存されており、建物の文化的価値を大いに高めています。

見どころと建築的特徴

元和7年(1621年)に建てられた本堂は、江戸初期の力強い建築意匠を体現しています。太い部材と広大な八間取りの平面構成は、大徳寺塔頭の中でも際立つ存在感を示しています。

狩野探幽は徳川幕府の御用絵師として江戸時代屈指の画家であり、玉林院に残る襖絵は、禅寺における狩野派絵画の代表作として美術史的にも重要な位置を占めています。

本堂のほかにも、南明庵および茶室(蓑庵・霞床席)が昭和16年(1941年)に別途重要文化財に指定されています。蓑庵は壁の藁ずさが浮き出て蓑のように見えることから名付けられたといわれ、独特の風情を漂わせています。

曲直瀬家の医学遺産

玉林院の歴史は、日本医学史に大きな足跡を残した曲直瀬家と切り離すことができません。始祖・曲直瀬道三は中国医学の理論と実践的治療法を融合させ、日本の医学を革新した人物です。その弟子であり後継者でもある曲直瀬正琳は、やがて徳川家康に従って江戸へ移り、幕府奥医師・養安院家の始祖となりました。玉林院は、日本医学史上最も重要な医家の一つである曲直瀬家との具体的なつながりを今に伝える場所なのです。

周辺情報

大徳寺の広大な境内には、常時拝観可能な塔頭として龍源院・瑞峯院・大仙院・高桐院があり、それぞれ独自の庭園や美術品を鑑賞できます。千利休が天正17年(1589年)に完成させた山門(金毛閣)は桃山時代建築の傑作です。季節ごとに黄梅院・真珠庵・興臨院などの特別公開も実施されます。

周辺の紫野地区には今宮神社があり、名物のあぶり餅が人気です。金閣寺(鹿苑寺)や西陣織の産地・西陣エリアへのアクセスも良く、京都北部を一日かけて巡る文化散策の拠点として最適な立地にあります。

Q&A

Q玉林院本堂は拝観できますか?
A玉林院は通常非公開です。不定期で特別公開が行われる場合がありますので、大徳寺寺務所や京都の観光情報をご確認ください。
Q本堂の建築的な特徴は何ですか?
A一般的な禅宗方丈の六間取りに二室を加えた八間取りの大規模な平面構成が特徴です。木割が太く堂々とした佇まいで、座敷飾りの少ない古格の間取りを残しています。また、狩野探幽一派による襖絵も大きな見どころです。
Q大徳寺へのアクセス方法を教えてください。
A京都駅から市バス101系統・205系統・206系統に乗車し、「大徳寺前」バス停で下車してください。所要時間は約30分です。玉林院は大徳寺境内にあります。
Q曲直瀬正琳とはどのような人物ですか?
A曲直瀬正琳は安土桃山時代から江戸初期にかけて活躍した名医で、皇室の典医や豊臣・徳川両家の待医を務めました。慶長8年(1603年)に師匠・曲直瀬道三の菩提を弔うため玉林院を創建しました。
Q玉林院にはほかにどのような文化財がありますか?
A本堂のほかに、南明庵および茶室(蓑庵・霞床席)が重要文化財に指定されています(昭和16年指定)。また、絹本著色釈迦如来像も重要文化財です。

基本情報

名称 玉林院本堂
指定区分 重要文化財(昭和60年〈1985年〉5月18日指定)
建築年代 江戸前期・元和7年(1621年)
建築様式 一重、入母屋造、桟瓦葺
規模 桁行23.1m、梁間15.0m
所有者 玉林院
所在地 京都府京都市北区紫野大徳寺町
交通アクセス 京都駅より市バス101・205・206系統「大徳寺前」下車(約30分)
拝観 通常非公開

参考文献

文化遺産データベース — 玉林院本堂
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/174842
玉林院 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%89%E6%9E%97%E9%99%A2
玉林院(アクセス・見どころ)— 京都ガイド
https://kyototravel.info/gyokurinin
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1603

最終更新日: 2026.04.10