安乗埼灯台:志摩半島の岬に立つ珍しい四角形の灯台
三重県志摩市の安乗崎の先端に凛と立つ安乗埼灯台(あのりさきとうだい)は、日本では珍しい四角形をした白亜の灯台です。穏やかな的矢湾と荒々しい太平洋(熊野灘)の境に位置し、伊勢志摩国立公園の美しい自然に囲まれています。2013年(平成25年)に国の登録有形文化財に登録されたこの灯台は、江戸時代の燈明台から数えて340年以上の歴史を持ち、「日本の灯台50選」にも選ばれた日本を代表する参観灯台のひとつです。
340年を超える海の道しるべの歴史
安乗埼灯台の歴史は、延宝9年(1681年)に徳川幕府が船の道しるべとして建てた燈明堂に遡ります。当時は約3メートルの塔の上に油紙で囲った灯籠を置き、菜種油を燃やして明かりとしていました。風雨の激しいときには薪を燃やしていたと伝えられています。
明治6年(1873年)4月1日、イギリス人技術者リチャード・ヘンリー・ブラントン(「日本の灯台の父」と称される)の設計により、同地に近代的な洋式灯台が完成しました。全国で20番目の洋式灯台であったこの初代灯台は、総ケヤキ造りの八角形で高さ約10.6メートル、石油ランプを光源とし、日本で初めて回転式フレネルレンズを採用した画期的な灯台でした。伊勢から熊野にかけての沿岸で最も早く点灯した灯台でもあります。
その後、海食による地盤の崩壊に伴い灯台は2度にわたり後方へ移設を余儀なくされ、昭和23年(1948年)に現在の位置に鉄筋コンクリート造の四角形灯台として建て替えられました。初代の木造灯台は当時現存する最古の木造灯台として価値が認められ、解体・移設を経て現在は東京都品川区の「船の科学館」に保存・展示されています。
登録有形文化財としての価値
安乗埼灯台は、2013年(平成25年)3月29日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録にあたっては、一辺2.9メートルの正方形平面を持つ付属舎付灯塔と円筒形の灯室、その上に八角形平面の鋼製灯籠を載せた総高16メートルの構造が評価されています。装飾的な要素を排した幾何学的構成を特徴とし、岬の歴史的景観の形成に寄与している建造物として、その文化的価値が認められています。
また、この灯台は昭和32年(1957年)公開の木下恵介監督映画「喜びも悲しみも幾歳月」(佐田啓二・高峰秀子主演)のロケ地としても知られています。日本各地の灯台守夫婦の人生を描いたこの名作映画は、灯台という存在が日本の海洋文化においていかに重要であったかを伝える作品として今なお親しまれています。
見どころと魅力
安乗埼灯台は、日本全国にわずか16基しかない「のぼれる灯台」(参観灯台)のひとつです。灯台内部のらせん階段を上ると、灯台の頂上から360度のパノラマが広がります。眼下には穏やかな的矢湾と、その対照的な荒々しい太平洋(熊野灘)の海を同時に望むことができ、冬の快晴の日には遠く富士山を眺望できることもあります。元旦には多くの写真愛好家が初日の出を見るために集まります。
灯台の周辺は安乗岬園地として美しく整備された芝生広場が広がり、散策やピクニックに最適な空間です。園地の一角には「安乗埼灯台資料館」があり、初代木造八角形灯台の3分の1スケール模型のほか、灯台の歴史に関する資料や映画「喜びも悲しみも幾歳月」の関連展示を無料で見学できます。光と音で嵐を再現したコーナーも設けられ、灯台守の仕事を体感することができます。
芝生広場に面した「安乗埼灯台園地休憩舎」内には、「きんこ芋工房 上田商店」が運営するカフェがあります。志摩の伝統的な郷土おやつである「きんこ」(干し芋)を使ったスイーツが人気で、灯台見学の合間にゆったりとした時間を過ごすことができます。お土産の購入も可能です。
また、安乗埼灯台から志摩半島南東端の大王埼灯台まで約16キロメートルの自然歩道が整備されており、リアス式海岸の美しい景色を楽しみながらの海岸散策もおすすめです。
海女文化と安乗埼灯台
安乗埼灯台のある地域は、日本遺産「海女(Ama)に出逢えるまち 鳥羽・志摩」の構成文化財にも含まれています。古くからこの海域で素潜り漁を営んできた海女たちにとって、安乗埼灯台は海上から自らの位置を確認するための重要なランドマークです。天候の良い日には、灯台の上から海女たちが岬の脇を通り海へ出漁する姿を見ることができることもあり、2,000年以上受け継がれてきた海の営みを間近に感じられる貴重な場所です。
周辺情報
安乗埼灯台は伊勢志摩国立公園内に位置しており、周辺には魅力的な観光スポットが豊富です。灯台のある安乗の漁村は「あのりふぐ」(三重ブランド認定のトラフグ)の名産地として知られ、冬季には地元の旅館や飲食店で上質なふぐ料理を堪能できます。
また、安乗集落には「安乗文楽」という歴史ある人形芝居が伝えられています。安乗神社で奉納される安乗の人形芝居は無形民俗文化財に指定されており、地域の伝統芸能として大切に守られています。そのほか、志摩半島南東端の大王埼灯台、英虞湾を一望できる横山展望台、志摩スペイン村、そして日本有数の聖地である伊勢神宮へのアクセスも良好です。
Q&A
- 安乗埼灯台は上まで登ることができますか?
- はい、安乗埼灯台は全国にわずか16基しかない「のぼれる灯台」(参観灯台)のひとつです。内部のらせん階段を上り、灯台頂上の展望エリアから太平洋と的矢湾の360度パノラマを楽しむことができます。参観寄付金は中学生以上300円、小学生以下および障がい者(介助者1名まで)は無料です。
- 公共交通機関でのアクセス方法を教えてください。
- 近鉄鵜方駅から三重交通バス「安乗」行きに乗車し、約20〜30分で「安乗埼灯台口」バス停に到着します。バス停から灯台までは徒歩約10〜15分です。バスの本数は限られていますので、事前に時刻表の確認をおすすめします。お車の場合は、第二伊勢道路「白木IC」から国道167号・514号線経由で約35分です。灯台近くに無料駐車場があります。
- 開館時間と休館日を教えてください。
- 安乗埼灯台は年中無休で公開されています。3月〜10月は平日9:00〜16:00、土日祝日・GW・お盆期間は9:00〜16:30です。11月〜2月は毎日9:00〜16:00です。ただし、荒天時や業務の都合により参観中止や時間変更となる場合があります。
- おすすめの訪問時期はいつですか?
- 季節ごとに異なる魅力があります。春・秋は快適な気候の中で園地の散策を楽しめます。冬は澄んだ空気で富士山が見えるチャンスがあり、名物「あのりふぐ」の旬でもあります。夏は海の青さが鮮やかですが、暑さ対策が必要です。元旦には多くの方が初日の出を目当てに訪れます。
- 灯台資料館は有料ですか?
- 安乗埼灯台資料館は入館無料です。初代木造灯台の3分の1模型や灯台の歴史資料、映画「喜びも悲しみも幾歳月」の関連展示などを見学できます。灯台とあわせてぜひお立ち寄りください。
基本情報
| 名称 | 安乗埼灯台(あのりさきとうだい) |
|---|---|
| 文化財指定 | 登録有形文化財(建造物)/2013年(平成25年)3月29日登録 |
| 所在地 | 〒517-0507 三重県志摩市阿児町安乗字小山795 |
| 所有者 | 国(国土交通省) |
| 初点灯 | 明治6年(1873年)4月1日 ※全国20番目の洋式灯台 |
| 現灯台竣工 | 昭和23年(1948年) |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造、四角形灯塔+円筒形灯室+八角形鋼製灯籠 |
| 高さ | 塔高 16メートル(灯火標高 約35メートル) |
| 建築面積 | 27㎡ |
| 光達距離 | 16.5海里(約31km) |
| 灯質 | 単閃白光 毎15秒に1閃光 |
| 参観時間 | 3月〜10月:平日 9:00〜16:00 / 土日祝 9:00〜16:30 11月〜2月:毎日 9:00〜16:00 |
| 参観寄付金 | 中学生以上 300円 / 小学生以下・障がい者(介助者1名まで)無料 |
| アクセス | 近鉄鵜方駅から三重交通バス安乗行き約20〜30分「安乗埼灯台口」下車、徒歩約10〜15分 / 第二伊勢道路「白木IC」から約35分 |
| 駐車場 | 無料駐車場あり |
参考文献
- 安乗埼灯台 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/278030
- 安乗埼灯台 — 文化庁 近代の文化遺産の保存と活用
- https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/032/index.html
- 安乗埼灯台(あのりさき) — 公益社団法人 燈光会
- https://www.tokokai.org/tourlight/tourlight08/
- 安乗埼灯台 — 日本遺産ポータルサイト
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/4293/
- 安乗埼灯台 — 志摩市観光協会
- https://www.kanko-shima.com/purpose/2100/
- 安乗埼灯台 — 観光三重
- https://www.kankomie.or.jp/spot/2241
- 安乗埼灯台 — 安乗岬旅館組合 公式ホームページ
- https://www.anorifugu.biz/anoritoudai.php
- About the Lighthouse — Anorisaki Official Website
- https://www.anorisaki.com/about-en
最終更新日: 2026.03.26