途中で棟を下げる16メートルの土塀

佐野家住宅土塀は、三重県松阪市飯南町深野にある明治頃の土塀で、平成25年(2013年)6月21日に国の登録有形文化財(建造物)となった。

敷地東面の石垣の上に築かれ、瓦葺の屋根を戴いて延長16メートルに及ぶ。一直線に同じ高さで通っているわけではない。北側の6.4メートルに対し、南側の9.3メートルは棟を一段下げて築かれている。その低いほうの区間に、潜戸が一か所開く。身をかがめて通る小さな戸口である。

棟を下げるという操作は、注目に値する。同じ高さで通したほうが施工は単純で、外から見た威圧感も増す。それをせず、あえて線を折った。結果として東面の囲いには、地面の傾きに応答するような高低のリズムが生まれている。

軒裏まで塗り込める

屋根は切妻造の桟瓦葺。主屋や小蔵と同じ桟瓦を用いる。その下の仕上げは徹底している。漆喰を軒裏まで塗り込め、正面のどこにも木部を露出させない。

壁の上部近くには鉢巻を廻らせている。鉢巻とは水平に一段せり出した漆喰の帯のことで、名前のとおり頭に巻く布と同じ働きをする。全体を締め、白い壁面に一本の影の線を落とす。実用面では、壁面に雨水が回り込むのを防ぐ役割も果たす。紀伊山地からの雨を受けるこの谷筋では、土を芯とする壁にとって無視できない機能である。

仕上がりの印象は重い。文化庁の解説文も「重厚な趣」という表現を用いており、現地で見た感覚と食い違わない。庭を仕切る軽い塀ではなく、斜面を押さえる石積みの上に、長く保つことを前提として据えられた囲いである。

四つで一つの屋敷構え

佐野家は江戸時代後期から近年まで薬種問屋と薬局を営み、「佐野翠香堂」の屋号で地元に知られてきた。敷地は櫛田川の北岸を東西に走る和歌山街道に南面する。松阪と和歌山を結び、伊勢参宮や吉野詣の道ともなった街道である。

この屋敷構えのうち四件が、平成25年6月21日の第75回登録で同時に登録された。主屋が24-0150、小蔵が24-0151、石垣が24-0152、そして土塀が24-0153。いずれも登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

土塀の解説文は、その位置づけを率直に述べている。小蔵、石垣とともに敷地の景観を整える要素の一つ、という書き方だ。傾斜地を削平した地盤、三辺を受ける石積み、その上に載る土塀と生垣。どれか一つが欠ければ、屋敷構えの成り立ちは読み取れなくなる。四件をまとめて登録した判断の根拠がここにある。

見学にあたって

佐野家住宅は個人の所有であり、現在も住まいとして使われている。敷地内は公開されておらず、公開日も拝観料も設定されていない。土塀の潜戸は住宅の一部であり、見学者のための出入口ではない。見学は公道からに限られる。

土塀は敷地の東面にあり、それを支える石垣と一続きに眺められる。外から見るなら東側からの接近が最も分かりやすい。公道からの撮影に制限はないが、敷地内への立ち入りと、住居部分に向けた撮影は控えていただきたい。

アクセスは、JR・近鉄松阪駅から飯高地域振興局方面行きのバスで約35分、深野バス停下車。車では伊勢自動車道松阪インターチェンジから国道166号経由で約30分。国道166号は和歌山街道の道筋をほぼそのまま引き継いでいる。バス停から山側へ2キロメートル、徒歩20分から30分の坂を登れば、白猪山の南麓に約120段の石積みの棚田が広がる。平成11年(1999年)に日本棚田百選に選ばれた深野のだんだん田である。

Q&A

Q佐野家住宅土塀の長さはどれくらいですか。
A佐野家住宅土塀は敷地東面に延長16メートルにわたって築かれています。北側が6.4メートル、南側が9.3メートルで、南側は棟を一段下げた構成です。
Q佐野家住宅土塀の潜戸から中に入ることはできますか。
Aできません。潜戸は個人住宅の一部であり、見学者用の出入口ではありません。敷地は非公開で、公開日や拝観料の設定もありません。見学は公道からの外観に限ってください。
Q佐野家住宅土塀は何の上に築かれていますか。
A敷地東面の石垣の上に築かれています。この石垣は登録番号24-0152として別途登録されており、傾斜地を削平した地盤を支える役割を担っています。
Q佐野家住宅土塀の仕上げにはどのような特徴がありますか。
A屋根は切妻造の桟瓦葺で、漆喰を軒裏まで塗り込め、木部を表に見せません。壁の上部近くには鉢巻と呼ばれる水平の漆喰の帯を廻らせています。
Q佐野家住宅土塀はいつ築かれ、いつ登録されましたか。
A文化庁のデータベースでは年代を「明治頃」(1868年から1912年)と幅を持たせて記載しています。登録有形文化財としての登録は平成25年(2013年)6月21日、登録番号は24-0153です。

基本情報

名称佐野家住宅土塀(さのけじゅうたくどべい)
所在地三重県松阪市飯南町深野字田之浦3490-1
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 24-0153
指定年平成25年(2013年)6月21日登録(第75回登録)
員数1棟
寸法土塀、瓦葺、延長16メートル、潜戸付
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。公道からの外観見学が可能

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)佐野家住宅土塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009620
松阪市 佐野家住宅主屋、佐野家住宅小蔵、佐野家住宅石垣、佐野家住宅土塀
https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/culture-info/sanokejyutaku.html
国指定文化財等データベース(文化庁)佐野家住宅石垣
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009619
みえの歴史街道 和歌山街道(三重県)
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/kaidou/rekisi/rekisi8/index.htm
観光三重 日本棚田百選「深野のだんだん田」
https://www.kankomie.or.jp/spot/2215

最終更新日: 2026.08.02