本堂の背後に建つ、もう一つの登録文化財

東京都渋谷区広尾、地下鉄の駅から歩いて数分の場所に、浄土真宗本願寺派の上宮寺がある。その本堂の南側に、廊下で結ばれた木造平屋建の小さな建物が連なっている。これが本堂応接部、建築面積およそ73平方メートルの接客棟である。大正3年(1914年)頃の建築で、平成29年(2017年)10月27日、本堂とともに国の登録有形文化財となった。

応接部はもともと、参拝者や来客を迎え、寺務をこなすための実用的な空間だった。華やかさを競う建物ではない。その控えめなあり方こそが、登録の評価点でもある。

「登録」と「指定」はどう違うのか

日本の建造物の保護には、性格の異なる二つの仕組みがある。一つは「指定」で、国宝や重要文化財がこれにあたる。厳選された少数の建物を、許可制の強い規制と手厚い支援のもとで守る制度である。もう一つが平成8年(1996年)に始まった「登録」で、近代以降に数多く建てられ、評価される間もなく失われがちな建物を、より緩やかに保護することを目的とする。所有者には、大きな改変の際に届け出ることなどが求められる。

上宮寺本堂応接部は、この後者にあたる。登録の理由として挙げられているのは「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準である。突出した名建築としてではなく、大正期の寺院建築が建てられた場所に残り、今も本来の役目を果たし続けている点が評価されたといえる。

簡明な意匠を読み解く

応接部でまず目に入るのは、前方に張り出した入母屋造の玄関である。その上部には櫛形の欄間が設けられ、簡素な構えの中に落ち着いた装飾をひとつ添えている。

内部は、前室を介して三室を矩折れに配し、内庭に面した東側には畳敷きの廊下が通る。壁の上部には長押が連続して廻る。一方で、床の間や違い棚といった座敷飾りは設けられていない。格式ある客間を構えるのではなく、簡明さを選んだ造りである。装飾を削ぎ落とした結果が、かえって落ち着いた品位を生んでいる。

平成17年(2005年)の改修を経てなお、大正期の趣を残している。

上宮寺と広尾という土地

寺の正式な名称は蔵田山上宮寺、浄土真宗本願寺派に属する。その由来は別の土地にある。神奈川県津久井郡(現在の相模原市緑区)にあった善福寺の法統を、蔵田了観が大正の初めに広尾へ移し、寺名を改めたと伝わる。本堂は大正2年(1913年)頃の竣工とされ、応接部はその翌年ごろに建てられた。

本堂もまた一見の価値がある。細長い境内に西面して建ち、入母屋造の妻入で、起り屋根の向拝を前に突き出す。妻飾には二重虹梁大瓶束を組み、正面には兎毛通しの彫刻を施すなど、背後の応接部よりも儀礼的な装いを見せる。鐘楼や手入れの行き届いた松も、都心とは思えない静けさの中に置かれている。

広尾は大使館やカフェの並ぶ国際色豊かな街で、広尾散歩通りの商店街もにぎわう。寺は東京メトロ日比谷線の広尾駅から徒歩数分、聖心女子大学にほど近い。日本画を集めた山種美術館も近く、あわせて訪ねるのもよい。

境内は日中、参拝のために開かれており、本堂や境内の様子は外から眺めることができる。ただし応接部は寺の生活の場であって、展示施設ではない。内部が常時公開されているわけではないため、訪れる際は祈りの場にふさわしい配慮を心がけたい。

Q&A

Q応接部の内部は見学できますか。
A応接部は来客や参拝者を迎えるための実用空間で、展示施設ではありません。内部が一般に公開されているわけではありませんが、本堂や境内の様子は日中の開門時間に外から拝観できます。
Q「登録有形文化財」と「重要文化財」は何が違うのですか。
A重要文化財や国宝は「指定」にあたり、厳選された少数を許可制で手厚く保護します。これに対し「登録」は平成8年に始まった制度で、数多い近代建造物を緩やかに守るもので、所有者には主に改変時の届け出が求められます。
Qいつ頃の建物ですか。
A応接部は大正3年(1914年)頃の建築で、平成17年(2005年)に改修されています。隣接する本堂はそれよりやや早く、大正2年(1913年)頃の竣工とされます。
Qアクセス方法を教えてください。
A東京メトロ日比谷線・広尾駅から徒歩約3分、渋谷区広尾の聖心女子大学にほど近い場所にあります。
Q周辺に他の見どころはありますか。
A広尾散歩通りの商店街や近隣の寺院、日本画専門の山種美術館などが徒歩圏にあり、半日ほど散策を楽しめます。

基本情報

名称上宮寺本堂応接部(じょうぐうじほんどうおうせつぶ)
所在地東京都渋谷区広尾五丁目2-2
区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日2017年(平成29年)10月27日/登録番号 13-390
員数1棟
構造・形式木造平屋建、瓦葺、建築面積約73平方メートル
年代大正3年(1914年)頃/平成17年(2005年)改修
所有者宗教法人上宮寺
アクセス東京メトロ日比谷線・広尾駅から徒歩約3分
公開状況境内は日中開門。応接部内部は通常非公開

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)上宮寺本堂応接部
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011893
文化遺産オンライン(上宮寺本堂)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/286366
文化庁 有形文化財(建造物)登録制度
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/
上宮寺 公式サイト
https://jyoguji.jp/

最終更新日: 2026.06.21