墓に横たえられた土偶

2000年(平成12年)の夏、八ヶ岳南西麓の標高約950メートルの台地で、一体の大形土偶が掘り出された。長野県茅野市の中ッ原遺跡である。土偶は墓と考えられる土坑の中に、右側面を上にしてほぼ真横に寝かされた状態で見つかった。全身がほぼ完存しており、これほど完全な姿で、しかも埋められたままの状況で出土する例は数少ない。

この土偶が作られたのは縄文時代後期、今からおよそ4000年前である。高さは約34センチメートル、重さは約2.7キログラムと、同時期の土偶のなかでは際立って大きい。頭部が逆三角形の板を顔に結びつけたような形をしていることから、「仮面の女神」の愛称で呼ばれている。

中ッ原遺跡では、1999年から2001年にかけて、農地基盤整備事業に先立つ発掘調査が行われた。台地の西端では縄文時代後期初頭の集落跡が、東側では墓とみられる土坑の群れと、それを囲むように建てられた住居跡が確認された。仮面の女神は、この東側の第70号土坑から出土している。胴体から右脚が外れた状態で見つかったが、調査の結果、これは偶然壊れたのではなく、人の手で意図的に取り外されたものと判明した。なぜ脚を外して埋めたのか、その意味は今も研究の対象である。

国宝に指定された理由

文化庁は2006年(平成18年)6月9日にこの土偶を重要文化財に指定し、2014年(平成26年)8月21日に国宝へと格上げした。茅野市にとっては、棚畑遺跡から出土した「縄文のビーナス」に次ぐ二件目の国宝である。現在、二体の国宝土偶は同じ尖石縄文考古館で見ることができる。国宝に指定された土偶は全国で五体しかなく、そのうち二体が茅野市に集まっている。

仮面の女神には、ほかの土偶と区別される特徴がいくつもある。縄文時代後期前半に流行したハート形土偶の系譜を引きながら、同類のものより格段に大きい。土器と同じように粘土紐を積み上げて作られているため、内部は空洞になっている。胴部には細やかな文様が施され、脚は磨き上げられて滑らかに仕上げられている。この規模の土偶が、ほぼ完全な姿で、しかも埋納された状況のまま記録された例は珍しく、縄文土偶を理解するうえでの基準となる資料として扱われている。

見どころ

間近で見ると、まず顔に目がとまる。細い粘土紐が顔の上部にV字形に貼り付けられており、眉を表したものかとも考えられている。その下には、鼻の穴と口が小さな穴で表現されている。横や後ろから眺めると、人の顔というより、平たい仮面を取り付けたかのように見える。愛称の由来はここにある。

胴体に施された文様も見ものである。渦巻きや同心円、たすきを掛けたような線が体を巡り、張り出した腰と太く丸い脚が全体を支えている。下半身には女性器がはっきりと造形されており、女性を表した姿と見る研究者が多い。縄文の祭祀のなかで、神に代わる役割を担った女性の像と考える見方もある。文様のない脚は、黒く光るまで丁寧に磨かれ、上半身の密な装飾とよい対照をなしている。

尖石縄文考古館では、この土偶を全方向から見られるように展示している。ケースの周りをゆっくり一周してみたい。国宝の指定には、近くの土坑から見つかった土器8点が附(つけたり)として含まれており、これらも土偶とともに並べられている。

周辺の見どころとアクセス

考古館は特別史跡の尖石遺跡に隣接し、復元された縄文集落のある与助尾根遺跡へも歩いてすぐである。半日かけてゆっくり回るのにちょうどよい。茅野市の二つの国宝土偶はいずれもこの館にあり、縄文のビーナスは専用の展示室で、仮面の女神は附の土器8点とともに展示室Bで公開されている。

仮面の女神が出土した中ッ原遺跡は、考古館から車で10分ほど、ビーナスラインから少し入った花蒔地区にある。史跡公園として整備され、駐車場も備わっている。考古館へは中央自動車道の諏訪インターチェンジから車でおよそ25分。車を使わない場合は、JR中央本線の茅野駅からバスで約20分だが、便数が少ないため、出かける前に時刻表を確かめておくとよい。

Q&A

Q仮面の女神とはどのような土偶ですか。
A縄文時代後期、約4000年前に作られた大形の土偶です。長野県茅野市の中ッ原遺跡から出土しました。顔が逆三角形で、仮面をつけたように見えることから「仮面の女神」と呼ばれています。
Qなぜ「女神」と呼ばれるのですか。
A下半身に女性器が造形され、女性を表した姿と考えられているためです。このような大形で丁寧に作られた土偶は、縄文の祭祀で神に代わる役割を担った女性を表したと見る研究者もいます。「女神」は現代につけられた愛称で、当時の呼び名ではありません。
Qどこで見られますか。
A茅野市尖石縄文考古館の展示室Bで、実物が常設展示されています。国宝指定に含まれる土器8点も一緒に並べられています。
Q「縄文のビーナス」とは何が違いますか。
Aどちらも茅野市の国宝土偶ですが、出土した遺跡も時期も異なります。縄文のビーナスのほうが古く、丸みのある抽象的な形をしています。仮面の女神はより大きく、内部が空洞で、仮面のような顔に特徴があります。
Q出土した場所を訪ねることはできますか。
Aできます。中ッ原遺跡は考古館から車で10分ほどの場所に史跡公園として整備され、駐車場もあります。ただし土偶そのものは考古館に収蔵されています。

基本情報

名称土偶/長野県中ッ原遺跡出土(仮面の女神)
所在地長野県茅野市豊平4734-132(茅野市尖石縄文考古館)
指定区分国宝(考古資料)
指定年月日重要文化財 2006年6月9日/国宝 2014年8月21日
員数1箇(附 土器8点)
時代縄文時代後期(約4000年前)
寸法高さ約34センチメートル/重さ約2.7キログラム
所有者茅野市
公開茅野市尖石縄文考古館 展示室Bで常設展示

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 土偶/長野県中ッ原遺跡出土
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/00011237
茅野市 国宝「土偶」(仮面の女神)
https://www.city.chino.lg.jp/site/togariishi/1754.html
茅野市尖石縄文考古館 開館時間・休館日・観覧料
https://www.city.chino.lg.jp/site/togariishi/1795.html
日本遺産ポータルサイト 土偶「仮面の女神」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/3851/

最終更新日: 2026.06.09