玉石を積んだ48メートルの石垣

佐野家住宅石垣は、三重県松阪市飯南町深野にある明治前期の石造の擁壁で、平成25年(2013年)6月21日に国の登録有形文化財(建造物)となった。

敷地の北辺から東辺にかけてを囲み、折れ曲がりながら延長48メートルに及ぶ。石垣の上部はそのまま土塀になる箇所と、生垣になる箇所とに分かれる。石積みだけで囲いが完結しているのではなく、下半分を石が、上半分を土塀と植栽が受け持つ二層の構成になっている。

用いられているのは玉石、つまり河原で採れる丸みを帯びた石である。積み方は野面積みで、石の面を加工せずそのまま用いる。角を落とした石は一つもない。石は隣り合う石との噛み合わせを見て選ばれ、その結果として目地は不規則に走る。この地域でごく普通に見られるやり方であり、その普通さこそが登録の理由につながっている。

削平された地盤を支える

深野は斜面に開けた集落である。櫛田川の北岸から白猪山の方向へ土地が上がっていく。ここに商家を構えるには、まず平坦な地盤をつくる必要があった。周辺の地形からみて、佐野家の敷地はもともと傾斜地であった箇所を削平したものと考えられている。

その削平面を押さえているのが石積みである。松阪市の解説によれば東・北・西の三辺が石積みで土留めされており、このうち登録の対象となっているのは北から東辺にかけての、折曲り延長48メートルの部分にあたる。

北面には他と異なる箇所がある。石垣の下部にわざと窪みを設け、切土面からしみ出す湧水を溜める場所としているのだ。擁壁にとって地下水は厄介な存在だが、ここでは排除するのではなく行き先を与える方法がとられた。文化庁の解説文もこの湧水溜を特徴的なつくりとして挙げている。深野の集落には「マンボ」と呼ばれる小規模な地下水路で水を配ったという記録もあり、水を必要な場所へ導くという発想は、この石垣の細部にも共通している。

石で組み上げられた集落

擁壁がなぜ国の登録文化財になるのか。その答えは、街道から山側へ2キロメートルほど登れば見えてくる。白猪山の南麓には約120段の石積みの棚田が連なる。深野のだんだん田である。使われている石の数は推計で約300万個、石垣の総延長はおよそ120キロメートルに達するとされ、平成11年(1999年)に日本棚田百選に選定された。

地元ではこの石積みを「石ボタ」「石ホタ」と呼ぶ。棚田の擁壁には、石を横に寝かせて並べる布積み、斜めにした石の向きを段ごとに変える谷積み、規則性の見えない乱れ積みが混在している。佐野家の石垣もこの延長線上にある。街道沿いの商家が用いた石も、それを積んだ手も、石の据わりを見きわめる目も、斜面で田を拓いた人々のそれと地続きだった。

適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。同じ第75回登録で、主屋(24-0150)、小蔵(24-0151)、石垣(24-0152)、土塀(24-0153)の四件が同日に登録された。このうち石垣だけが種別を「その他工作物」とし、員数も1基と数えられている。

見学にあたって

佐野家住宅は個人の所有で、現在も生活の場である。敷地内は公開されておらず、公開日や拝観料の設定もない。ただし石垣は北辺から東辺にかけて外周に面しており、四件のなかでは外から最も見やすい要素にあたる。

公道からの撮影に制限はない。見学は道路上にとどめ、敷地内に立ち入ることや住居部分へ向けた撮影は控えていただきたい。石の表情を見るなら、光が斜めから当たる午後遅い時間帯が向いている。真昼の光では目地の陰影が出にくい。

アクセスは、JR・近鉄松阪駅から飯高地域振興局方面行きのバスで約35分、深野バス停下車。車の場合は伊勢自動車道松阪インターチェンジから国道166号経由で約30分となる。国道166号は和歌山街道のルートをほぼ踏襲している。棚田までは深野バス停からさらに徒歩20分から30分の坂道で、展望地には小規模な駐車場が整備されている。

Q&A

Q佐野家住宅石垣の長さはどれくらいですか。
A佐野家住宅石垣は折曲り延長48メートルです。敷地の北辺から東辺にかけてを囲んでおり、員数は1基として登録されています。
Q佐野家住宅石垣は見学できますか。
A敷地は個人所有で非公開ですが、石垣は敷地の外周に面しているため、四件の登録要素のなかでは公道から最も見やすい位置にあります。見学は公道からに限り、敷地内には立ち入らないでください。
Q佐野家住宅石垣はどのような積み方ですか。
A河原の丸い石(玉石)を、面を加工せずそのまま積む野面積みです。この地域で広く見られる技法で、集落の上方に広がる深野のだんだん田の石積みにも同じ手法が用いられています。
Q佐野家住宅石垣に特徴的なつくりはありますか。
A北面の一部で石垣の下部に窪みを設け、切土面からしみ出す湧水を溜める構造としています。文化庁の解説文でも、この湧水溜が特徴的なつくりとして挙げられています。
Q佐野家住宅石垣はいつ築かれ、いつ登録されましたか。
A年代は明治前期(1868年から1882年)とされています。登録有形文化財としての登録は平成25年(2013年)6月21日で、登録番号は24-0152です。同じ敷地の主屋・小蔵・土塀も同日に登録されました。

基本情報

名称佐野家住宅石垣(さのけじゅうたくいしがき)
所在地三重県松阪市飯南町深野字田之浦3490-1
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 24-0152
指定年平成25年(2013年)6月21日登録(第75回登録)
員数1基
寸法石造、折曲り延長48メートル
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。公道からの外観見学が可能

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)佐野家住宅石垣
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009619
松阪市 佐野家住宅主屋、佐野家住宅小蔵、佐野家住宅石垣、佐野家住宅土塀
https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/culture-info/sanokejyutaku.html
観光三重 日本棚田百選「深野のだんだん田」
https://www.kankomie.or.jp/spot/2215
農林水産省 棚田に恋 深野だんだん田
https://www.nou-navi.maff.go.jp/tanadanikoi/cards/深野だんだん田/
みえの歴史街道 和歌山街道(三重県)
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/kaidou/rekisi/rekisi8/index.htm

最終更新日: 2026.08.02