水害に備えた三階建の土蔵

福知山は由良川の氾濫原に発達した町で、古くからの商家は水害を念頭に建物を構えてきた。大正4年(1915年)に築かれた旧片岡家住宅西土蔵は、その工夫がもっとも明快に現れた一棟である。敷地北西隅、二階建離座敷の西に南北棟で建つ。

際立つのはその高さである。通常なら二階建とするところを、この蔵は土蔵造の三階建とする。隣接する二階建離座敷と一連の普請として敷地地盤を約一メートル嵩上げしたうえ、さらに三階を積み、家財を水位より高く納める構えとした。漆喰塗の白壁と切妻造の桟瓦葺は蔵の常道に従うが、その足もとの土木的な工夫は常道を超えている。

登録の理由と価値

西土蔵は令和3年(2021年)6月、旧片岡家住宅の六棟の一つとして登録有形文化財に登録された。歴史的景観への寄与が評価の主旨だが、この蔵単体で見れば、土地の条件が形を決めた実用建築としての価値が大きい。三階建の土蔵は各地を見渡しても数が少なく、その理由がここでは明瞭に読める。度重なる氾濫にさらされてきた川から家財を守る、という切実な要請である。

この蔵はまた、独立した付属屋ではなく座敷群の一部として構想されている。南面には板敷の蔵前を設け、廊下で二階建離座敷とつながる。地元の調査は、この蔵が接客のための什器や調度を納めていたと見ており、離座敷での催事と表裏の関係にあったことがうかがえる。

訪ねて見たいところ

庭の側からは、蔵が周囲よりわずかに高い地盤に載っている様子をまず確かめ、離座敷へと続く廊下の取り合いをたどりたい。厚い漆喰の壁と小さな開口は土蔵の要件であり、火にも湿気にも強い造りを目指したものだ。三階まで階を数えるひと手間も惜しくない。三階建の土蔵という珍しさが、この町が川とどう折り合ってきたかを直接に語るからである。

屋敷は現在、鴨料理を中心とする「とりなご久兵衛」として営まれ、建物は食事のなかで体験する形になっている。予約をして訪ねるのがよい。なお、通りを隔てて堤防沿いに建つ旧片岡家別荘(現・芦田家住宅)は別に登録された物件であり、この本宅の屋敷とは混同しないよう注意されたい。

Q&A

Qなぜ蔵が三階建なのですか。
A水害対策です。敷地を約一メートル嵩上げしたうえ三階を積み、由良川の増水が及ぶ高さより上に家財を納められるようにしました。
Q土蔵とは何ですか。
A厚い土壁を漆喰で仕上げ、火や湿気から中の物を守る伝統的な倉のことです。西土蔵はそこに水害への備えとして高さを加えています。
Q内部を見られますか。
A屋敷は飲食店「とりなご久兵衛」として使われており、食事の際に建物を見られます。西土蔵は短い廊下で二階建離座敷とつながっています。
Qいつ建てられたのですか。
A大正4年(1915年)、この蔵が仕える二階建離座敷と同じ年の建築です。令和2年(2020年)に現在の店の開業に合わせて改修されました。

基本情報

名称旧片岡家住宅西土蔵
所在地京都府福知山市字下柳15
指定区分登録有形文化財(令和3年6月24日登録)
員数1棟
構造及び形式土蔵造3階建、瓦葺、建築面積32平方メートル
建築年大正4年(1915年)/令和2年改修
活用飲食店「とりなご久兵衛」
アクセス福知山駅から徒歩約15分。食事の際に内部見学可、要予約

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 旧片岡家住宅西土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013832
文化遺産オンライン — 旧片岡家住宅主屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/591530
福知山市オフィシャルホームページ — 旧片岡家住宅
https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/soshiki/7/46298.html

最終更新日: 2026.07.03