清武の大クス:900年の時を生きる宮崎の巨木
宮崎市の南西部、のどかな田園地帯に佇む船引神社。その本殿の北側に、ひときわ存在感を放つ巨木がそびえ立っています。「清武の大クス」と呼ばれるこの楠(クスノキ)は、樹齢およそ900年と伝えられ、根回り18メートル、高さ約35メートルという威容を誇る、宮崎県下最大級の巨木です。1951年(昭和26年)には国の天然記念物に指定され、地域の人々のみならず、全国から訪れる人々に深い感動を与え続けています。
静かな境内に立ち、その途方もないスケールと長い時間を体感できる、まさに「日本の自然の記念碑」とも言うべき名木です。
船引神社とともに歩んだ900年の歴史
清武の大クスを語るうえで欠かせないのが、その根を張る船引神社の歴史です。社伝によれば、船引神社の創建は寛治元年(1087年)九月十五日、第七十二代堀河天皇の御代にまで遡ります。当初は「正八幡神社」と称し、相模国湯井郷(現在の鎌倉)にある鶴岡八幡宮の霊を勧請して創建されたと伝えられています。御祭神は仲哀天皇、神功皇后、応神天皇の三柱で、八幡神社として地域の産土神(うぶすながみ)として今も篤く信仰されています。
大クスは、ちょうどこの神社の創建と時を同じくして芽吹いたと伝えられており、「八幡楠(はちまんぐす)」という別名でも親しまれています。武士の世が始まる以前、平安貴族の文化が花開いていたころから、この地で静かに枝を広げ続けてきた生き証人なのです。
なぜ国の天然記念物に指定されたのか
清武の大クスが国の天然記念物に指定されたのは、昭和26年(1951年)6月9日。その理由は、単に古くて大きいというだけではありません。
公式記録によれば、その大きさは目通り(地上約1.3メートルの幹周り)12.25メートル、根回り18メートル、樹高約35メートル。枝張りは東西33メートル、南北27メートルにも達します。地上2メートルあたりから東方へと伸びていた一大枝はかつて折れ、その断面は大きく開口していますが、開口部付近からは新たな生枝が伸び、地上5メートルの位置で南北二本の支幹に分かれて、なお豊かな枝葉を茂らせています。
本幹は地上8メートルほどまで空洞となっており、その底は五畳敷ほどの広さがあると言われています。西側にある開口部から内部をのぞき込むと、まるで生きている洞窟に迷い込んだような不思議な感覚に包まれます。学術的にも宮崎県下最大のクスとして高く評価されており、文化的にも一つの集落が長きにわたり守り続けてきた信仰の象徴として、国民共有の宝に数えられているのです。
見どころ
本幹の大空洞
大クス最大の見どころは、なんといっても本幹に広がる大きな空洞です。地元の伝承によれば、第二次世界大戦中にはこの空洞が防空壕として使われたこともあったといいます。900年の樹齢をもつ巨木が、近代の歴史をも見守ってきたという事実に、深い感慨を覚えずにはいられません。現在は根を保護するため、木道(ボードウォーク)が整備されており、根元を傷つけずに間近で観察できるよう配慮されています。
横たわる牛のような樹形
船引神社の宮司によれば、この大クスの樹形は「ちょうど牛が横たわったように見える」とのこと。長く水平に伸びた支幹がゆったりとした姿を作り出し、見る角度によって表情を変えます。木道をゆっくりと歩きながら、さまざまな角度から眺めてみると、その造形美に新たな発見があるはずです。
狐が守った大クスの伝説
かつて財政難の時代、この大クスを伐採して樟脳の原料にしようという話が持ち上がったことがあったと伝えられています。ところが、伐採を予定していた前夜、神社の周辺で狐たちが大騒ぎを始め、村人たちはこれを神意と受け止めて伐採を中止したのだとか。地元の人々が今もこの木をどれほど大切に思っているかを物語る、心温まる逸話です。
珍奇な寄生植物・ヤッコソウ
大クスのある境内では、毎年11月中旬から正月頃にかけて、シイの根元に「ヤッコソウ」という小さな寄生植物が花を咲かせます。沖縄から九州・四国南部にしか分布しない希少種で、市の天然記念物にも指定されています。十字に対生する鱗片葉が「奴(やっこ)」の姿に似ていることが、その名の由来です。
船引神楽
春分の日や大晦日に訪れることができれば、宮崎県指定無形民俗文化財「船引神楽」を見学できる可能性があります。高千穂の夜神楽とは異なり、昼間に舞われる「春神楽(作神楽)」で、五穀豊穣と子孫繁栄を祈願して奉納されます。江戸時代中期にはすでに成立していたと伝わる、稲作文化と深く結びついた舞です。
周辺情報
清武町は宮崎市の南西部、清武川沿いに広がる農業地域で、大クスのほかにも見どころが点在しています。徒歩や車で少し足を延ばせば、幕末を代表する儒学者・安井息軒の生家「安井息軒旧宅」(国指定史跡)や、その隣に建つ「安井息軒記念館」を訪ねることができます。さらに「きよたけ歴史館」では、清武郷の歴史と文化を体系的に学ぶことができます。
もう少し範囲を広げれば、奇岩「鬼の洗濯板」で知られる青島や、城下町の風情が残る飫肥(おび)も車で十分にアクセス可能。清武の大クスを起点に、宮崎県南部の歴史と自然を巡る旅を組み立てるのもおすすめです。
Q&A
- 清武の大クスの樹齢はどのくらいですか?
- およそ900年と伝えられています。船引神社の創建(1087年)とほぼ同じ時期に芽吹いたと考えられており、平安時代末期から現在まで生き続けている巨木です。
- 幹の中の空洞に入ることはできますか?
- 現在は根の保護のため木道が整備されており、内部に立ち入ることはできません。木道上から空洞の様子を眺めることで、その大きさを十分に体感できます。
- 拝観料はかかりますか?
- 船引神社の境内にあるため、拝観は無料です。日中いつでも見学できますが、神社へのお賽銭やマナーへの配慮を忘れずにお参りください。
- おすすめの訪問時期はありますか?
- 通年見学できますが、新緑が美しい初夏や、ヤッコソウが花を咲かせる11月中旬~1月初旬が特におすすめです。春分の日には船引神楽が奉納されることもあります。
- アクセス方法を教えてください。
- JR宮崎駅からバスで約25分、東九州自動車道の清武ICから車で約10分、JR日豊本線の清武駅からは車で約10分の距離です。
基本情報
| 名称 | 清武の大クス(きよたけのおおくす) |
|---|---|
| 別名 | 八幡楠(はちまんぐす) |
| 指定区分 | 国指定天然記念物(昭和26年6月9日指定) |
| 樹種 | クスノキ(Cinnamomum camphora) |
| 推定樹齢 | 約900年 |
| 樹高 | 約35メートル |
| 目通り(幹周) | 12.25メートル |
| 根回り | 18メートル |
| 枝張り | 東西33メートル/南北27メートル |
| 所在地 | 〒889-1604 宮崎県宮崎市清武町船引6622(船引神社境内) |
| アクセス | JR宮崎駅からバスで約25分/東九州自動車道 清武ICから車で約10分 |
| 拝観料 | 無料(境内自由) |
参考文献
- 文化遺産オンライン「清武の大クス」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/192212
- 宮崎市「国指定天然記念物 清武の大クス」
- https://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/culture/art/207.html
- みやざき観光ナビ「【宮司が語る 参】 船引神社 田代敏徳 宮司」
- https://www.kanko-miyazaki.jp/shinwanofurusato/shinwa/trip/interview3
- みやざきの文化財情報「船引神楽」
- https://www.miyazaki-archive.jp/d-museum/mch/kagura/funahiki-movie.html
- 宮巡 ~神主さんが作る宮崎県の神社紹介サイト~「船引神社」
- https://www.m-shinsei.jp/m_shrine/船引神社(ふなひきじんじゃ)/
- JAPAN 47 GO「清武の大クス」
- https://www.japan47go.travel/ja/detail/e2e8f7c0-e44d-4761-98bc-9d714f74f3df
最終更新日: 2026.04.27