我妻家住宅とは:青麻山の麓に残る「禰宜屋敷」

我妻家住宅は、宮城県刈田郡蔵王町曲竹にある江戸時代中期の豪農の屋敷で、宝暦3年(1753年)建築の主屋と文庫蔵が昭和46年(1971年)に重要文化財に指定された。のちに蔵2棟と宅地が加わり、いまは主屋・文庫蔵・前蔵・板蔵の4棟に、附(つけたり)の穀蔵と表門を含めた屋敷構え全体が重要文化財になっている。

名字は「わがつま」ではなく「あがつま」と読む。蔵王町教育委員会の解説によれば、一族はもと上野国吾妻本郷(現在の群馬県吾妻郡)の武士で、曲竹村に所領を得て移り住み、戦国時代の末に農家へ転じた。江戸時代には村の肝入(村役人の代表)をたびたび勤め、木綿や紅花を扱う商いでも名を知られたという。

地元で「禰宜屋敷」と呼ばれるのは、戦国末から江戸初期にかけて一族が神職の禰宜を兼ねたためである。宮城県の解説は仕えた社を蔵王町宮の白鳥明神(刈田嶺神社)とし、建物の全長が25間あったことから「二十五けん」の呼び名もあったと記す。

屋敷は青麻山の麓、曲竹の集落の中にある。正面に畑が開け、背後を屋敷林が囲む配置は、宮城の山沿いの農家に多い構えだ。

我妻家住宅が重要文化財に指定された理由

最初の指定は昭和46年(1971年)12月28日で、対象は主屋と文庫蔵の2棟だった。蔵王町観光物産協会の紹介は、江戸時代の民家としてまれな規模をもつことと、主屋のまわりに蔵や門まで残ることを挙げている。

その後、前蔵と板蔵から墨書が見つかり、建てられた年がはっきりした。これを受けて昭和55年(1980年)1月26日に2棟が追加指定され、穀蔵・表門・萬年記1冊が附として、宅地も合わせて指定に加わった。文化庁の解説文は、附属屋が多く背面に屋敷林を備える点でこの地方の構えをよく残しているとし、宅地ごと屋敷全体を保存する趣旨を明記している。

宅地の面積は3,624.59平方メートルで、4番地の周囲の石垣と裏庭の石垣も含む(蔵王町教育委員会の工事資料による)。町の解説も、建物だけが守られる民家が多いなかで、我妻家住宅は門や蔵から宅地までが保存の対象になっている点を強調する。

なお、附の文書の名称は、文化庁データベースでは「蔓年記」、蔵王町の解説では「萬年記」と表記が分かれている。

我妻家住宅の見どころ

主屋:桁行26.3メートルの茅葺寄棟

文化庁データベースによると、我妻家住宅の主屋は桁行26.3メートル、梁間12.1メートルの寄棟造・茅葺で、西面に桁行9.1メートル、梁間5.3メートルの突出部が付く。宮城県の解説はこれを全長120尺(約36.4メートル)の長大な建物と表現し、寄棟屋根の前面に掲げた大きな櫛形の破風を特徴に挙げる。建物は石を積んだ基壇と石段の上にのっており、南の庭から見上げると屋根の厚みがよく分かる。

中へ入ると、まず土間の広さに驚く。町の解説では土間だけで39坪(約129平方メートル)あり、宮城県の解説によれば台所庭には手斧で削った丸柱6本が礎石の上に立ち、屋根組を支えている。梁は木の自然な曲がりを生かして組まれ、見上げると一本ごとに癖の違う材が噛み合っている。

居室部は過去の復原修理で広間型の3間取りに戻された。上手に別棟として付く書院座敷「ひろま」は、表側の半分が壁、半分が蔀戸の形に復原されている。修理で見つかった墨書から、主屋は宝暦3年(1753年)、ひろまはそれよりやや遅れて加えられたとみられている。

屋根の頂部も見ておきたい。蔵王町教育委員会の資料によると、建築当初の棟は東北地方の茅葺民家に多い芝棟のような形式だったらしく、文化11年(1814年)以降に箱棟へ改められた。箱棟の下には杉の葉を用いた品軒があり、棟際の茅が痩せて抜けるのを防ぐ。軒先の茅をほぼ水平に刈りそろえるのも、この地域の特徴とされる。

4棟の蔵と表門

我妻家住宅の敷地では、主屋の背後に文庫蔵・穀蔵・板蔵が並び、前蔵は表門の脇に立つ。

文庫蔵は桁行9.1メートル、梁間5.5メートルの2階建ての土蔵造で、切妻造・鉄板葺。文化庁データベースは年代を江戸後期とし、町の工事資料は宝暦3年(1753年)頃の建築とする。

前蔵は桁行9.1メートル、梁間4.6メートルの土蔵造で、屋根はとち葺。文化7年(1810年)の年紀をもち、文化庁データベースは「移築」と注記する。町の工事資料は古い蔵を移して建てたものとし、町の解説は刈田郡の備荒蔵(凶作に備える蔵)として建てられ、当時の当主源三郎が資金として75両を寄付したと伝えている。

板蔵は文化2年(1805年)の建築で、桁行5.5メートル、梁間2.7メートル。4棟のうちもっとも小さく、壁も板張りの蔵で、籾を納める籾蔵として使われていた。

附の穀蔵は文政2年(1819年)より前、表門は19世紀半ばごろの建築とされる。

2度の地震と保存修理

令和3年(2021年)2月13日と令和4年(2022年)3月16日の福島県沖地震で、蔵王町は2度とも震度6強を観測した。我妻家住宅では蔵の土壁が大きく剥がれ落ちるなどの被害が出た。壁の塗り直しや柱の建て起こしを行う災害復旧工事は2021年11月から2025年6月まで、主屋の屋根の葺き替えや建具の修理を含む保存修理は2022年11月から2025年7月まで続き、2025年9月に一般公開が再開された。白い漆喰壁に戻った文庫蔵や前蔵は、修理の成果がいちばん見て取りやすい建物だ。

我妻家住宅の見学方法とアクセス

我妻家住宅はいまも個人が所有する住宅で、見学できるのは指定の公開日に限られる。公開日は毎月第3日曜日(8月・12月・1月を除く)で、時間は午前10時から午後4時まで、2月と3月は午後3時までとなる。入場の受付は終了の30分前に締め切られる。2026年度(2026年4月〜2027年3月)のこれからの公開日は、10月18日、11月15日、2027年2月21日、3月21日の予定である。

公開日以外は敷地に入れない。門と塀に囲まれているため、外から外観だけを眺めることもできないので注意したい。公開日は地域の事情で変更・中止になることがあり、最新の予定は蔵王町教育委員会の文化財サイト「どきたんドットコム」で告知される。

予約は不要で、当日は我妻家住宅の南側にある曲竹公民館(蔵王町曲竹字薬師前3-2)の見学者受付所へ向かう。敷地内はボランティアガイドが案内する。町の公開案内には料金の記載がなく、建物内での撮影の可否も明記されていないため、受付で確かめておくと安心だ。

公共交通ではミヤコーの路線バスで「曲竹」停留所まで行き、そこから徒歩約5分。車の場合は駐車場があり、カーナビには受付所の曲竹公民館の住所を入れるよう町が案内している。問い合わせは平日が蔵王町文化財保護係(0224-33-2328)、土日祝日は蔵王町ふるさと文化会館(0224-33-2018)。

Q&A

Q我妻家住宅はいつ見学できますか?公開日と公開時間は?
A我妻家住宅の公開日は毎月第3日曜日(8月・12月・1月を除く)で、午前10時から午後4時まで(2月・3月は午後3時まで)です。入場受付は終了の30分前までです。公開日以外は敷地に入れず、外観だけの見学もできません。
Q我妻家住宅の見学に予約や入場料は必要ですか?
A予約は不要です。公開日に我妻家住宅の南側にある曲竹公民館の見学者受付所へ行くと、ボランティアガイドが案内してくれます。町の公開案内に料金の記載はないため、気になる場合は蔵王町文化財保護係(0224-33-2328)に確認してください。
Q我妻家住宅へのアクセスは?駐車場はありますか?
Aミヤコーの路線バス「曲竹」停留所から徒歩約5分です。駐車場があり、車で行く場合はカーナビに受付所の曲竹公民館(蔵王町曲竹字薬師前3-2)を入れるよう町が案内しています。
Q我妻家住宅で重要文化財に指定されている建物はどれですか?
A主屋と文庫蔵が昭和46年(1971年)に重要文化財に指定され、昭和55年(1980年)に前蔵と板蔵が追加指定されて4棟になりました。このとき附として穀蔵・表門・萬年記1冊、さらに宅地も指定に加わっています。
Q我妻家住宅の「我妻」は何と読みますか?「禰宜屋敷」と呼ばれるのはなぜですか?
A「あがつま」と読みます。我妻家が戦国末から江戸初期にかけて地元の社の禰宜(神職)を兼ねていたことから、我妻家住宅は禰宜屋敷とも呼ばれています。

基本情報

名称我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町)
所在地宮城県刈田郡蔵王町大字曲竹字薬師前4番地
指定区分重要文化財
指定年昭和46年(1971年)重要文化財指定(主屋・文庫蔵)、昭和55年(1980年)追加指定(前蔵・板蔵ほか)
員数4棟(附:穀蔵1棟、表門1棟、萬年記1冊、宅地)
寸法主屋 桁行26.3m・梁間12.1m(西面突出部 桁行9.1m・梁間5.3m)、文庫蔵 桁行9.1m・梁間5.5m、前蔵 桁行9.1m・梁間4.6m、板蔵 桁行5.5m・梁間2.7m
所有者個人
公開状況指定公開日のみ公開(毎月第3日曜日の午前10時〜午後4時。休止月・短縮月あり)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/128
文化庁 国指定文化財等データベース「我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 文庫蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/129
文化庁 国指定文化財等データベース「我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 前蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/130
文化庁 国指定文化財等データベース「我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 板蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/131
文化遺産オンライン「我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/143828
宮城県「指定文化財〈重要文化財〉我妻家住宅」
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bunkazai/13agatuma.html
蔵王町教育委員会 どきたんドットコム「我妻家住宅」
https://www.dokitan.com/sitei/01.html
蔵王町教育委員会「重要文化財我妻家住宅 保存修理工事 資料(令和7年(2025年)9月)」
https://www.dokitan.com/sitei/agatsuma-family-house_R07-2.pdf
蔵王町教育委員会「我妻家住宅の茅葺の特徴について(令和6年(2024年)6月)」
https://www.dokitan.com/sitei/agatsuma-family-house_R6_2.pdf
重要文化財 我妻家住宅 一般公開 公開日周知ポスター(2026年4月〜2027年3月)
https://www.dokitan.com/sitei/heritage_agatsuma_house_2006.pdf
蔵王町観光物産協会「我妻家住宅」
https://www.zao-machi.com/temples_history/417.html

最終更新日: 2026.09.25

同エリアの文化財

いずれも同じエリアの徒歩圏内にあるので、あわせての見学がおすすめです。

  1. 我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 主屋 0.00 km
  2. 我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 前蔵 0.02 km
  3. 我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 文庫蔵 0.03 km
  4. 我妻家住宅(宮城県刈田郡蔵王町) 板蔵 0.03 km