間口二〇メートル ― 名主の家の寸法
旧平田家住宅は、山梨県北杜市小淵沢町にある十七世紀後期の民家で、平成元年(1989年)9月2日に国の重要文化財に指定された。
文化庁の台帳が記す構造は、桁行19.7メートル、梁間10.9メートル、入母屋造、東面に土庇を付し、屋根は茅葺。江戸中期の農家として間口約二〇メートルは破格である。道路から敷地に入り、屋根の稜線を目で追うと、その数字が体感に変わる。
平田家は巨摩郡松向村の名主を仁科家と交代で勤めた家柄で、武田家臣・山田但馬守の末裔と伝える。寛文6年(1666年)の検地帳では村内で抜きんでた土地持ちであり、延宝8年(1680年)に没した先祖は同村の東照寺開基に関わったとされる。この規模の材木を揃えられた背景は、そのあたりにある。
指定名称には注意が要る。文化庁は「旧平田家住宅(山梨県北巨摩郡小淵沢町)」と旧郡名を括弧書きで添えて登録している。全国の同名物件と区別するための表記だが、北巨摩郡小淵沢町は平成18年(2006年)に北杜市へ合併して消滅したため、指定名称と現住所が食い違って見える。指す建物は同一である。
古式とは何を指すのか
民家の年代判定は、棟札の日付よりも構法の癖を読むところから始まる。この家には、古い癖がいくつも同居している。
外廻りと部屋境の柱が一間(約1.8メートル)間隔で立ち、開口部が少ない。後の時代の大工は柱を間引き、壁を開くことを覚えるが、十七世紀の大工はそうしなかった。密に立つ柱と閉じた壁面は、年代の古さを示す指標として最も分かりやすい部類に入る。内部では土間が当初きわめて広く取られ、床上部に五室が並んだ。土間上部には天井を張らず、太い梁を組み上げた小屋組をそのまま見せていた。
後世、土間の一部に部屋を設ける改造が加えられ、当初の姿は見えにくくなった。大規模な農家にはよくある経緯である。文化庁の評価が重視したのは、その改造が可逆であるという点だった。当初の柱や梁など主要部材がよく残るため、建築当初の形式への復原が可能とされる。単に古いのではなく、資料として読み解ける。山梨県下に十七世紀の民家がこの規模で残る例は乏しく、甲斐の山間盆地における上層農家の暮らしを実証する遺構として評価された。
移築復原と、燻し続ける囲炉裏
現在地は建築当初の敷地ではない。平田家はもと本村の地蔵堂前に屋敷を構えていたが、水利の便を求めて移り住んだ。移住は寛文6年(1666年)以前とみられている。
指定を受けた平成元年、平田長門氏から当時の小淵沢町へ住宅が寄贈された。国の指導のもとで解体工事が行われ、平成3年(1991年)から平成4年(1992年)にかけて現在地で復原工事、続く年度に防災工事が実施された。公開の開始は平成4年である。平成18年の合併により、所有・管理は北杜市に移った。
入口をくぐって最初に来るのは装飾ではなく寸法である。格天井もなければ彫刻欄間もない。見るべきは頭上の仕口と、足元に広がる土間の面積そのものだ。屋内には農具や民具が展示され、住宅の下手には旧小淵沢町郷土資料館の建物が同じ敷地内に建つ。
冷えた朝に訪れると、もうひとつ気づくことがある。土間の囲炉裏には火が入れられている。煙は意図されたもので、小屋組を抜けて茅を乾かし、虫を追う。茅葺屋根を傷めるのは雨ではなく、湿気と虫害である。囲炉裏を見るより先に匂いで分かるはずで、見上げた茅の裏は、長年の燻蒸でしか出ない黒い艶を帯びている。
訪ねるための実際
JR中央本線小淵沢駅から徒歩約10分。特急停車駅なので、車を持たずに東京から日帰りで組み込める距離にある。観覧料は一般・高校生以上210円、小中学生100円、未就学児は無料で、20人以上の団体はそれぞれ100円・50円となる。開館時間は9時から17時、入館は16時30分まで。
休館日は少し込み入っている。通年では火曜と水曜、加えて休日の翌日、および12月28日から1月4日まで。冬季期間、おおむね11月中旬から3月上旬にかけては休館日が月曜から木曜に拡大し、開いているのは金・土・日の三日間になる。寒い時期の訪問なら0551-36-2142へ事前確認しておきたい。北杜市は当住宅の月別カレンダーをPDFで公開している。
外観・内部とも撮影の制限は特に告知されていないが、屋内は暗く、囲炉裏の煙がレンズを曇らせることがある。北杜市考古資料館や浅川伯教・巧兄弟資料館など市内の他館も観覧料・開館時間がほぼ揃っており、一日でまとめて回る組み立てがしやすい。
Q&A
- 旧平田家住宅は見学できますか。観覧料と開館時間は?
- 北杜市の資料館施設として公開されています。開館は9時から17時(入館は16時30分まで)、観覧料は一般・高校生以上210円、小中学生100円、未就学児は無料です。
- 旧平田家住宅へは小淵沢駅からどう行きますか。
- JR中央本線小淵沢駅から南へ徒歩約10分です。通りに面して大きな案内看板が出ています。中央自動車道を利用する場合は駐車場があります。
- 旧平田家住宅の休館日はいつですか。
- 通年は火曜・水曜、休日の翌日、12月28日から1月4日です。11月中旬から3月上旬頃の冬季期間は月曜から木曜が休館となり、開館は金・土・日に限られます。
- 旧平田家住宅は建てられた場所に建っていますか。
- いいえ。平成元年の指定後に解体され、平成3年から4年にかけて現在地へ移築復原されました。当初の敷地は同じ小淵沢町内の別の場所です。
- 旧平田家住宅の屋内が煙っているのはなぜですか。
- 茅葺屋根を保存するため、土間の囲炉裏で火を焚いて燻蒸しています。煙が小屋組を抜けることで茅の湿気を飛ばし、虫害を防ぐ、茅葺建造物で広く行われている手法です。
基本データ
| 名称 | 旧平田家住宅(山梨県北巨摩郡小淵沢町) |
|---|---|
| 所在地 | 山梨県北杜市小淵沢町7761番4 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/近世以前・民家 |
| 指定年 | 平成元年(1989年)9月2日/指定番号 02226 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行19.7メートル、梁間10.9メートル、入母屋造、東面土庇付、茅葺 |
| 所有者 | 北杜市 |
| 公開状況 | 一般公開。9時から17時(入館16時30分まで)。休館は火・水、休日の翌日、12月28日から1月4日、冬季は月から木。観覧料一般210円。電話0551-36-2142 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)旧平田家住宅
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/904
- 文化遺産オンライン 旧平田家住宅(山梨県北巨摩郡小淵沢町)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/121714
- 北杜市 北杜市の資料館(開館時間・休館日・観覧料)
- https://www.city.hokuto.yamanashi.jp/docs/1638.html
- 北杜市 平田家住宅 施設ページ
- https://www.city.hokuto.yamanashi.jp/docs/4774.html
- 北杜市 北杜市の文化財一覧
- https://www.city.hokuto.yamanashi.jp/docs/1932.html
最終更新日: 2026.08.11