十三重塔(千日墓地):当尾に佇む鎌倉時代の石造美術の傑作

京都府南部、奈良との府県境にまたがる当尾(とうの)地区。緑深い丘陵の中に点在する中世の石仏群で知られるこの地域の一角に、鎌倉時代末期の石造美術の粋を今に伝える十三重塔が静かに立っています。京都府木津川市加茂町の千日墓地に所在するこの石造十三重塔は、永仁6年(1298年)の建立で、国の重要文化財に指定されています。花崗岩で造られた約4メートルの塔身は、七百年以上の歳月を経てなお、ほぼ完全な姿を保ち、鎌倉時代の優れた石工技術を物語っています。

歴史的背景

当尾地区は、奈良時代から鎌倉時代にかけて、修行のため山中に隠棲した僧侶たちが数多くの寺院を営んだ地域です。彼らは岩壁に仏像を刻み、石塔を建立して信仰の拠り所としました。その結果、この一帯は中世石造美術の宝庫として、今日まで豊かな文化遺産を伝えています。

千日墓地(せんにちぼち)は、古い墓地が数多く残る当尾地域の中でも最も古い歴史を持つ墓地とされています。「千日」の名は、仏教における長期間の追善供養の修行に由来すると考えられています。墓地内には、この十三重塔をはじめ、鎌倉時代の石鳥居、南北朝時代の双仏石(阿弥陀仏と地蔵菩薩)、室町時代の阿弥陀三尊石仏、永禄3年(1560年)の種子十三仏板碑、天文17年(1548年)の受け取り地蔵など、中世から近世にかけての多彩な石造文化財が残されています。

塔の基礎に刻まれた銘文は風化が著しいものの、紀年銘として「永仁六年(1298)戊戌八月十□日」が判読できます。さらに銘文には「奉造立十三重石塔婆」の文字が読み取れ、ある尼僧の出離生死(生死の輪廻からの解脱)を願って建立されたことが記されています。

重要文化財に指定された理由

千日墓地の十三重塔が国の重要文化財に指定された背景には、いくつかの卓越した特質があります。第一に、鎌倉時代後期の石造十三重塔として極めて保存状態が良好であることです。同時代の石塔の多くが上層部の笠石や相輪を失っている中、この塔は十三層すべての笠石と相輪を保持し、頂部の宝珠のみが欠損しているだけという、稀に見る完好な状態にあります。

第二に、初重軸部に刻まれた仏像の造形が優れていることです。四方の各面に舟形の窪みを彫りくぼめ、蓮座の上に坐す仏坐像を半肉彫りで表現しています。その像容は鎌倉時代の品格を備え、当時の石造彫刻の高い水準を示しています。

第三に、屋根裏面に一重の垂木型を刻み出す精緻な意匠、厚みのある軒が両端で力強く反り返る造形など、木造建築の技法を石材に見事に移し替えた構造的完成度が評価されています。

建築的特徴と見どころ

塔は花崗岩製で、総高約390~400センチメートル。二重基壇の上に堂々と立つ姿は、中世石造塔の理想的な姿と言えます。

最大の見どころは初重軸部の仏像彫刻です。四面それぞれに舟形の龕(がん)を彫りくぼめ、蓮華座上の仏坐像を半肉彫りで表現しています。四体の仏像は四方仏を表すと考えられ、穏やかながら威厳のある表情、自然な比率の身体、衣文の流麗な線など、鎌倉時代の石造彫刻の特質をよく伝えています。

十三層の笠石もまた注目に値します。各笠石の裏面には一重の垂木型が刻み出されており、これは木造塔の構造を忠実に石で再現したものです。厚みのある軒は両端で力強い反りを見せ、塔全体に躍動感を与えています。

基礎部分には、一面の中央に約22センチメートル角の奉籠孔(ほうろうこう)が穿たれています。内部はさらに約18センチメートル角に掘り込まれ、内孔の下辺中央には直径約6センチメートルの貫通円孔が設けられています。石蓋は失われていますが、舎利や経典などの納入品を安置するための精巧な構造が残されており、建立時の宗教的な営みを偲ばせます。

拝観案内

千日墓地は現在も地域の方々が利用する現役の墓地です。石造文化財の見学は自由にできますが、墓地内ではくれぐれも静粛にお過ごしください。墓地内をみだりに歩き回ることや、石造物から拓本を取ることは固くお断りしています。地域の方々と共に、この貴重な文化遺産を大切に守っていきましょう。

拝観料は無料で、年間を通じて訪問可能です。特に開場時間の定めはありませんが、日中の明るい時間帯の訪問をお勧めします。墓地の横に数台分の駐車スペースがあります。

公共交通機関をご利用の場合は、JR大和路線加茂駅から木津川市コミュニティバス(当尾線)に乗車し、「辻」バス停で下車、徒歩約15分です。JR加茂駅から徒歩の場合は約35分です。

周辺の見どころ

当尾地区には、千日墓地と合わせて訪れたい文化スポットが数多くあります。約1.1キロメートルの距離にある岩船寺(がんせんじ)は、初夏のアジサイで知られ、重要文化財の十三重石塔や美しい三重塔を擁しています。約1.6キロメートルの距離にある浄瑠璃寺(じょうるりじ)は、九体の阿弥陀如来像を安置する国宝の本堂と、浄土式庭園で名高い古刹です。

これらの寺院を結ぶ散策路沿いには、大門仏谷の如来形大磨崖仏をはじめとする数多くの石仏が点在しています。当尾の石仏巡りコースは、のどかな里山の風景の中で中世の信仰の世界に触れられる人気のハイキングルートです。

また、北方に位置する海住山寺(かいじゅうせんじ)には国宝の五重塔があり、木津川の流域を見渡す眺望が楽しめます。木津川市一帯には、天平12年(740年)に営まれた恭仁京跡(くにきょうあと)など、古代の歴史遺産も点在しています。

Q&A

Q千日墓地の十三重塔はいつ建てられましたか?
A永仁6年(1298年)、鎌倉時代後期に建立されました。基礎の銘文に「永仁六年戊戌八月十□日」の紀年銘が残されており、720年以上の歴史を持っています。
Qこの塔が他の石塔と比べて特に優れている点は何ですか?
A十三層すべての笠石と相輪を保ち、頂部の宝珠が欠損しているのみという、同時代の石塔として稀に見る完好な保存状態にあります。また、初重軸部の仏像彫刻の品格や、笠石裏面の垂木型の精緻さなど、造形面でも非常に高い水準を示しています。
Q見学に料金はかかりますか?
A無料です。年間を通じて自由に見学できます。ただし、現役の墓地ですので、静粛にお過ごしいただき、墓地内をみだりに歩き回ったり、石造物から拓本を取ったりすることはお控えください。
Q周辺の観光スポットと合わせて回れますか?
Aはい。当尾地区には岩船寺や浄瑠璃寺といった名刹があり、石仏巡りの散策路で結ばれています。一日かけてゆっくりと巡ることができ、中世の信仰文化に触れる充実した文化散策が楽しめます。
Q訪問に最適な季節はいつですか?
A四季を通じて訪問可能ですが、桜の春や紅葉の秋は特に風情があります。初夏には近隣の岩船寺でアジサイが見頃を迎えます。里山の静かな自然環境の中、どの季節でも心落ち着く散策が楽しめます。

基本情報

名称 十三重塔(じゅうさんじゅうのとう)
所在地 京都府木津川市加茂町大字辻小字三田第25番地の1(千日墓地内)
文化財指定 国指定重要文化財(建造物)
建立年代 鎌倉時代後期・永仁6年(1298年)
材質 花崗岩
高さ 約390~400cm
所有者 千日墓地管理組合
アクセス JR大和路線加茂駅から木津川市コミュニティバス(当尾線)「辻」下車、徒歩約15分/JR加茂駅から徒歩約35分
拝観料 無料

参考文献

千日墓地 - 京都府木津川市(japan-geographic.tv)
https://japan-geographic.tv/kyoto/kizugawa-sennichibochi.html
辻千日墓地(つじせんにちぼち)十三重石塔
https://kawai24.sakura.ne.jp/kyou-touno-tujisennitiboti.htm
当尾の石仏(京都府木津川市加茂町)千日墓地 - お寺の風景と陶芸
https://tempsera.seesaa.net/article/202111article_11.html
千日墓地 / 京都府 - JAPAN 47 GO
https://www.japan47go.travel/ja/detail/1de20cb0-5f25-448c-842c-5ab3e8d348f1
木津川市文化財保存活用地域計画 資料編(木津川市)
https://www.city.kizugawa.lg.jp/index.cfm/10,58822,c,html/58822/20230731-144402.pdf

最終更新日: 2026.04.13